第6話 森へ行こう!

 翌早朝。

 僕は、完全冒険者スタイルに身を包んだよ。

 あまり重いと動きがとれないから、僕は革をメインにした軽鎧。一緒に行くセイ兄も、似たような感じ。セイ兄の場合は、大物狩りには、金属系のフルメタルな鎧を着ることもあるけど、今日はご近所の森だし、そんな大物はいないからね。


 僕らが住む屋敷を出て、ダンシュタの町と逆の方へ進んで行くと、小さな集落があります。僕が赤ちゃんの時には、単に「村」と言えば、ここのことだった。

 その小さな村をさらに進むと、そこは森になっている。

 まぁ、ダンシュタから屋敷までも、屋敷から村までも、道や畑なんかをのけたら、ほぼ森、なんだけどね。

 森を切り開いて作った町や村を街道で繋いでいる、と言う方が正解かも知れない。


 だから、森に行く、と言ってもお隣に行く感覚なんだけど、今日はちょっとした遠出になるんだよね。なんせ大人のセイ兄がいっしょだからね。堂々と狩りをしつつ、目的地に向かえるってもんです。


 ちなみに、スモークをするにあたって、いろんな木を試したけど、はじめは屋敷からほど近い森で木を探していたんだ。でも、近場には良さげなのは見つからなかった。だいたい、森には木が生えてるけど、同じ種類の木がどうしても群生しているから、別の種類を探すとなると、場所を移動するしかないんだよね。

 森を切り開いた辺り、というのは、ものすごく乾燥する。理屈は解明されてないけど、切り開くことによって、地面から植物がなくなると、魔力を保存するモノがなくなるから、水分や養分も魔力だってひからびちゃう、というのが有力な説なんだって。僕が「ドク」て呼ぶ、王都でエライ魔法の先生をやってるおじいちゃんが、教えてくれた。



 燻製のために、いい木をもとめて、僕は屋敷近くの森を奥へ奥へと進んだんだけど、例のザザの木は、魔力がある程度高濃度で分布している土地にしか生えない、んだって。昨日、アンナ達があんなに怒ってたのって、ザザの木を使ってるなら、勝手に森の奥に行ったに違いない、ってすぐに分かったからみたい。

 魔力が高濃度になると、いろいろな木が茂り、また多くの魔物も集まってくる。そしてさらに魔力が高濃度になるという循環ができるらしい。そういう所は、人間にとっては危険で、だけど、有益なものがいっぱいある。そこで冒険者の出番。有益な動植物の素材を採集するのは、冒険者の大きな仕事の一つです。


 あ、そうそう。さっき魔物が集まるって言ったけど、この世界、魔物と普通の動物の境界は曖昧です。ていうか、普通の動物、という発想がないかな?なんでかっていうと、生きとし生けるものはすべて魔力を含んでいるから。大なり小なり、あるゆる場所に、あらゆる生命に、魔力は宿る。

 魔力が多いと、それが結晶化して大きくなることがある。そうして大きくなったものを魔石っていう。これはエネルギーの塊で、前世の電気、ていうより電池かな?そんな役割をしているんだ。魔石って言っても弱い魔物からは砂粒みたいな結晶しかとれない。感覚的には砂金サイズかな?


 なんでこんな話をしているかのか?今、僕らは森に向かってるけど、ザザの木は森の奥、魔力の濃い辺りに生えていて、そこにも、またそこに行く道中にも、魔物と呼ばれる動物たちはたくさんいるから、道々それらを狩りながら移動するんだよ、って説明するためです。僕らは、おいしいお肉とできるだけ上質な魔石を求めて、大切な命をいただく、そういう冒険者な行動をこれから取るんだ。



 僕らは村を抜け、徐々に道もない森の中へと踏み込んでいったよ。

 村の近くでは、そんなに強い魔物は現れない。現れるとすぐに討伐するし、そもそも魔物だって人間が集まってるのは怖いんだ。

 人が住むところの近くにいるのは、そんな「怖さ」を覚えるだけの知能がない、弱いものが多い。

 実際、ほら、今、目の前に現れた、空色の動物。長い耳は兎に似てるけど、兎みたいに跳ばない。むしろ大きなネズミ、かな?サイズは中型犬ぐらい。名前はピノっていうんだ。やつらは走るのが速い。長い耳をヘリコプターの羽みたいにぐるぐる水平に回し、通り過ぎながら、その回転する耳で殴打するのが特徴だ。この耳に当たれば、簡単に骨ぐらい折れるよ。僕の身長なら、胃か肺がやられて、下手すれば死にます。でもね、さっきも言ったように、直進で走ってきて、通り過ぎながら、耳で殴るだけだから、一度避けて回れ右すれば、無防備な後ろ姿に攻撃が出来て、簡単にやっつけられるんだ。冒険者なら、なりたてでもない限り、これにやられることはまずないかな?逆にいつまでもこいつに対応できないなら、冒険者はやめた方が良いと思う。


