第4話 正座!
セイ兄と、僕は手を繋いで屋敷へ戻った。
メインのリビングへ歩を進めると!
あれ?
何でみんないるの?
今はまだお昼をちょっと過ぎたくらい。
みんな帰ってくるのはご飯の時間ぐらいだと思って、燻製を悪ガキどもにお披露目したんだけど・・・
リビングには、僕のママと、アンナ、ヨシュ兄という、これまた全員僕の冒険者パーティのメンバーがいたんだ。
「なんだい、やっぱりダーのいたずらかい?」
僕らを見るなり、そう言ったのは最年長のアンナ。
アンナは火を操る魔導師で、戦士でもある。短めの槍を使うが、武器全般得意だ。ママの乳母的存在でもある。僕らのパーティ、なんだかんだで、僕を優先しようとするけど、僕よりママを優先する貴重な存在だね。で、パーティの実質的ナンバーワン。リーダーはここにいないゴーダンで、アンナは副リーダーだけど、いろんな意味で一番強いのは、この人。
「別にいたずらなんかじゃ・・・」
「なんだい?」
僕が言いかけたのをセイ兄が被せてくる。繋いだ手を頭にのっけて、ぐっと押しながら、だ。
うわぁ、言い訳はさせてくれないのかぁ。僕がちょっぴり口を尖らせると、
「正座!」
アンナのピリッと響く声で、びくっとしちゃったよ。
「でもさぁ・・・」
「せ・い・ざ!」
アンナは有無を言わせず、僕に向かって、床を指さしながら、言った。
はぁ・・・
僕は固い石の床に正座をする。
正座、なんて座り方、この世界にはそもそもないんだよ。
でも、この世界にそんなものを取り入れた迷惑な人がいた。僕のひいじいさんにあたる人だ。何を隠そう、このひいじいさん、この商会を立ち上げたすごい人なんだけど、僕と同じ日本からの転生者だったんだって。
このひいじいさん、冒険者兼商人兼まぁ諸々、いろいろやらかした人だったんだけど、その中で、行き場をなくした子供達を保護して、色々教育し、生きる術を与える、なんてことを生きがいにしてもいたんだ。その保護された子供達のうちの一人が、このアンナ。他にゴーダンもひいじいさんに可愛がられて、世界中を回ろうとしたらしい。ちなみに僕のおじいさん、つまりママのパパもその一人で、ひいじいさんの一人娘とパパは結ばれて、ママが産まれたんだって。
このひいじいさんなんだけど、見つけた手記によると、いわゆる団塊の世代の人で、家電なんかを作る技術者だったらしい。無事定年退職し、退職後はゲームやらが大好きな、いかすおじいさんだったんだって。まるでゲームの世界のようなこの世界に生まれ変わったひいじいさんは、色々鍛えて、前世の知識を使い、人生を謳歌していたみたい。残念ながらママが赤ちゃんの時に殺されちゃったんだけどね。
まぁ、色々もたらしたのは良い。だけど、この「正座」という文化はいただけないよね。ひいじいさん、育てている子供を説教するときは大体この正座をさせていたらしい。足によくないんだけどなぁ、正座・・・
理不尽に殴ったり蹴ったりするようなことはしない人で、力任せに言うことをきかせるというようなことは絶対にしなかったそうだけど、本人が悪かったと納得したら、絶対に罰を与える人だったんだって。説教が終わっても正座、とか、お手伝いの増加、とか、後、魔術や戦闘の訓練がきつくなる、とか、ね。後々役に立つようなことしかしないけど、その時は辛かったなぁ、と、ゴーダンはよく言ってるよ。うん、アンナやうちのおじいさんは、連帯責任ぐらいでしか叱られなかったけど、ゴーダンはしょっちゅうしごかれた、らしい。今はその反動で、僕にうるさいんだけどね。ゴーダン曰く、多少痛みになれておかないと、実際に戦闘になって攻撃を受けたときに、動けなくなったら死んじゃう、らしい。口よりも先に、手や足が出て、殴ってから、殴るぞ、というタイプ、と言えばわかるだろうか?僕は、言えば分かる子、なんだけどなぁ。
まぁ、ゴーダンのことはいい。今はアンナだ。
何をそこまで目くじら立てているんだろう。
アンナはあんまり正座をさせてまで、怒ることはないし、むしろ、何が悪かったかわかるかい?とか言って、問題解決をこっちに促してくるタイプ。いたずらを超えて無茶をやらない限りは、こんな風に怒られるなんて、なかったんだけど・・・
