第14話 魔物が現れた
ナッタジ村を抜け、領都へと進む。
しばらくは街道と言っても、森の中。
やっと、馬車が行き交うぐらいの幅の赤い土道が続く。
馬車で1時間ぐらいごとには、少し広くなっているところもあり、旅の途中の休憩場所や、早い馬車に抜いて貰うために避ける用に、使われる。
また、脇道から奥に行くと、村や集落がある、そんな分かれ道もたくさんある。
森の中は、危険だけど、恵みもあるから、それを目当てに開墾する集団もあるし、領主様の命令で、開墾する人々を集める場合もある。
大きな休憩所なんかは、近くの村から食べ物や薬草、簡単な武器なんかを売りに来ているところもあるよ。そういう所は、ちょっと歩くと、水場がある場合が多い。
ゆっくりと森を進む3台の馬車。
森を切り開いた道だから、すぐそばまで魔物の生息圏だ。
でも、魔物も命がけだから、土道の所は危険だ、って思ってる。
道を外れなければ、複数の馬車に襲いかかる魔物も少ないんだ。
襲いかかってくるとしたら、そんなこと言ってられないぐらいにお腹がすいているか、人間なんて弱い獲物だ、と考えるような強い魔物ぐらいだろうね。
実際、徒歩の旅人はかなり危険なんだ。ゴトゴトという大きな音を立てて進む馬車、しかも複数になると、魔物達も遠くからその存在に気づいて近寄ってこないけど、徒歩だと、おいしい獲物、って思って襲われることも多い。
僕は、不謹慎だけど、何か魔物が出ないかなぁ、とぼんやりと思いながら、僕のことをああだこうだと嬉しそうに語る子爵とママの声を頑張ってシャットアウトしていたんだ。
ちょっとぐらい強いのが良いなぁ。
こういうのをフラグっていうんだよね、うん、知ってる。
「ジンバだ!」
その時、シューバ担当の、セイ兄が、突然叫んだ。
ジンバ。この辺りに出るものとしては、かなり手強い魔物だ。
でっかい猿みたいな魔物で、うっそうとした森に住むからか、緑の毛で覆われている。目がでっかくて、そうだなぁ、前世で言うリスザルに似てるかな?これが手のひらサイズならとってもかわいいと思うけど、2メートルはあるから。
体はでかいけど、素早い。
そして、緑の体毛にふさわしく、とこの世界の住人なら思うように、風の刃を飛ばしてくる。しかも、この辺りに生えている、木の葉っぱを風の刃で飛ばしてくるのが特徴だ。木の葉っぱって言ってもあなどれないよ。こんな森の中に生えているのは、魔力をいっぱい含んでいるから、固くて丈夫。ジンバが飛ばしてくるのは、そういう危険な葉っぱを選んで飛ばしてくるもんだから、当たれば人間なんて、簡単に首が飛ぶ。僕なら、胴体真っ二つ。
セイ兄の、「ジンバだ!」の声と共に、3台の馬車はできる限りくっついて、と、同時にママが得意の土魔法で、その付近を覆った。
ママがそうするのを知っていた僕たち、つまり中にいた、僕、ミラ姉、ゴーダンは、結界が完成する前に、馬車から飛び出した。
「ダーは、馬車を警護。ミランダ行くぞ!」
と、ゴーダンが叫んだけど、
「ねぇ、僕にやらせて!」
ゴーダンにお願いする。
本当はリーダーの命令は絶対遵守。みんなの命がかかってるんだから、勝手をしちゃいけない。そんなこと、僕だって分かってる。普段だったら、僕だってこんなこと、言わないんだけど・・・
正直、ストレスでおかしくなりそうなんだ。お願い、僕を暴れさせて。祈る気持ちで、ゴーダンを見つめる。
ゴーダンは一瞬、ためらったんだけど、僕のこんな気持ちを分かってくれていたのか、軽くため息をついて、ミラ姉と、僕をスイッチさせてくれた。
そんなやりとりを見ている、子爵の兵士さんたちは、目を白黒させて、なんか言ってきてるけど、そんなの知らない。
僕は、嬉々として、やつらの前に躍り出た。
結界の役割を果たす土のドームの外は、シューバから降りた、セイ兄とヨシュ兄だ。
乗っていたシューバはドームが完成する前に、中に入れていた。
だから、今、ドームの外にいるのは、この二人と僕とゴーダンだけ。思いっきり暴れても、うまくさばいてくれる頼もしい仲間だけだ。
僕は、自分の剣を軽く持ち、それを魔力集中の杖とする。
ジンバは小さな群れだった。
全部で、6頭。
1頭はまだ子供かな。魔力が大きいと毛の色が濃いのは人間も魔物も一緒。でも違うのは、人間は大体産まれた時にその濃さがある程度固定されるけど、魔物は長く生きれば、魔力を蓄積して、魔力量も多くなるし、毛も濃くなる。全部が全部そうじゃないけど、ジンバみたいに毛に覆われている種類は、そういう場合が多いんだ。
で、6頭のうちの1頭はとりわけ、若葉のような緑だから、きっと子供だろう。体も小さくて、普通の人間の大人サイズだしね。
でも、その子供のジンバ。僕のことも子供だと思ったんだろう。僕に完全にロックオンしたよ。唇をむき出して歯を見せてる。威嚇してるつもり?そんなの全然怖くない。
プシュン!