 で、もちろん僕は、瞬殺です。あえて、挑発し、通り過ぎさせて、ジャンプ。後ろから剣でバシュッ。心臓を一突きだよ。できるだけ素早く殺してあげる。苦しまないように、ていうのと、毛皮のため、かな?空色のきれいな毛皮は、傷が少ないほど素材として高く売れるんだ。ちなみにお肉は、身はさっぱりだけど脂肪はこってり。臭みの少ないおいしいお肉だよ。もちろん燻製候補です。


 もう少し奥に行くと、真っ黒な狐みたいな魔物が増えてきます。テツボって言うんだ。テツボは主に木の上で息を殺して獲物を待ち受け、下を通ったら、ひらりと飛び降りながら、火の玉を吐きます。

 やつらには体の三分の一ぐらいのまるまるとしたしっぽが生えていて、飛び降りながら、ちょっとぐらいなら角度をかえられるのがやっかい。でも飛べるわけじゃないから、反応できるなら、空中でいる間にやっつけるのがいい。

 僕は、いつもなら、口から吐き出される火の玉に合わせるような形で、風の刃でやっつける。僕の魔力の方が全然やつらより強いから、魔力で生み出された火の玉を巻き込みながら、スラッシュすれば、こちらはノーダメージで頭ごと切れちゃうんだ。


 でも、今日はこの手が使えず、ちょっぴり苦戦中。

 なぜかって?

 昨日バレた、罰として、魔法なし戦闘を強要されてます。グスン。

 魔法を使えば瞬殺なんだよ。でもね、魔法なしであの火の玉をはじける剣技はまだないよ。とにかく当たらないようにしなくっちゃ。大けが必至だもん。

 それに、僕の剣は短い。長いと振れないからね。一応、魔法で特殊配合した合金で、魔力を流すことに親和性がある刃の剣ではあるんだけど、刃に魔力を流すのも禁止って・・・僕、そこまで力ないんだけど・・・

 短い、ただの尖った金属棒を持ってるだけの僕に、やつをやっつけろって、スパルタも良いところだと思うんだ。

 焦りつつチラチラ、セイ兄を見るけど、涼しい顔。こりゃ怪我してもよっぽどじゃない限り手伝ってくれそうもないな。

 痛い思いをするのはイヤだし、なんとか、活路を見いださないと。

 僕は、何度も木に登っては、飛び降りつつ火の玉を吐くテツボを剣で牽制し、なんとかギリギリ火の玉も、爪もかわしていく。

 よし、今だ!

 僕は、思いっきり剣を投げた。

 やつが木から最短距離で僕に向かって飛び降りるのは体感済み。

 火の玉を吐くタイミングも見切ったよ。

 そのときに、でっかい口を開くのだって。


 僕は5歳といったって、普通の子よりよっぽと鍛えているんだ。

 投擲の力だって、倍の年齢の子に負けないんだから。

 僕の師匠でもあるゴーダンは、成人になるまでの目標は倍の年齢の人間に勝てることだ、って常々言ってる。僕は10歳の子には勝てるだけの鍛え方をしてるんだ。

 僕は、自分の力を信じて、手に持つ武器を信じて、渾身の力で、大きく開けられた口から剣をぶち込んだんだ!

 狙い違わず、僕の剣は口から脳へとまっすぐに刺さる。

 僕の投擲の力と、やつの飛び降りてくる力が合わされば、きっと頭蓋を貫ける、そう踏んだ僕の狙いはドンピシャだ!


 キャイン!


 一声鳴いたテツボ。

 反動で背中から地面にもんどり打つ。

 一瞬、ピクッと痙攣したと思ったけど。


 うん、よし、動かない。やった、よね?


 ゴチン!


 僕がおそるおそる、テツボを見ていたら、頭に衝撃を受けた。

 思わず手で覆い上を見上げると、怖い顔をしたセイ兄がゲンコをおとしたのが分かった。

 なんで?

 「戦闘中に武器を手放す奴があるか!」

 うー。

 だって他に方法が思いつかなかったんだもん・・・


 セイ兄はあきれた顔をしながら、テツボから僕の剣を抜いて、投げて寄こした。

 あれ、頭蓋骨に完全に刺さってたからね。僕、抜ける自信なかったわ。サンキュッ。


 テツボの毛皮とお肉、魔石もゲット。

 さらに奥へと向かいます。


 その後も、ピノやテツボ、また他の魔物をいくつも狩りつつ、ザザの木の群生場所を発見したよ。ここは僕が見つけていた場所とは違うけど、ザザの木って、メジャーな木で、ある程度の魔力濃度のある大地にはかなりの数、生えてるんだって。

 僕が見つけたのは、もっと屋敷の近くの森だけど、獲物を狩ることを考えて、こっちの森に来たらしい。


 おかげで、スモーク用のザザの枝もたくさんゲットできました。


 どうやって、こんなにたくさんの獲物や枝を持って帰るかって?


 ひいじいさんから引き継いだ、異空間収納のリュックサックで、余裕です。

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