第10話 一人でできても、一人でやらなくてもいいんだよ
僕は、全速力で走って、後10分か15分で町に着く、という辺りまで行ったとき、目の前に見覚えのある集団をとらえた。
ナザたち、いつもの5人組に、クジ、セオ、ニーの少し年長チームの計8名。いずれも家畜奴隷時代に、僕の世話をしていた、と、言い張るお兄ちゃんお姉ちゃんだ。
「おーい!」
僕は、みんなに大声で呼びかけながら、手を振った。
はじめに気づいたのは、最後尾にいたポムだ。
ポムがびっくりして僕の名を呼ぶのを見て、みんな止まってくれたよ。
「坊ちゃま、急に止まったらだめですよ。」
と、世話焼きのニー8歳が言う。彼女は、僕ら6人の世話を一番した、と譲らない、3つ上のお姉ちゃん。
僕は、その場で腿上げするみたいに、走るフォームをゆっくりと落としながら、みんなの様子を見た。
彼ら8人は、どうやら人力で引っ張るタイプの荷車に牛乳を積んで運んでいるようだった。
子供の背たけに合わせて、かなり低いもので、荷台もそんなに大きくないものだ。必要最小限、ていうのかな?おそらく配達箱がうまく入るように調整したお手製のものなんだろう。
この荷車の前の曳き手に、クジとセオがいて、メインで引っ張ってたんだね。そして後ろからニーとポムが押していたんだ。そして、右側を補佐する感じでナザとエノ。左がミヨとジク。
僕が言うのもなんだけど、子供達がみんなで協力して、しっかり働いてます、な感じ満載です。
「ダー坊ちゃまよぉ。なんだい?監視業務ってやつかい?」
ヒヒヒと、笑いながらクジが言う。
クジはゴーダンに憧れていて、将来はゴーダンみたいになる、と言ってるんだ。冒険者になりたいのかな?て聞いたら、将来ゴーダンのいる僕の筆頭保護者の位置に座るんだ、だってさ。どういう位置かは、よく分からない。
「やっぱり、ヨシュア様はすごいねぇ。本当にダー坊が、ダンシュタに着く前に追ってきちゃったよ。」
そう言うのは、最年長12歳のセオだ。セオはヨシュアみたいにカゲノサンボーてのになるらしい。意味は、本人も分かっていない。
「え?ヨシュ兄は、みんなにも僕が来るって言ってたの?」
「血相変えて走ってくるって言ってたぜ。」
「でも、手伝うって言っても絶対荷車やミルクを触らせちゃダメだって。」
次々に口を出して来たのは、ナザとエノ。
えー、でもこの荷車、なんか良いよね。僕、初めて見たし、ちょっと触りたいな。そう言いつつ、手をのばしたら、ペチッてミヨに手をはたかれたよ。ねぇねぇ君たち、坊ちゃまとか言いつつ、リスペクトとかないよね、まったく。
僕の触りたいオーラを受けたみんなは、まるで盗賊に襲われた荷馬車を守る冒険者みたいな勢いで、僕に敵対したよ。はぁー。お触りは、うちに帰るまで、我慢するしかないようです。グスン。
そんなおふざけをしながら、門に到着した僕たち。
いつもの通り、並んでる人達を横目にVIP用門へと急ぐ。
時折、子供が間違ってると思って、こっちだよ、なんて声をかけてくれる人もいるけど、「お構いなく~」と笑顔で答えるのはいつもと同じ。大体は僕の髪を見て、貴族の子供と勘違いしてくれるから、ほぼ問題は起こらなかった。
けど、今回は、さすがに荷車を引っ張っての行軍。悪目立ちかな?
VIP門から慌てて、門兵さんが出てきたよ。
「君たち!って、なんだ、坊ちゃまか。今朝はえらく面白い入場ですね。」
門兵さんは、みんな知り合い。だから、僕だけじゃなくて、今日来たメンツをこの人もみんな良く知ってくれている。
「あ、やっぱり目立っちゃいましたか?あっちに並んだ方が良かった?」
僕は、徒歩の列を指さして言った。
「いや、別にいいよ。ていうか、坊ちゃまをあっちに行かせたら、俺の首が飛ぶわ。」
いや、さすがにそんなことないでしょ。本当かどうか今度試してみようかな?
