最終話ねえ。人生に終わりがあるように、幽霊にも終わりがあるんだよ
「ねえ。人生に終わりがあるように、幽霊にも終わりがあるんだよ」
卒業式。誰も居ない教室。
僕は目の前に居る元同級生の女子に唐突な言葉を告げられた。
「ああ、いつかの喫茶店で言ってたな。そんなこと」
僕たちは卒業式の終わってだいぶ経つのに未だに教室の中に居た。
クラスメイトが打ち上げを計画していたようだったけど、霊感少女が誘われていなかったので、僕は行かないことに決めた。
こうして二人きりで語り合うのも最後かと思うと、なんだか淋しい気がした。
語り合うのが最後なのは、僕は地元の大学に、霊感少女は都会の大学に進学するからだ。
連絡を取り合って会うこともできるけど、高校生のうちに語りつくしてしまった気がする。
今生の別れのような感覚。
「ああ、そうだね。幽霊はいずれ消えていくんだよ。私も幽霊になって消えていく」
霊感少女はどこかセンチな気分になっているのか、悲しげな雰囲気を醸し出している。
「実を言うと、私はそれが怖いんだよ」
霊感少女の本音であり弱音だった。
僕は黙って聞いている。
霊感少女の言葉を黙って聞いていた。
「幽霊になるのも怖いんだ。いつも見ているような、残酷なものになるのが怖い。不安で仕方がないんだ」
卒業式だからだろう。最後に語りたいことを語っている。そんな感じだった。
「でも、それでも幸せになることだってできるさ」
僕は口を挟むつもりはなかったけど、つい口出ししてしまう。
それが――霊感少女の琴線に触れた。
「幸せになれるはず、ないじゃない!」
霊感少女は怒鳴るように、叫ぶように、僕に向かって言った。
「いずれ消えてしまうのに、どうして幸せになれるんだよ! どうして笑っていられるんだよ! 君は知っているはずでしょ!? 私たちは消えて――」
「そんなこと、ないさ」
霊感少女の言葉を遮った。
「僕も君も幸せになれるんだよ。そう確信している」
「……どうして、そんなこと言えるの?」
僕は霊感少女と一緒に居て、気づいてしまったことを伝えておきたかった。
「僕は君と出会えて良かったよ」
本心を打ち明けるのは、気恥ずかしいけど、言わないといけないと思った。
「君と一緒に居て、くだらないことを言い合ったり、幽霊の話をしたりして、楽しかった。この気持ちはいつまでも残るんだ」
「……死んだら、消えちゃうんだよ?」
「消えやしないさ」
霊感少女を僕は救うつもりで話し出す。
「君と一緒に遊んだり、歩いたり、映画観たり、食事したり、勉強したりしたことは僕の心に残っているんだ。だから無駄だったり、無かったことになったりしない。幽霊になって消えてしまうけど、それでも消える瞬間まで残り続けてる」
「…………」
「だから初めから無駄になったりしないんだ。君だってそうだろう?」
霊感少女は黙って頷いた。
もうほとんど泣きそうだったけど、それでも僕は続けた。
「居なくていい存在じゃないんだ人間は。幽霊は。消えてしまっても、次の世代に伝えることができる。僕は君のことを僕の子どもや孫、友人に伝えるよ。だから――」
僕は自分でもできる限りの笑顔で言った。
そうしないと僕も泣きそうだったから。
「だから、君は居ていいんだ。居なくて良い存在じゃない」
霊感少女の目から大粒の涙が流れる。
僕は我慢して霊感少女に近づいた。
そして手を握った。
「こうして生きているだろう? 僕も君も、生きているんだ。確かに僕たちは生きているんだ」
そう言って体温を――
あれ? 体温が?
「気づいていないの?」
霊感少女は悲しそうに言う。
「君は、十日前に死んでいるんだよ?」
ああ、そうか。
僕はもう、一緒に居られないんだ。
なんだか酷く悲しくなってしまった。
霊感少女との会話集 橋本洋一 @hashimotoyoichi
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