第9話 牛乳配達はみんなで楽しく!
ダンシュタと僕らの住むナッタジ邸は、僕が走れば1時間ぐらいの距離。シューバって呼ばれる、この世界で馬みたいな動物がいるんだけど、シューバで全速力なら30分ぐらいかな。ちなみに商人の馬車はすごくゆっくりなので2,3時間かかる。馬車って結構速さに差があるからね。あ、ちなみにわかりやすく馬車って言ってるけど、正確にはシューバ車だよ。
ダンシュタは僻地の小さな町、と言っても、この辺りの村や集落を統治範囲とする代官が置かれている町だ。前世で言えば、中世ヨーロッパ的な石畳の町で、出入りのための門があり、門兵さんが出入りをチェックしている。これには徒歩ライン、馬車ライン、VIPラインがあって、普通は貴族がVIPラインを使うけど、Aランク率いる冒険者パーティである僕らはVIPラインから出入りできる。本来、パーティメンバーがAランクの特権のおこぼれを貰うには、そのAランクの冒険者が一緒にいないとダメなんだけど、僕らのパーティメンバーは、ダンシュタの冒険者として、Aランクがいなくても、同様のサービスが受けられることになってる。
といっても、本当はこれおかしいんだけどね。このダンシュタにも出張所みたいな小さな冒険者ギルドはあるけど、僕らのパーティはそこじゃなくて、領都トレネーのギルドに籍を置いてるんだから。まぁ、ダンシュタのは出張所でギルドとしてはトレネー支部だから大きくトレネーのギルドに所属していればOK的な説明をしている。
これ、なかなかに強引だなぁと思うよ、実際。だって、他のトレネーのパーティでこの扱いを受けているのなんていないと思うから。まぁ、そもそもA級の冒険者がゴロゴロいないから、誰も文句は言ってこない、ていうのが実情。
そして、これまた大きいのが、ママのナッタジ商会はダンシュタの一番の商会だから、そこの関係者は実質的にこの町のVIPとして扱って、機嫌良く商売して欲しい、というのがお偉い人の考えることなんだね。
まぁ、そんなことはいいや。
僕は、毎日体力作りを兼ねて、牛乳配達のために、屋敷からダンシュタへとランニングしている。牛乳配達は、体力作りができて、固定顧客が出来て、商人として顔を売れて、一石二鳥どころか三鳥も四鳥もあるすてきなお手伝い。
最近は、僕以外にも、子供達を中心に配達を手伝ってくれる従業員もいて。
嬉しそうに牛乳を運ぶ子供達の姿がダンシュタの町の新名物になるのも近いだろうね。
そんな楽しい牛乳配達、もちろん毎日のことだから、僕がいればチェックなしにVIP門からさっさと入れてくれるメリットは大きいかな。
そんな素敵な牛乳配達なんだけど、ここにきて一つ問題がある。牛乳って重いよね。瓶で運ぶんだけど、ランニングがてら、ナッタジ邸からダンシュタの町まで運べるのは秘密があるんだ。それは僕の持つマジックバック。リュック型のそれは、誰でも入れられて、保存も完璧なんだけど、出すのは魔力が登録された人間、つまりは僕だけなんだ。いつもはダンシュタに着いてから、僕がリュックから取りだした、配達用グッズをみんなに渡していたんだけど・・・
ほら、もうすぐ僕、依頼でこの町を離れるでしょ?そうなると、子供中心の配達メンバーで牛乳を運ぶのが難しくなっちゃう。うーん、どうしよう。
そんな風に頭を悩ませていたんだけどね、なんというか、みんなも考えてくれていたみたいです。
ゴーダンと、今後のことについて話し合った翌日。
僕はいつもの時間に牛乳をゲットしに家畜小屋へ行ったんだ。
いつもは、僕の行く時間に合わせ、煮沸済みの牛乳はきれいに瓶詰めされて、各人の配達箱に小分けされ、リュックに入れられている。とっても優秀な従業員たちです。あ、ちなみに配達箱って、ダンシュタについてから、各自バラバラに配達するんだけど、箱にヒモをつけて、首から被り、箱の中に牛乳を入れておく、売り子さんスタイルのものを僕が考案したんだ。考案、と言っても、前世の記憶を頼りに、牛乳瓶サイズで若干のクッション性を持たせただけの箱なんだけどね。