「ちょっと、坊ちゃま。つまんないいたずらはよしてくださいよ。」
気持ちが顔に出ちゃったかな?メッといいながら、門兵さんは苦笑しつつそんなことを言った。
まぁ、そんな話をしながらも、僕らは荷車ごと、ノーチェックでいつもの通り町に入ったんだ。
「ねぇ?僕とかなしで、こんな形で荷車入れてもらえるのかな?」
並ばなきゃならないなら仕方ないけど、それなら、みんなに周知しとかなきゃならないしね。
「それは、宵の明星さんが誰もいない、ってことですかい?」
「うん。ていうか、僕なしでこのメンバーとか・・・」
「うーん。個人的には大丈夫だと思いますが、上にも確認してもらった方が・・・」
「そっか。分かった。」
この後にでも、大人に聞かなきゃね。
荷車をナッタジ商会に止めたクジたちは、それぞれ自分の担当を担ぐと、配達に行ってしまった。僕の分は、ない。
「ダー坊ちゃまよぉ。絶対荷車に触るんじゃないぞ。クルスさん、絶対こいつに触らせないでくださいね。」
番頭のクルスさんの方が、クジの中では格上なんですね、はい、分かってましたよぉ。あ、クルスさんって、今このナッタジ商会に住み込みで働いて番頭をしている優しいお兄さん。アンナが元々ナッタジで働いていた有能な人を、あちこち捜し回って、お願いして復帰してもらったんだけど、この人もその一人。例のひいじいさんに育てられた優秀な人材の一人でもあります。
「やっぱり、VIP門から入れて貰った方がいいよね。普通に並ぶと時間が計れないし、少しでも早く届けた方がミルクの鮮度からしても、いいもんねぇ。」
僕はみんなが出払ってしまったあと、クルスさんとお茶をしながら、さっき門兵さんとした話をした。
「ダー様は、本当になんでもしようとしますねぇ。」
クスクスと上品に笑いながら、クルスさんは言った。
「ちなみにその件はすでに解決済みです。」
「え?」
「ダー様なしの牛乳配達の話が持ち上がった時に、すぐにゴーダン様がお代官様に申し立てられました。今回は、お代官様のご依頼で宵の明星のご威光をうけることができなくなった、ということで、お戻りになられるまでは、特例で牛乳配達の荷車はVIP門を通れることになっていますよ。」
「えー、そうなんだ。全然知らなかったよ。」
「ダー様はなんでも自分で思いついて、勝手にやっちゃいますからね。これは私から聞いた、というのは秘密にしていただきたいのですが・・・」
クルスさん、声を潜めて顔を近づけてきた。なになに?内緒話?
「たまには好き勝手にやられて、自分の段取りがぶっ壊される気持ちを味合わせなきゃならん、という複数人の企みがあるとか、ないとか。」
ハハハハ。
脳裏に何人か浮かびました。その企みに、あなたも入ってますよね?はぁー。
「君が、相談なしに動いてしまう、ということを想像して、先回りして動くのは、生半可な能力では無理だって、覚えておいてくださると、助かります。」
とまぁ、脱力することや耳の痛い話も多々あったけど、そんなことをしている内に、みんな1時間ほどで、無事配達を終えて帰ってきました。納品と同時に空き瓶を回収し、それを荷車に積み込みます。
同じ隊列で、僕は荷車から追いやられ、一人とぼとぼと荷車の後方をついていきます。
「なー、ダー?」
ナザが、そんな僕を見て言ってきたよ。
「今日見て、どうだった?」
「どうって?」
「そのな、ちゃんとできてたか?」
「まぁ、そうだね。」
「ダーはさ、何でも出来るだろ?なんだって一人でできる。」
「そんなことないけど。」
「いいから、聞けって。あのな、この牛乳配達だって、ダーなら一人でもっと短い時間でできるんだ。」
・・・・
「でもな、俺たちは8人で、時間だって30分も前に出発しなきゃならないけど、それでも、こうやって荷車作って、時間と人数集めればダーと同じことが出来る。」
「うん。」
「そりゃ、効率悪いかも知れない。でもこれを俺たちがやれば、ダーはその間、他のこと出来るだろ?そしたら、ダーはもっとすごいことが出来て、もっともっと、ミミ様といっしょにいられて、もっともっと自分のことできると思うんだ。」
・・・・
「なんでも一人ですんなよ。俺たちに出来ることは俺たちにくれよ。なぁ。」
なんだろう。一人で言って、感きわまっちゃってんじゃないよ。て、みんなおんなじ目で、僕を見てウルウルしてる。みんなで考えて、代表でナザが言ったんだね。
僕はやっぱり子供で、自分のことしか見えてなかったみたい。みんな僕のために一生懸命になってくれてるのにね。
僕は、どうやら人にとっても恵まれているようです。
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