軽い音がして、近くの葉を風で飛ばしてきた。
僕の顔2つ分ぐらいの、でっかい葉っぱ。
すごい勢いだけど、舐めないで。
僕は、口の中で「ファイア」とつぶやく。
ボッ!
葉っぱを軽く包むぐらいの炎が、剣から走る。
狙い違わず、葉っぱを一瞬で焼き尽くす。
勢いはそのままに、子供ジンバにクリーンヒット!やった!
ゴン!
後ろから頭上に衝撃が!イテッ!
ん?後ろ、から?
「森で火を使う奴があるか!」
疑問を感じると同時にゴーダンのデカい声。
もう側にはいなくて、他のジンバを切りつけてるけど、今の、剣の柄で頭、殴ったよね?あり得ない。戦闘中なのに。僕は涙目で、ゴーダンを睨んだ。
「ダー、よそ見しない!」
今度は、別の所からセイ兄の声。
もちろん、別のジンバと交戦中。
どっちが、よそ見してるんだか。
そう思いつつも、相手の子供ジンバに向き直る。
僕の炎に、胸を焦がしたジンバだけど、さすがに、タフ。
怒り心頭に、ウォー!って、でっかい声で唸りながら、僕にむかって、腕を振り上げつつ、走ってきたよ。
子供って言っても、僕と比べたら重量級。猿体型だけあって、普通の人間の大人の2倍は体重もありそう。
そんな緑の塊が、僕に向かって走ってくるよ。
怖くないけど、僕の剣じゃ止められないか。
そう思って、攻撃方法を考えてたら、ジンバがボテッと転けた。
ん?足下に良い感じの穴が。ヨシュ兄の援護か。さすがにうまい!
僕は、転けているジンバに一気に近づき、うなじのくぼみに剣をぶっさした。
骨を避けて、剣を力任せに刺すと、僕の力でもかなり深く突き刺さる。
「サンダー!」
僕は、剣を伝って電流を直接流し込む。
ビリビリビリ・・・
雷は、ジンバの体内を駆け巡り、プスプスと焦げた煙をあげた。
しばらくピクピクと、激しい痙攣を繰り返す、ジンバ。
僕は、剣を抜いて飛び退くと、しばらく剣を構えて、様子をうかがう。
やがて、ジンバはぴくりとも動かなくなったよ。
気がつくと、他の5頭は、とっくに倒されていた。
そして、僕の周りに、3人が集まってきている。
3人は次々に乱暴に僕の頭を無言で撫でた。
セイ兄が僕を抱き上げ、ゴーダンが少し入った森に、でっかい穴を魔法で開けた。
僕は抱っこされたまま、得意の重力魔法で、6頭の死骸を、ゴーダンの掘った穴に放り込む。穴は計算されたように、大きすぎず小さすぎず。
全部放り込むと、ゴーダンはまた、その穴を埋める。
最後にヨシュ兄が、整地をする。
そうしていると、結界のドームを解いたのだろう、馬車が、また、隊列を作って、僕らを待っていた。
ママは、僕らをニコニコしながら、迎えてくれる。
「ダー、すごかったね。上手だったよ。」
ママは、セイ兄から僕を直接抱っこで受け取って、ご満悦。
馬車には、ヨシュ兄とゴーダンが乗り込んできたよ。
僕もちょっと動けたから、少しストレス発散?
うーん。でも課題はいっぱいだね。
思いっきり魔法を打てれば簡単、瞬殺できるけど、周りを気遣うなら、まだまだ難しい。さっきの炎だって、ちゃんと周りに燃えない程度、と思って小さめに出したんだよ。って、嘘です。とっさに葉っぱなら燃やしちゃえって、打っちゃいました。葉っぱを囲むイメージはしたから、サイズはOKだったけど、ジンバまで飛んでっちゃって、焦がしちゃったよ。あれ、人間なら燃え尽きてるかも・・・ジンバがいないと木にも被害が?アハッ。まぁ、結果オーライってことで・・・
ともあれ、そっちから襲ってきたとはいえ、ストレス発散に付き合わせちゃってごめんね、ジンバ君。安らかに眠れ。
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