この配達箱は、配達する人の体格や体力を考えて、様々なサイズがあり、その日のメンバーに合わせて、主にヨシュ兄が個人別ルートを設定してくれてる。配達は僕が勝手にやり始めて、それに何人か付き合ってくれてるだけだから、そもそもちゃんとした仕事じゃない。やりたい人が参加する形なんだ。そんなわけで、配達メンバーも、人数も毎日変わるから、この配達担当を決める作業は大変だと思うけど、前日にメンバーを確定したらヨシュ兄に報告され、その日のうちに牛乳作成班に渡されてるらしい。ヨシュ兄も冒険者なのに、ほとんど商会の仕事ばっかりでごめんね。
まぁ、普段はそんな感じ。
なんだけど、その日、家畜小屋にやってくると、ニヤニヤしている従業員とヨシュ兄が、雑談しているのに出会ったんだ。
あれ?リュックは?それに今日行くメンバーは?まぁ、別に一人でも良いんだけど・・・元々一人で始めたのに、悪ガキどもが付いてくるようになったのが、このシステムの始まりだし。
「ヨシュ兄おはよう。リュックは?」
「おはようございます、ダー君。今日はリュックはありませんよ。」
「?」
「坊ちゃま。坊ちゃまがいなくても大丈夫なように、みんなで考えて、今日は試運転でさぁ。」
元家畜奴隷仲間のおっちゃんで、今はこのミルク部門のリーダーをしているベンさんが嬉しそうに言った。
「僕がいなくても?」
「そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。坊ちゃまが、遠出のお仕事もできるように、みんな一生懸命考えたんですから。」
そう言ったのは同じく元家畜奴隷のメレさん。
「えっと・・・」
僕は、不思議な感覚で、この状況を見つめていた。
元々は、僕が勝手に始めた牛乳配達。いつの間にか、そこに関わる人達がいっぱいできていて。
「ダー君は、なんでも一人でやりすぎです。商会のことは商会の人みんなでやるべきなんです。一人でやるのが親切に見えて、その人がいなくなれば立ちゆかない、なんて、本末転倒も良いところですよ。」
と、ヨシュ兄。
ごもっともです。けど、これ、僕の勝手にやり始めたことなのに、商会の仕事にしちゃっていいんだろうか。仕事が増えて、迷惑なんじゃないかな?
「坊ちゃまは、いい仕事を作ってくれて、本当にやりがいがありますよ。」
僕の思いを知ってか知らずか、メレさんは、そんな風に言った。
「だから、もっともっと色々考えて、私たちを楽しませてくださいね。」
メレさんの言葉に集まってた人達が、みんなニコニコ頷いてるよ。
でも、どうやって運ぶんだろう。それが一番問題だと思うんだ。
「ダー君、様子が気になるなら、責任者として見に行ってはどうですか。ただし、問題が発生しない限り、見るだけですよ。手をだしちゃだめですからね。もし手を出したら、今日のスモークの実験も出入禁止です。」
「え?実験やっていいの?」
「ちゃんと今日の牛乳配達の確認ができたら、です。このやり方でいいか、改善点はないか、適材適所か。そういったことを僕に報告してください。その結果で、スモーク実験の許可をしましょう。」
「・・・アンナは?」
「大丈夫です。機嫌はなおってますから。こういう展開になるだろうと思って、アンナの許可も取ってますよ。」
「だからヨシュ兄、好き!」
「はいはい、わかりました。さっさと追いかけて、チェックしてきなさい。半時間ほど前に、みんな出発しましたよ。」
「分かった!行ってきまぁす!」
僕は、みんなに手を振り、あわてて、町に向かって走り出したんだ。
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