僕は、とりあえず言われたまま正座しつつ、アンナをこっそりと、伺う。
「これ。」
そんな僕の困惑を無視した形で、セイ兄が、テーブルにスモークチーズを取りだした。
「これを、作ってたんですか?」
一つつまみながら、ヨシュ兄が、言った。
くんくん、と、匂いをかいで、
「ひょっとして、ザザの木、ですか?」
と言うと、顔をしかめた。
ヨシュ兄は、僕らパーティの斥候役といえばいいかな?トラップや鍵を開けたり、情報収集が得意な人。魔力はそんなに強くないけど、そのコントロールは抜群。戦闘中に敵の足下に穴を開けてよろけさせたり、まぁ、器用さはパーティでナンバーワンなんだ。もともと、とある貴族の私兵団の事務方をやっていて、書類仕事も得意。最近は、ママのお手伝いで、経理や総務的なことをやったりもしているよ。
そして、その知識量も半端ない。
ということで、ヨシュ兄のいうザザの木?てなんだろう?一応、僕が燻製をするにあたって、森の中で見つけた木を複数試した中で、一番香りがよくて、おいしくなったから使ったこの木のことだろうけど・・・なんかまずかったんだろうか?
「うん、たぶんね。煙でいぶしてたみたいだけど、外から見えたあの煙、ザザに間違いなかったよ。」
と、セイ兄。まぁ、側まで来て、煙を直接嗅いでたし、僕が思うよりよく知られた匂いだった、ってことだろうけど・・・
ヨシュ兄は、セイ兄に頷くと、僕を見て言った。
「ダー君、これに使ったザザの木はどこで見つけてきたんですか?」
・・・うかつだったかな、これは?大人に言わずに森に入るな、と言われてはいたんだけど・・・だってしょうがないよね。森に行かなきゃ木はないし、完成するまで内緒にして驚かせたかったんだもの。
「ねぇ、ダー。怒らないから、正直に言ってみて?」
ママが優しい笑顔で、言った。うん、ママ。ママは怒らないよね。それは知ってる。でもさ、僕、もう正座させられてるんだけど・・・
じーっと優しげに見つめてくるママに、もちろん嘘なんて言えないけど・・・
「ちょっと、森で見つけて・・・」
「ちょっと、森で、ねぇ。」
ヨシュ兄が、かなり意地悪な感じで言った。
「ザザの木は、ある種の虫除けとして、旅のお供に欠かせないものです。薪にくべて、虫除けに使うんです。我々人間には良い香りですし、もちろん毒になるものでもありません。」
この人は、少々理屈っぽい。そして、特に回りくどい言い方をする、ほら、今みたいな時は、怒ってる証拠なんだ。僕は緊張しつつ、黙って次の言葉を待つ。今までの経験から、ヨシュ兄がこんなふうに怒ってるときに口を挟むと、ろくなことにならない。説教時間倍増必至だからね。
「ただし、このザザの木、相当深い森に入らないと、生えていないものなんです。だから、冒険者ギルドの採集依頼はDランク相当。立地によってはCランク相当になります。」
「あはっ。ダーはすごいねぇ。そんな奥まで一人で行ったの?見習いでもCやDに負けないもんねぇ。」
ママは、嬉しそうに手放しで褒めてくれます。はい。その言葉がみんなをあおってるけどね。でも、ママが嬉しそうだし、僕もみんなも、文句は言えません、はい。僕は、あちゃーと心の中でだけ、空を仰いだよ。
「そうですね。ダー君は見習いでしかも5歳の幼児です。一人でそんな危険なところに行くことを。我々保護者としては認めていなかったはずですが。」
そうだけど・・・
実際の所、あの森ぐらい、一人でも問題ないぐらいの力は持ってるんだもん。それこそ、その保護者達のおかげでね。
そりゃ僕が5歳で、未だに見習い冒険者でしかないのは事実だけど、それだって、ギルドが成人するまでは見習いとしてしか認めない、という規則があるからだし、ギルドからの依頼で若い冒険者の鼻っ柱を折ってくれと言われて、Dぐらいの冒険者をこてんぱんにする、なんてのは、何度も受けてきたよね。実質の力じゃ、充分ソロで行ける森だもん。
なんて、ことは心の中で言えても、口に出せるはずもなく・・・
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