第2話
アイドルといえば恋愛禁止だと、多くの人はそんなイメージを抱くだろう。
ラブミルだってそれは例外ではなく、マネージャーから口煩く言われているのだ。
ライブが終わって、支えてくれたスタッフにお礼を言ってから、メンバーと揃って楽屋へ戻る。
そして、千穂以外のメンバーはこぞってスマートフォンを操作し始めた。
「悠くんだ!あたし今日帰らないね。他のグループの子に口裏合わせといてもらうから」
そう言って嬉しそうに微笑んでいるのは、ラブミルのリーダーである
先月は確かレンくんという男性と付き合っていたはずだから、また彼氏が変わったらしい。
「本当寮制どうにかなんないの?マネージャーの目盗むのめんどくさいんだけど」
「わかる!たぶんうちらが全員成人するまでは我慢じゃない?」
「まじ無理すぎる」
ラブミルのメンバーは、リーダーである風香を除けば全員未成年だ。
地方から上京しているメンバーもいるために、事務所からはグループメンバー全員で寮生活を送るように言われていた。
そのため、千穂も以前までは彼女たちと同じマンションで共同生活を送っていたのだ。
「南はいいなあ」
「けど、私も全寮制ってことに変わりはないから」
「でもさ、モデルの卯月くんとか俳優の上坂くんも桜川学園に通ってるんでしょ?そこで全寮制なら連れ込み放題じゃん、羨ましい」
「寮は男女で別だから…」
アイドルとは思わしき発言に、苦笑いを浮かべてしまう。
年頃の女の子なため、そういった色恋沙汰に目がないことは分かっているが、それでも今の発言は如何なものだろう。
ラブミルのメンバーは、千穂以外全員彼氏持ちだ。
当然恋愛禁止とキツく言われているため、大人はもちろん、ファンの人の目を掻い潜ってこっそりと恋愛しているのだ。
「じゃあ、私もう行くね」
「おつー。明日はオフだっけ?」
「うん、久しぶりだからゆっくりしようかな」
「南、引っ張りだこだもんね。スケジュール鬼すぎるもん」
バラエティ番組はもちろん、元子役ということもあって、演技の仕事も舞い込んでくる。
センターなために他のメンバーより知名度が高いと、千穂自身分かっていた。
だからこそ、より一層気を引き締めて仕事に励んでいるのだ。
マネージャーの運転する車に揺られながら、ぼんやりと外の景色を眺めていた。
芸能活動を始めて15年。
もう高校2年生だというのに、色恋沙汰とは無縁の生活を送ってきた。
勿論、千穂だってアイドルなのだからそれなりに整った容姿をしている。
男性から言い寄られることだって日常茶飯事だが、どうにも乗りきになれないのだ。
アイドルだからということを抜きにしても、恋愛をしたいという欲求すら、生まれてこの方抱いたことがなかった。
信号待ちで車が止まったタイミングで、マネージャーが口を開く。
「あいつら、また彼氏の話してたか」
「……本人たちは気づいてないと思ってるみたいですよ」
「アイドルの自覚あるのか…?南に迷惑ばっかり掛けて…」
静かな車内では、マネージャーの溜息がやけに大きく聞こえた。
元子役の千穂と違って、他のメンバーはラブミルを結成するにあたって一般オーディションで集められたのだ。
「……何かあったら、うちの事務所は南だけは絶対に守るつもりだから安心しろ」
あえて聴こえていないフリをして、再び視線を窓の外に移す。
グループアイドルというのはいわば連帯責任で、何かあれば所属メンバーは道連れにされてしまう。
事務所側としては、それをどうにかして阻止したいのだろう。
ラブミルのメンバーの中で、千穂は群を抜いて人気がある。
演技からバラエティ番組と幅広く活躍しているおかげで、知名度は勿論実力だって伴ってきているのだ。
他のメンバーと違って恋人を作らないという、アイドルにおいて当たり前の規則もきっちり守っているため、スタッフからの信頼も厚い。
千穂だって、ラブミルが好きだ。
アイドルとしての誇りは持っているし、ファンの人達には心の底から感謝している。
だからこそ、より上を目指しているのだ。
五十鈴南として。
五十鈴南を応援してくれている人のために、高みを目指さなければいけない。
幼い頃から芸能界で活動しているせいか、ハングリー精神が人一倍強くなってしまっているのだ。
だからこそ、そのための犠牲は幾らでも払ってやる覚悟があった。
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