第13話 護衛依頼は精神的にしんどいよ

「ああ、何度見ても美しい。ほんとにいいよ。まさに至宝~」

 何度目になるのかな?

 僕は辟易して、窓の外を見る。

 子爵は、それでもずっとご機嫌で、僕の髪を褒め続けている。


 この世界では、髪の色で魔力量や質が決まることもあって、男女ともに髪を褒めるのは、容姿を褒めるよりも多いかもしれない。まぁ、髪と容姿セットでって場合も多いけどね。それに、子爵は程度が異常だとしても、濃い色ってだけで、すっごくきれいに見えるみたいで、容姿なんてのは、文化が大きく関わってくるんだよね。僕なんかは、前世の記憶がうっすらあるからか、産まれた時にそういう人が多かったからか、魔力量の少ない一般人に多いパステルカラーにあこがれがあるんだけどね。ふわふわに見えて、とってもかわいいと思うんだ。


 でもまぁ、飽きもせずに、うっとりと僕の髪を褒めてる子爵の、いっちゃってる目を見ると、ガリガリと神経を削られるよね。

 たださ、ママがね~。

 ママは、僕がほめられるのが大好き。

 子爵は、昔から一貫して、僕のことをうっとりと見るから、ママはあんまり子爵を嫌ってない。むしろ今は、奴隷解放運動をやってたりする子爵に好感を持ってたりする。しかも、魔力弱いのがコンプレックスで土地持ちでもない子爵だったってのに、そこそこのし上がってたぐらいには優秀なんで、ダンシュタの復興にも多いに役立ってるんだから、あんまりむげにも出来ないんだよね。

 で、結論。無駄にほめられ続けるのを僕がガン無視すれば、ママもハッピー、依頼者もハッピーでお仕事、順調。うん、僕頑張るよ。


 「ほんとにダーはきれいだねぇ。最近は生意気そうな顔をするようになって、それもまた魅力的だ。」

 「ダーは生意気じゃないですよー。頑張り屋さんなだけですよー。」

 「うんうん、そうだねぇ。頑張り屋さんだねぇ。頑張り屋さんで才能があって、きれいで、うん何時間でも見てられるねぇ。」

 「はい、何時間でも見てられますぅ。」

 なんだこれ?



 子爵の馬車に同乗者は、僕ら4人と子爵の他には一人だけ。ジャンていう執事で、元子爵の奴隷だった人。今は奴隷じゃなくなってるけど、右腕って言うか、そういう立場になってるし、奴隷時代から、子爵のことが大好きみたいだ。僕のことをものすごく子爵が大好きなのを見て、僕があまり好かれてなかったぐらいに、子爵に心酔していた。だから、僕はチラチラと、ジャンを見るんだけど、なんだろう?昔みたいに睨んでこなくなった。あまりしゃべる人じゃないし、態度もできるだけ出さないようにしてるみたいだから、本心は分かんないけど。


 「なんですか?」

 僕が何度目か、ジャンに視線を送ったとき、まさかのジャンから声がかけられたよ。

 「いや、別に。」

 僕が取り繕う様子に、ジャンは唇を歪めたよ。ひょっとして笑ったの?

 「以前の私は、あなたに失礼な態度を取っておりました。今となっては、おろかなことだと。」

 そんな正面から言われても。

 「許していただけるとは思いませんが、今の私は主人と同じく、あなた様を愛でております。」

 いや、お願いだから愛でないで。

 「正に宵闇の至宝。愛らしさと美しさの中に強さの同居する、そんなあなた様を見いだした主人の慧眼。これからは主人を見習いたいと思います。」

 「いや、そんなところは見習わないでよ。」

 顔をしかめる僕に、再び唇を歪めるジャン。

 これは新たな嫌がらせなの?それとも本心?いや本心でもあんまり嬉しくないや。


 そんな僕らのやりとりを見て、クックッと笑いを漏らすゴーダンの腹を、力任せに肘打ちした僕は、全然悪くないと思うんだ。

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