第14話ねえ。幽霊って成長しないのなんで?
「ねえ。幽霊って成長しないのなんで?」
放課後。いつもの通学路。
僕は隣を歩いている同級生の女子に唐突な質問をされた。
「死んでいるからじゃないか?」
僕はどうしてそういうことを訊くのか分からなかったけど、とりあえず真っ当なことを言ってみた。
霊感少女は近くを通りかかった小学生の団体――集団下校だろう――に目を向けながら、何気なく言った。
「死んでたら成長しないなんて、ある意味テンプレだと思わない? ステレオタイプって言うのか、知らないけど」
言っている意味が分からなかったけど、僕が固定観念に囚われていると言っているのだろうか。
「じゃあ、君は成長した幽霊を見たことあるのか?」
「いやないよ。だから訊いているんだよ」
まあその通りだ。見たことがあるのなら、訊ねたりしないだろう。
「死んでいるから成長しないのはちょっと理由としては薄いかもしれないね」
「成長っていうか、年を取る幽霊が居ないってことなのか? 魂は年齢を重ねない――」
「そもそも魂が人間に備わっているのか疑問だけどね」
霊感少女は根底を覆すようなことを言った。
「幽霊イコール魂だなんてナンセンスだよ」
「では、君が見えているのはなんだい?」
すると霊感少女は歩みを止めた。
僕もつられて足を止める。
「ここに小さな子どもの霊が居るんだ」
指差す場所を良く見ると、枯れた花束が置かれていた。
「調べてみると、数ヶ月前に事故があったんだ。昼間のことだった」
そういえば、一時期ここを通れなかったことが前にあったっけ。
「その子は今もそこにうずくまっている。そして囁くの。痛いよ、痛いよって」
僕は花束から目を背けた。
「小さな子どもは成長が早いじゃない。だけど変わりがないんだよ。いつまで経っても子どものままなの」
霊感少女は悲しそうな顔をした。
「その子を見ると、無性に悲しくなる。救いがなくて。それに私自身の無力さを痛感するんだ」
このとき、初めて霊感少女の本音に触れた気がした。
「私は霊を見たり声を聞いたりするだけ。可哀想な幽霊を助けたり悪霊を祓ったりできないんだよ。それが――とても悔しい」
だから霊感少女は幽霊に対して祈ったり、手を合わせたり、冥福を願ったりしないんだ。
それに気づいた僕は――
「……? どうして、君が泣くの?」
そう言われて気づいた。
僕が知らず知らず涙を流していた。
「あれ? なんでだろうな……」
僕は涙を拭った。だけど後から涙があふれて出てくる。
「ちょっと、そこで休もうか」
霊感少女にうながされて、僕は近くの公園のベンチに誘導された。
僕は涙が止まるまでずっと霊感少女に背中を撫でられた。
なんだか子どもみたいで、恥ずかしかった。
「ごめんな。情けないところを見せて」
「ううん。別にいいよ」
霊感少女は今まで見たことのないほど優しい顔で僕を見つめていた。
「君に同情したわけじゃないんだ」
僕はゆっくりと話し始める。
「ただ、無性に悲しくなったんだよ」
言葉にできなかった。霊感少女の苦悩が心に直接響いてしまったのだ。
それに対して僕も何もできないんだ。ただ話を聞くだけで霊の声も姿も認識できない役立たずに過ぎないんだ。
「僕は――」
無力だと言いかけたそのときだった。
霊感少女は僕の手を握って微笑んだ。
「私は君が居てくれて嬉しいよ」
優しい顔で僕に言う。
「あの事件でみんなから離れられて、それでも私の傍に居てくれる。それだけで嬉しいんだ。私の『霊感症状』を分かってくれる君のこと、大切に思っているよ」
そう言われて僕はまた泣いてしまった。
僕は傍に居ていいんだ。
そう思えるのは幸せだと思う。
不幸な霊感少女に対する感情としては正しいのか間違っているのか分からないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます