第12話 領都へ護衛開始!

 ママのひらめきとヨシュ兄の強いプッシュで、ダンシュタ代官ミサリタノボア子爵と、トレネー領主ワーレン伯爵への献上品という名のお土産は、チーズのスモークに決まったんだけど、その翌日は1日かけて、どのチーズをどのサイズでスモークにするか、という実験で終始したよ。ま、僕は旅用の変わり種を色々勝手に作ってたんだけどね。


 スモークって、燻す時間やサイズでも味が変わるんだね。商会の人達が色々な食材で試していく、って言ってた。一応、これはナッタジとしての極秘作業だけど、まぁ、村の人はみんな知ってる。ママの「内緒にして、ナッタジ村の名産にしようね。」という言葉に、村人も含め、従業員一同、ほくほく顔。ママを拝む人までいて、秘密は大丈夫、みんなしっかり守ってくれそうです。


 で、今朝は、燻製作業はお休みです。

 なんでかって?

 今日は依頼の開始日なんだ。

 今から、ミサリタノボア子爵を護衛して、領都に向かうんです。


 僕らは、荷物をほとんどリュックに放り込み、簡単な手持ちの袋を持って、冒険者装備に身を包んでいる。一応ダミーの軽いテントとか、食器類を入れたでっかい袋も用意。こちらは荷車に積む分だよ。

 今回、アンナはお留守番。ナッタジ家もナッタジ商会も、全権預けてます。

 そして、今ここにいないのは、ゴーダンとセイ兄。

 二人は子爵のお迎えに行ったよ。子爵用のお土産はすでにその時に持って行ってます。

 なんで、お迎え?って?

 ダンシュタと領都の間に、ナッタジ邸はあるんだ。

 二人なら、シューバを走らせると30分。

 町まで行って、子爵たちを連れてくるんだけど、子爵の乗るような馬車なら、普通の徒歩より遅い。重いし、人も荷物もいっぱい乗るからね。しかも、できるだけ客席を揺らさないように、ゆっくりと進むんだ。道だってこの辺りは土の地面だし、都会の近くになったら、石畳の街道があるとはいえ、どこもでこぼこだ。車輪にゴムがついてないこの世界の馬車は振動、ひどいんだよね。人や荷物の安全もあるけど、馬車自体、揺れで壊れやすいから、ゆっくりゆっくり進むことになる。だから子爵邸から早くても2時間、もしかしたら3時間ぐらいかかるかもしれない。

 それで、初めての休憩をナッタジ邸にして、残りの護衛メンバーである、僕とミラ姉、ヨシュ兄、ママは、ここから出発することになってるんだ。


 そんなわけで、子爵達に燻製がバレないように、今日は作業自体お休みです。だって、作業しちゃうと、煙が目に入っちゃうし、匂いも強いからね。

 そんなわけで、出発作業をしつつ、護衛対象を連れてくるゴーダン達待ちになってるんだ。



 子爵は3台の馬車を連ねてやってきた。

 1台はゴージャスな子爵用。

 1台は普通に使用人用。

 1台は、荷物用の幌馬車。

 それに、ゴーダンとセイ兄、その他4名のシューバに乗った兵士。

 彼らにはナッタジ邸の来客用広間で、子爵に献上したのと同じスモークチーズを中心に、お菓子や軽い食べ物、飲み物を用意して、最後の調整をしてもらう。


 本当は、僕らは僕らだけの馬車で行きたかったんだけど、それは先に断られている。依頼人の希望はできるだけ聞く、というスタンスの下、うちからは、シューバが2頭。これまた子爵の希望で、僕とママは、ずっと子爵の馬車に乗るらしい。あとは、護衛を兼ねて2人が同乗するように、とのこと。これは、一応、子爵が奴隷時代の元僕らのご主人様ってことで、僕ら二人だとメンバーが気に病むだろう、なんていう気を遣ってくれたから、らしい。本人が言わなきゃ感謝もするかもだけど、堂々と、「私の気遣いで・・・」なんて、言われちゃったら、「あ、さいでっか」としらけちゃうのは仕方ないよね~。

 まぁ、そんなこんなで、後の4人がローテーションで、馬車に同乗することになったよ。あ、ちなみに、同乗しない二人は、うちのシューバに騎乗です。

 そうそう、これは子爵達には内緒だけど、向こうに行ったら別行動で帰りは一緒じゃないかもしれないし、自分たちだけの馬車は必要だよね、と、リュックの中に、ちゃんと入ってるんだ、僕らの馬車も。



 30分ほど、ナッタジ邸で休憩&最終打ち合わせを終えた僕たち。

 さぁ、久しぶりの(ほぼ)全員でのお仕事だ、がんばろう、おーっ!

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