第5話 新商品をつくろう



 「はぁ、まったく目を離すとろくなことをしない。で、ダー。このチーズはなんだい?」

 ため息をついたアンナが、そんな僕を見つつ言った。

 「えっと、スモークチーズっていって、煙であぶるとおいしくなって、日持ちもするんだ。旅のお供になるかと思って、研究してたんだけど・・・・黙ってやってごめんなさい。」

 「ふうん。これはおいしいね。充分新商品になるよ。」

 怒っても、ちゃんと評価をしてくれるアンナが大好きです。

 て、ママ、さっきから一人でいっぱい食べてるね。おいしそうで何より。

 ヨシュ兄も、ふむふむ、と頷きながら食べる。

 みんなに好評のようで、ちょっぴり嬉しい。


 「これは、ザザの木でないと、できないもんかねぇ。」

 「ううん。前世ではいろんな木で違う香りや味を楽しんでたよ。でも、ここら辺の木で形になったのはこれだけで・・・」

 ちなみにパーティメンバーは僕もひいじいさんも転生者だって知っている。


 「てことは、ダー君は他にもたくさんの木で試した、と?」

 あ、いらんこと言っちゃったかも。

 「えっとね、煙だけでも毒とかあるかもだから、知らずに試したら危ないよ。」

 ママが、小首をかしげつつ、ヨシュ兄に乗っかっちゃった。

 「まさか、変なもん食べて体壊してないよな?」

 セイ兄が心配そうに言ってきた。

 一応、あぶる前に、木をなめてピリッときたり、拙かったり、そういうのはスモークしてないけど、なめて確かめた、と言ったら墓穴を掘りそうだし、内緒にしておこう。

 「どうせ、ダー君のことだから、なめておかしいものは除外した、とかでしょうけど、場合によっては、それだけでも死ぬことだってあります。その辺りは分かっていますか?」

 ヨシュ兄にはそこまでお見通しだったみたい。


 「まぁ、ダーも反省してるみたいだし、その辺にしてやってよ。それより、ダー。さっきチビどもに言ってた、肉や野菜でもいけるって、あれは試したのか?」

 「それはこれから・・・」

 「次は勝手に狩りにでも行く気でしたか?」

 「・・・ごめんなさい。」

 「はぁ。ラッセイ、君はしばらくダー君の護衛兼監視です。24時間目を離さないでください。」

 「もともと、そのつもりだ。」

 「それと、ミミ、アンナ。これはちょうどいい土産になりませんか?」

 ヨシュ兄が、チーズを二人にかかげて言った。

 何?土産?

 「そうだね。しかし、本当にミミの言ったとおりになったね。ダーが今やってることをみたら解決する、て、こんなもん作ってるって知ってるとしか思えないよ。」

 「私のダーは、すごいんです。必要なときに必要なものを用意できるんです。」

 「あんたら親子は・・・まぁ、いい。ダー、このスモークチーズだっけ?量産はできるかい?」

 「小屋をでかくすればできるよ。」

 「5日後、ダンシュタでミサリタノボア子爵の護衛をしつつ、領都に向かいます。子爵やワーレン伯爵に献上する品を、ちょうど検討中でした。候補として、このスモークチーズを用意します。」

 「えっと、それって宵の明星の依頼ってこと?」

 「はい依頼兼伯爵からの呼び出しですね。ダー君とゴーダンがワーレン伯爵に呼ばれているみたいでね。今朝から、ゴーダンがダンシュタに行ったのも、その件です。」

 「僕も呼ばれてるの?」

 「なんか伯爵から依頼があるようですよ。用件は会って、とのことです。」

 むー。面倒なことになりそうだね。

 けどまぁ、燻製自体はOKてことでいいのかな?


 「じゃあ、明日は僕とダーで、森に入って、ザザの木と肉を取ってくればいいのかな?」

 「そうですね。その前にダー君。そのスモークチーズやらを作る道具を見せてください。仕組みを私に教えて貰ったら、量産体制の方法を検討してみます。」

 「分かった。」

 僕は、そう言って、アンナを見た。

 ずっと、正座したままだから、もう感覚ないや。ねぇ、もういいでしょ?

 アンナは僕の視線の意味を知りつつ、僕を無視して護衛やお土産なんかの会議を始めたよ。


 結局、しびれた足で半泣きしながら、ヨシュ兄を燻製器まで連れていって、その仕組みを説明したのは、1時間ほどたった後だったよ、グスン。

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