第13話ねえ。幽霊と妖怪の違いはなんだろう?
「ねえ。幽霊と妖怪の違いはなんだろう?」
放課後。僕たち以外誰も居ない教室。
僕は目の前に座っている同級生の女子に唐突な疑問を投げかけられた。
生徒会の仕事が終わり、霊感少女との約束で待ち合わせしていた。
一緒に帰ろうよと霊感少女に言われたら断れない。それは友情も関係しているけど、一人で通学路を帰るのはなんだか淋しい気がしたからだ。
まあ生徒会の人たちと一緒に帰っても良かったけど、それほど親しくないからあまり楽しくなかった。
それは僕が霊感少女と友達だからということも起因している。ていうか面と向かって言われたことがある。
同じ学年の会計の女の子に「あんなのと付き合わないほうがいいよ」と言われた。その真正面からの物言いに僕は怒ることもできなかった。
気遣って言ってくれているのも分かったし、僕のことを心配してくれるのも分かってしまったから、強気になれなかったのも事実だ。
でも霊感少女のことを思うなら怒るべきだったのだろう。
怒れなかった僕をどうか許してほしい。
そんなこんなで僕の親しい友人、霊感少女の元へやってきたわけだ。
「ごめん。遅くなった」
「ううん。気にしてないよ」
霊感少女は自分の席に座って、読書をしていた。文庫版の『魍魎の匣』だった。かなり分厚い。
「その本、前々から読んでいるけど、好きなのか?」
「嫌いだったら読まないよ」
「そりゃあそうだ。どんな内容なんだ?」
「推理小説だよ。魍魎をテーマに書いているんだ」
その魍魎がなんなのか分からないけど、どうやら面白いらしい。
今度貸してよと言おうとしたけど、分厚い本を見て一瞬躊躇してしまった。
だから「今度かいつまんで教えてよ」と代わりに言った。
「いいよ。ああ、そうだね。君はあまり読書を好まない人だったよね」
そんなことはないけど、本を読むくらいなら他のことがしたいタイプの人間だから、敢えて否定しなかった。
「京極夏彦は妖怪をテーマにした作品が多いんだ」
「へえ。そうなんだ」
そして冒頭の疑問を霊感少女は口にした。
「うーん、妖怪は化物で幽霊は人間の成れの果てだと思う」
「じゃあ訊くけど、鬼は妖怪? それとも幽霊?」
「そうだな。鬼は化物に近いから妖怪じゃないのか?」
僕の推察に霊感少女は反論した。
「でも酒呑童子や茨木童子は『鬼』だけど元人間だよ」
酒呑童子や茨木童子のことはゲームで知っていたが、それが元人間だとは知らなかった。
「じゃあ鬼は幽霊なのか?」
「えっと、元々漢字が生まれた中国だと『鬼』はもろに幽霊という意味を持ってたんだよ。ウィキペディアに載っている。だけどそのウィキペディアの記載には鬼は妖怪だって言われてるよ」
霊感少女はスマホを操作して僕に見せた。確かにそう記載されていた。
「よく分からないな。じゃあ人間に危害を加えるのが妖怪? いや『牡丹灯篭』の例もあるから一概には言えないか?」
曖昧過ぎてよく分からなくなってしまった。
「まさに魍魎だね。この分かりにくさは」
「なんだい。その魍魎って分かりにくいものなのか? だからそういう疑問を言ったのか?」
本の説明のための話題なのかと勘繰ったけど霊感少女は「偶然だよ」と首を振った。
「私は神様じゃないから、予想なんてできないよ」
「君は神の存在を信じているのか?」
こういう話を真面目にしたことがなかった。幽霊を見る霊感少女ははたして神様を信じているのか?
「神様は居るんじゃないかな? 幽霊が居るんだから。まあ妖怪は居ないと思うけど」
「妖怪が居ないなんて、どうして分かるんだ?」
僕が訊ねると霊感少女は微笑んだ。
「だって、妖怪に会ったことないんだもん」
「じゃあ何故神様の存在を信じているんだ?」
まさか会ったことがあるのか?
霊感少女は笑顔のまま言う。
「ううん。だけど居たほうが文句が言えるじゃない。どうして私を産み出したのかって」
僕は霊感少女にかける言葉がなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます