第3話 剣士ラッセイあらわる

 「すごいけど、実験、するんだろ?勝手にやると、またゴーダンのおっさんに叱られるぞ。」

 「フフン、みんな食べたよね~。共犯、だよね~。」

 ズルいぞ、とか、騙したな!とかの、文句は受け付けませ~ん。

 そんな感じで、ニヤニヤしてたら・・・


 ズシン!


 背後から僕の肩に鈍い衝撃が・・・

 でっかい手のひらが僕の肩に乗せられたんだってすぐにわかったよ。

 僕の肩より大きなその手は、指の方が首まで乗っかってて半分首を絞められてるみたいに見えると思う。けど、実際は力のベクトルが下に向かっていて、グッと押さえつけられてるみたい。足を踏ん張んなきゃ、ガクンと膝をつきそうだ。

 僕の前に立ってた皆が、僕の背後を見上げ、青い顔になった。


 「やあ、ダー。何か楽しそうにしてるね。ゴーダンに叱られるようなこと、僕も興味あるなぁ。」

 ギギギギ・・・と、まるで音が鳴りそうな、マリオネットみたいに、僕はぎこちなく、首を回して上を見上げた。

 「セイ兄・・・」

 そこには、予想してた通りの人物が、僕を見下ろし、まったく笑ってない目をしながら、にっこりと、微笑みかけていた。


セイ兄ことラッセイ21歳。僕が所属している冒険者パーティ『宵の明星』の仲間で、驚きのイケメンだ。剣だけでいえば、パーティ一かもしれない腕前。生憎と、魔法は得意じゃないから、トータルでの強さは、ナンバーワンとはいえないかな?

 さっき名前の出ていたゴーダンってのが、うちのパーティのリーダーなんだけど、剣の重さではゴーダンが上。でもゴーダンの剣はごりごりの力押しなのに対して、セイ兄はキレと早さが上だと思う。まるで舞うみたいに放たれる剣技は、僕のあこがれなんだ。二人が剣だけで戦ったら、五分五分かなぁ。でもゴーダンには魔法があるからね。トータルでなかなかセイ兄は勝てないかな?と思うよ。


 セイ兄は、一言で言えばさわやかイケメン。元貴族の出だし、まったく腹芸が出来ないわけでもないけど、どっちかって言うと脳筋寄り。物語で主人公なら、きっとこの人だろうなぁ。金髪碧眼、本当ならグイグイ引っ張っていっちゃうタイプだろうけど、このパーティでは、ちょっぴり残念な弟ポジション。

 とは言っても、さらに下に僕がいるわけで・・・・



  「やあ、ダー。何か楽しそうにしてるね。ゴーダンに叱られるようなこと、僕も興味あるなぁ。」

 グイグイ肩にかかる圧に、僕の背中に冷たい汗が流れてるよ・・・・


 「あはは、セイ兄、いつこっちに来たの?」

 とりあえず、当たり障りのないところから・・・・と、僕は会話を試みたんだけど・・・


 「そのことは、後で良いかなぁ。で、これは何?」

 笑顔が怖いです・・・

 「えっと・・・燻製?」

 僕が焦って、魔法を解いてしまい、落ちそうになった石の板を、僕に置いているのと逆の手でヒョイと持ち上げたよ。

 中にはまだいくつかチーズが残っていて、セイ兄は、僕の肩から手を離すと、チーズを取って、パクッと口に放り込んだ。


 「へぇ、うまいね。」

 「でしょ!へへへ、旅のお供にどうかと思って。」

 「で、許可は?」

 「へ?」

 「屋敷の中で火を使ってるんでしょ?ちゃんと大人に許可は貰ってるんだろうね。」

 「・・・あ、えーと。」

 「こんなに煙、出して。外から見えたから、ぴっくりして飛び込んできたよ。」

 あー。開けたときに盛大に煙が出たっけ・・・

 「あ~、屋敷っていうか、外だし?」

 「はぁ?」

 セイ兄が、ガコンって必要以上に大きな音を鳴らして、石の板を戻した。

 ヒィ~って、一緒にいて空気になってた連中が、震え上がる。

 僕は、みんなほどじゃないけど、思わず一歩下がっちゃったよ。てか、一歩しか下がれなかった。頭をセイ兄にガシッて捕まれて、身動きできないよぉ。


 セイ兄は腰をかがめて、僕と視線を合わせた。

 「で、何か言った?」

 僕はぶんぶん頭を振ろうとしたけど、捕まれてて動かない。けど、一生懸命否定の意志を伝える。

 「ふうーん。もう一度聞くけどさ、大人の許可は貰ってるの?」

 「・・・ごめんなさい。」

 はぁーっと、セイ兄はこれ見よがしにため息をついた。そして、僕を掴んでいた手を、ちょっと押すような感じで突き放すと、立ちあがる。

 セイ兄は、僕らに背を向けて、屋敷へ向かい歩き出した。

 残された僕らは、お互いに目を見合わせていたんだけど・・・


 「ダー、さっさとおいで。僕もいっしょに謝って上げるから、ちゃんと報告しなよ。」

 僕に向かって、手を差し伸べるセイ兄。


 「はい!」

 僕はニカッと笑って、セイ兄に走り寄ると、差し出された手を両手で掴み、二人で屋敷へと向かったんだ。

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