第7話ねえ。あの人、幽霊に纏わり憑かれているよ

「ねえ。あの人、幽霊に纏わり憑かれているよ」


 放課後。駅のホーム。

 僕は隣で電車を待っている同級生の女子に唐突なことを言われた。

 霊感少女が指差す先を見てみると、どこか冴えない、四十代くらいのサラリーマンが線路を挟んだ向こう側でうつむきながら、僕たちと同じように電車を待っていた。


「こら。人を指差したら駄目でしょ」


 そう言って叱ってみるけれど、霊感少女は悪びれもせずに「だって幽霊が憑いてるんだもん」と言う。


「あの人、よく平気だよね。私だったら嫌になっちゃうよ」

「……どうして嫌になるんだ?」


 僕は好奇心で訊いてみると霊感少女は「だってあんなにたくさん幽霊が憑いているんだから」と説明し出す。


「右に交通事故に遭った女の人。左に自殺した男の人。足元には餓死した子ども」

「……確かに嫌になるな」


 どうしてそんなに憑かれているんだろう。


「何か言っている……もう少し大きな声で言ってほしいな――そうだ」


 霊感少女は何を思ったのか、その場を離れて、駅の階段を上がっていく。


「おいおい、もうすぐ電車が来るよ!」

「ごめん! 先に帰ってて!」


 そう言い残して霊感少女は階段を昇って、姿を見せなくなった。

 ぽつんと残された僕は、やれやれ仕方ないなあと思って、時刻どおりに来た電車に乗らずに霊感少女を待った。


 僕は邪魔にならないように並んでいた場所から離れる。そして駅のベンチに腰掛けた。

 霊感少女は意外と行動力がある。自分の疑問を解消するためならなんだってする人なんだ。それはある意味羨ましく感じる。


 しばらくして霊感少女は帰ってきた。そして僕を見つけて驚いた顔になる。


「あれ? 先に帰っても良かったのに」


 そう言いながら笑顔になる霊感少女。


「一人で帰ってもつまらないからね。それで、何か分かったのかい?」


 目の前を電車が停まっていたので、霊感少女とサラリーマンの姿は見えなかった。

 改めてサラリーマンを見てみる。

 先ほどと変わらずに、頭を垂れて、うつむいていた。


「えっとね。珍しいことがあったの。聞いてくれる?」


 霊感少女は嬉しそうに話し出そうとしている。僕は素直に「いいよ」と言ってあげた。


「実はね。あの三人の幽霊は家族だったの」

「……それは珍しいね」


 どうして家族が一人の男性に憑いているのか。少し興味が湧いた。


「はっきり言うけど、あの家族を殺したのはあの人なんだよ」


 衝撃的なことを言う霊感少女。


「初めは女性。あの人が運転していた車が女性にぶつかって殺しちゃったんだ。どちらに過失があるのか分からないけど、まあ殺したのは間違いないね」


 あまり気持ちの良い話じゃないな。


「次に死んだのは男性。どうやら夫婦だったみたいだよ。妻が死んで精神的におかしくなって自殺しちゃったみたい」


 自殺する人間の心理は分からないけど、愛する人を失った気持ちは分からなくもない。


「そして最後は子ども。夫婦の子どもだけど、男性が自殺して、家に閉じ込められた形になって、食べ物がなくなって死んじゃったみたい」


 子どもが一番悲惨だった。餓死ってきつい――

 そう考えてたときだった。

 突然、線路の向こう側に居たサラリーマンが線路に飛び込んだ。

 そして迫る電車。

 電車に吸い込まれるようにサラリーマンはぶつかり、消えていった。


 向こう側で女性の悲鳴があがった。

 それを見ていたのは僕だけではないらしい。ざわつく駅の構内。

 僕は呆然としてしまった。初めて人が死ぬ光景を見てしまったからだ。


「あーあ。結局死んじゃった」

「……幽霊が憑いていたのと関係あるのか?」


 僕が訊ねると霊感少女は「ううん。関係ないよ」と言った。

 そして、霊感少女は、残酷な行為を告白する。


「あの人に『人殺し』って言っただけだよ」


 ……僕は霊感少女を許すべきだろうか?

 それとも同情するべきだろうか?

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