第7話 スモークは何が好きですか
僕らが、森から帰ると、家畜小屋の方がとっても賑やかだった。
行ってみると、僕が作った小さな小屋の横に普通に人が入れそうな小屋が出来ていて、屋敷で働く人のほとんどが集まってるんじゃないか、ていうぐらい。
ちなみに、この屋敷の住人は、結構多い。
屋敷、って言ってるけど、本邸以外にいくつか建物があるから、敷地内、って言った方が良いのかな?
まずは家畜を飼っている家畜小屋。
僕が産まれたのは、実はここで、人間も家畜同様、というか、家畜よりひどい扱いでたくさん住んでいた。
でも、今は、小屋自体も立派になった上、人間は住んでいない。
最初、ここに住んでいた人達が、申し訳ないから、と、本邸の方に住んでくれなかったから、まずは家畜小屋をきれいにして、充分人が住める環境を整えた後、少し離れた所に別邸を建てたんだ。
この別邸、もともとは寮みたいに、人が住める建物が建っていた場所に再築したんだ。僕のひいじいさんは、あちこちから行き場をなくした子供達を保護してたんだけど、その子供達のメインの住居がその別邸だったんだって。
上の方の階は、小さいながらも個室があって、プライバシーが保てるようになっていた。
下の方は共有スペース。小さな教室みたいになっていて、勉強を教えたり、訓練をしたり、と、まぁ、学校的な設備を作っていたらしい。他には食堂とか、男女別の風呂やトイレなんかもあって、この世界としては、ものすごく上質な私塾みたいだったらしい。子供達は、その興味や素質に合わせて、学びたいものを学ぶと、ナッタジ家の使用人になる者、商会で働く者、独立して冒険者や傭兵になる者、自分で商いを始める者、等々、旅立っていったんだそうです。
だけど、この建物、というか、そうやって学ぶ子供達が気に入らない人もいたんだ。単なる孤児院じゃないからね。普通の平民や、下級貴族なんかよりよっぽど立派な教育を受けさせて貰ってるんだから。しかも、ここの子をひいじいさんは、我が子と同様に可愛がってたんだって。ひいじいさんだけじゃなくて、ひいばあさんもまたその子供のおばあさんも、ここの子は家族だと所構わず主張していたそうなんだ。
これには、ある程度理由がある。
ひいじいさんは、誰彼構わず、ここに連れてきたわけじゃないんだ。自分の意見をしっかり持っていて、芯がしっかりしている子。しかも努力を惜しまない子。そういう子に教育を与えていったんだ。
普通じゃん?と思った?
この世界ではね、「自由意思」なんてのは育たないんだ。すべては産まれた時に決まっている。生まれと才能で、進む道は決まる。だから自分の考えをしっかり持つ、というのはレアな才能なんだ。貴族の子が貴族としての意識を持つとか、農民の子は農民として、誰に跪き、誰の命令に従うか、なんてことを自然に考えるから、それ以外の考え方なんてそもそも芽生える余地がない。
人に上下をつけ、自分がそのどの位置にランク付けされるか、常にそれを意識する、そんな世界なんだ。
だから、自分の力で自分の人生を決めて歩いて行く、なんてのは、普通の人には理解できない考え方。これを理解できた子、そもそもそんな意思を持ってしまった生きづらい子を、ひいじいさんはここで庇護してきたんだ。おかげで、僕の周りは自由人が多い。僕みたいに異世界の価値観から離れられない転生者を受け入れてくれる素地を作ってくれたひいじいさんには、でっかい感謝だね。
話がそれた。
このナッタジの屋敷のある敷地内には、昔、そう言った子供達のための施設があったって話だね。で、そもそもそう言った子達が主であるひいじいさんに特別可愛がられているのを気に入らない人達もいたって話。その筆頭がひいじいさんに番頭として仕えたカバヤという人物だった。
彼は、もともと別の地域で細々と商いをしている商人の子供だったらしい。上に優秀な(?)子供がいたことから、丁稚的な感じで、ナッタジ商会に修行に出されたんだって。そこで、一応本人的には一生懸命頑張って、ナッタジに尽くした、らしい。けど、主人が可愛がるのは、悪ガキども。しかも美人で才女のお嬢様に憧れていたけど、身分違いだからと、同じ使用人の気の良い娘を嫁にした自分に対し、何の才能もない(とカバヤは思っていた)冒険者なんてのを遊びをやってるだけの、顔だけが取り柄の男とお嬢さんは結婚してしまう。しかもそいつが、次のナッタジ商会の後継だなんて、主もふざけたことを言う始末。
