第11話 スモーク、スモーク、スモーク!
僕らが屋敷に戻ってくると、家畜小屋の方が何やら賑やか。
そのまま、荷車を押して、家畜小屋へ直行したよ。
新しく作ったスモーク小屋の前に、人が集まっていて、テーブルや椅子も用意しているみたい。
テーブルの上には、スモークされたものと、これからスモークしようとしているものが、整理されて乗らせている。
何人かは、スモーク済みのものを試食中なのかな?
僕らは、ゴトゴトと、荷車ごとそこに近づいた。
「はいはい、まずは、瓶を洗うのが先。坊ちゃまは手を洗って、こっちに参加しておくれ。」
集まった人の中の誰かが、そんな風に言ってきた。
人に隠れてて誰が言ったのかわかんないけど。
「実験、やってんの?僕も入っていい?」
「後で、ちゃんと報告書を出すなら、今から入っていいですよ。」
いつのまにかヨシュ兄がそばにやってきて、そう言った。
「わかった。あ!」
「今度は何ですか?」
「昨日狩ってきたの、リュックに入れたままだった。」
確か、先にザザの木だけは、言われて出したけど、そのまま追いやられたから、獲物はまだそのままだ。
「そういや、血抜きもしてなかったな。先にそれするから、解体所の方に回って。」
セイ兄も近くにやってきて、そう言いながら、僕の口にできたてのスモークハムを入れてくれた。これは鳥系のハムかな?さっぱりしてておいしいね。
僕は、二人に頷くと、いつもリュックを置いている、家畜小屋の物置き場に走ったよ。
僕のリュックはいわゆるマジックバッグ。ひいじいさんから受け継いだものなんだ。実は、中はAIみたいな精霊が管理している。この精霊と契約することで、異空間に出入りできる、なんていう、まぁそんな機能で、実は僕はこの中に入ったことがある。精霊に連れ込まれた形なんだけど、そのときに、このバッグの後継者、今の所有者として登録されたんだ。
この中は、別の次元になっていて、どっちかっていうと宇宙空間に近い。入れれば真空パック状態で、入れたときのまま保存される。
だから、生きたものをいれれば、即、死んじゃうし、暖かいものでも急速冷凍しちゃう。精霊の力で、薄くラップみたいに保護されるから、水分や油分がとんだり、冷凍焼けみたいなのはないのが不思議機能。しかも、リュックから出すときには、精霊さんの力で、元の状態に戻してくれる。温度とか、ね。でも死んだものは生き返らないから、生物不可、とだけ覚えていれば良いかな?道具は使い方さえ分かっていれば、仕組みは分からなくてもいい。それは、前世でも現世でも同じだね。
とにかく、このリュックは仮に盗まれても、入れたものが出せるのは僕だけだし、中には精霊さんがいて、彼女(?)がエマージェンシー時は、僕に呼びかけられるから、無造作に、誰でも持って行ける場所に置いているんだ。
ここに置いておくと、僕が持って出るときに、必要なものを誰かが入れておいてくれる。ありがたいね。
ちなみに、だけど、精霊さんはバッグに入れた時のままの状態で保存してくれる。たとえば配達箱にミルクが入ったミルク瓶を入れると、配達箱ちょうだい、と言うと、そのままミルクの入った配達箱を出してくれるんだ。僕はこれを念話で行うから、あれを出そう、と思うと勝手に気持ちを読んで、出してくれる。とっても役立つ精霊さんだけど、怒らせると怖いよ。どんな大きなものでも異空間に閉じ込められるからね。袋に触らなければ、大丈夫だけど、触ったら精霊さんの意志でも取り込めちゃう。僕も、何回か、怒った精霊さんにやられたよ。あれ、無茶苦茶苦しい。僕の場合は死ぬ前に、保護してくれるけど、知らずに取り込まれたら怖いよね。リュックを使っていれば、こんな風に怒って取り込んだりはしないから、適度に使うのがご機嫌をとるコツです。
僕以外に取り込まれた人?お馬鹿な泥棒さんがいたかどうか、聞くのが怖いから、聞いてません。
こんな、僕の相棒でもあるリュックを持って、いざ解体所へ。
セイ兄ほか数名の、ナッタジ肉体班(うそです。そんな班はありません)が、準備万端、スタンバイ中です。
獲物の種類とか量は、いっしょに行ったセイ兄が知ってるから、そのへんも踏まえての準備、さすがだね。ピノやテツボ、そのほか獲ってきたものを僕は、どんどん出していき、出すそばから、血抜きに回される。あ、ちなみにこの段階では凍ってないよ。さっき言ったように、入れたときと同じ状態で出してくれる、ザ・精霊クオリティ。
血抜きが済んだ獲物は、流れ作業で、解体。どんどんお肉のブロックを作っていくよ。そして、時間を見繕ってやってきたのは、料理担当の面々。
熟成しなくてもいい肉や料理法をああだこうだいいつつ、チョイスして、台所へ。僕は、彼らについてキッチンに行くことにした。
と、おっと、ちゃんと全部出してから行くから、セイ兄、襟首つかまないで!
やっと、キッチン組に合流した僕は、みんなと色々話し合ったんだけど、ボイルとロースト、どっちがいいかな?味付けあってもいいかもね。
香辛料、いろいろ試そうか?
みんな料理の腕がいいから、僕が案だけ(残念ながら、まだちゃんとした料理はできないんだよね。)出しても、いろいろ作ってくれる。こういうのは、ナッタジ本体の許可がないと、なかなか出来ないよね。僕個人や、子供達だけだと、知恵も技も足りないのが身に染みます。
さてさて、大試食会!
チーズや各種ハム・サラミ。根菜、ピクルス、果てはパン。いろんなお肉のボイルにロースト。煮込み料理から汁を飛ばしたもの。
噂を聞きつけた、商会の人や、村の人まで集まってきて、お庭は、ほぼほぼガーデンパーティです。
こら、そこ!誰だ、酒を持ち出したの!
どうやら、スモーク料理、酔っぱらい達の理性を飛ばす麻薬があるらしい。はぁ。
「第一弾としては、チーズだけでいいかもしれませんね。」
ヨシュ兄が、まじめに試食をしながら言ったよ。
「私は、ハムとかサラミもありだと思うけど。量も用意できるでしょ?」
とは、ミラ姉。
おや?二人は真面目に話していると思ったけど、二人ともグラスを傾けてるよね。
「おや、ダー君も飲む?」
と、ミラ姉は、しらふのふりして僕に進めてきたよ。ダメでしょ。僕5歳だよ。この人は、酔ってもあまり変わらないからタチが悪いです。でも、ハム系がすきなのは分かったよ。
「ダー、これ食べた?」
そこへママが色々なチーズを持ってやってきたよ。
「どれが好き?」
「こんなに色々あって、全部チーズ?」
「うん。まずは乳製品がいいと思って。」
「なるほど。さすがミミです。今回はチーズだけでいきましょう。作り方は秘匿して、新しい製法で作ったチーズとして献上します。いろいろ応用ができる、という可能性はちらつかせない方が良いでしょう。」
「ヨシュアがそういうなら、それでいいけど。私はハムが食べたい。」
ミラ姉が、わがまま言ってる。はい。酔っ払い確定です。
「分かってます。では、今度の遠征で欲しいものは、とりあえずダー君の作った燻製器で作って貰ってください。」
「え?僕?」
「はい。ちなみに私はピノの耳を希望します。」
「えー!」
こうして、昼前から始まったスモーク作りは、できるそばから消費され、夕方にはたくさんの酔っ払いが転がっていたよ。
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