そういう恨み辛みから、ナッタジ商会をかっさらったカバヤという男は、まずやったのは、恨みの象徴である、子供達の家を解体だったそうだ。
無事にナッタジ商会を取り戻した僕らは、その同じ場所に、ほぼ同じ造りの建物を、再築した。
そして、そこには、僕の大事な家族である、家畜小屋で共に寝起きした人達で、僕らの元に使用人として残ってくれた、元奴隷仲間達が住んでもらったんだ。
あ、それは当初の話ね。
他にも、家や商会の使用人で希望者は、ここで住んで貰ってるんだ。
ちなみに、僕の悪友・乳兄弟達も、ここに住んでいる。
てことで、僕らが森から帰ると、小屋作りや、その他諸々手伝ったであろう、みんなが、興味深そうに小屋を囲んでわいわいやっていたんだ。
その中心には、ヨシュ兄がいて、周りにママやアンナ、そして戻ったらしいゴーダンにミラ姉もいた。僕らが帰ってきて、宵の明星全員集合だね。
みんないろいろと出かけることが多いから、明るい内に全員集合は、ほんと久しぶりかも。
「またやらかしたらしいな。」
僕らをめざとく見つけて近寄ってきたのは、ゴーダンだった。
「酒の肴にもいいんだよ。」
ゴーダンは、冒険者の例に漏れず、無類の酒好き。
「ほぉ、そうか。そりゃ頑張って作って貰わなきゃならんな。ハハハ、まぁ、そんなに警戒すんな。アンナにも搾られたんだろうが。分かってるんならいいさ。それに、ラッセイにも、随分しごかれたみたいじゃないか。」
ヒヒヒ、とゴーダンは機嫌良さそうに僕の頭をなでる。
セイ兄については、へろへろになって森から帰ってきた僕を見て、察したんだろうね。そうだよ。実は立ってるのもやっとだよ。はぁ、疲れた。
「で、おすすめはなんだ?」
「スモーク?」
「他にないだろうが。」
「うーんと、やっぱりうちのチーズは外せないよね。あとは、個人的には魚介がいいと思うけど、肉も好きな人は好きだよ。」
「なんでもありだな。」
「うん。だけど、独特の癖があるから、苦手な人は苦手かもね。」
「確かに、そうだな。他に何かあるか?」
「どうだろ?僕もそう記憶があるわけじゃないからね。でも、とりあえず食べられる形にしたものをスモークにした方がいいと思う。」
「食べられる形か。これで調理してる、つーわけじゃねえってことか。」
「たぶんね。干物とかをさらにこれで香り付けしても良いし、ハムやソーセージもありだと思う。肉も火を入れてからスモークだね。ただし何が合うかは分かんない。」
「片っ端から入れていくか。」
ヒヒヒ、とゴーダンが笑い、僕もつれらて笑った。いろいろ試すのは楽しいよね。
「ちょいと、そこの悪ガキ二人。あんたたちは、これに近づくの、禁止だよ。」
そんな僕らの様子を見た、アンナが言ってきた。悪ガキって、僕はともかく、ゴーダンなんて僕のじいさんと年が近いんだけど?
「誰がガキだ。俺は、自分の好みの味を見つけるぞ。」
「時間がないんだよ。あさってには献上品を持って出かけなきゃならないんだからね。遊ぶのは帰ってきてからだ。」
「でも、これ僕の案で・・・」
「ダー。おまえさん、反省はしてないのかい?」
「いや、そんなことないけど・・・」
「おまえさんの実験や研究は、当分お預けだよ。」
「そんなぁ・・・」
「なんか言ったかい?」
キッと睨むアンナに僕は激しく首を振った。
僕、なんか地雷を踏んだかなぁ。あんなに怒って、それが長続きするアンナをあんまり知らないから、かなり不安だ。
他のメンバーはなんだか腫れ物に触るようにアンナを見てるし・・・あ、ママは除く、だけどね。ママはこんなやりとりに我関せずで、スモークのネタ探しに夢中のようです。
僕はゴーダンと顔を見合わせると、アンナに追い立てられるように、二人で屋敷に戻ったんだ。
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