第6話ねえ。幽霊ってちゃんと足があるんだよ
「ねえ。幽霊ってちゃんと足があるんだよ」
放課後。生徒会室。
僕は突然現れた同級生の女子に唐突なことを言われた。
その直前まで一個上の先輩、というより生徒会長と話をしていた。一応庶務だけど生徒会役員である僕は高校の行事の運営について話していた。
僕たちの高校は進学校だから五月に体育祭、六月に文化祭がある。そのための打ち合わせをしていたのだ。
だけど霊感少女が「ねえ。いつまでやってるのー」と言いながら入ってきたのをきっかけに話は中断されてしまった。
さらに生徒会長は霊感少女を苦手としている。厳密に言えば霊感少女ではなく、怖い話や幽霊が苦手なんだけど、そういう話ばかりする霊感少女を事のほか敬遠しているのだ。
だから霊感少女が入ってきた瞬間、生徒会長は「それじゃあ予備校に行かなくちゃいけないからこれで終わりね。じゃあね」と言い残してそそくさと帰ってしまった。
そして広い生徒会室に霊感少女と二人きりなってしまった。いや今まで二人きりになったことはあるけど。
「ふうん。じゃあ足のない幽霊ってどうして描写されたのかな?」
僕はいつもの霊感少女の唐突な言葉に一応合わせてみた。自分の席に座って、霊感少女に座るように促した。
霊感少女は当然のように生徒会長の椅子に座った。
「それが聞きたくて君に言ったんじゃない。さあいつも通り考察してみてよ」
なんだか不機嫌な霊感少女。一緒に帰る約束を忘れたわけじゃないのに。
ああ、遅かったから怒っているのかもしれないな。
まさか生徒会長と二人きりだったことに怒っているわけでもないだろう。
僕はそう思い直して自分なりの考えを言ってみる。
「そうだね。うーんと、足のない幽霊が描かれたのは丸山応挙の作品が最初だと言われているね。つまり江戸時代だ。これは日本発祥で、外国の幽霊にはちゃんと足がある」
「よく知ってるね。勉強したの?」
勉強というほどじゃないけど、僕は霊感少女と出会う前からオカルトや幽霊に興味があったのだ。
「まあね。それで丸山応挙の作品以前にはちゃんと足があったんだ。だから当時としては斬新だったんじゃないかな。足のない幽霊って。それと日本は着物文化だから足がなくてもあまり違和感がないのも要因だと思うね」
僕なりの考察、というより本からの引用を述べると霊感少女はうんうんと頷いた。
「つまり江戸時代の流行が今も続いているんだね。相撲と一緒だ」
一応言っておくけど、相撲は江戸時代以前にも存在した。古事記にも描かれているくらいだ。霊感少女の思い込みを僕は敢えて訂正しないで「うん、そうだね」と言っておいた。
「さあ、霊感少女の考えはどうかな?」
逆に訊ねてみると霊感少女は「私の考えはもっとシンプルだよ」と肩を竦めた。
「死んだときに足がなくなった幽霊だから、足がないんだと思ってる」
うん? よく分からないな。
「えっとね、幽霊って生前の直前の姿をするんだよ。事故に遭ったら骨が折れてたり血まみれだったり。首吊りだったら首に縄の跡がびっしり残ってる」
「……それは流石に見たくないな」
正直な感想を言うと「私も見たくないよ」と嫌そうな顔をした。
「じゃあ丸山応挙は足を無くした幽霊を見て、それを描いた。斬新な構図ではなくてありのままを描いた結果、幽霊の足がない絵が完成したってこと?」
僕がまとめると霊感少女は「うん。多分そうかもしれない」と答えた。
「だけど江戸時代に足を無くす事故なんてあるのかな?」
そう訊ねると霊感少女はシニカルに微笑んだ。
「事故とは限らないよ。そういう処刑法ぐらいあるんじゃない? 江戸時代って結構そこらへん野蛮でしょ」
ああ、確かにそうだと思ってしまう。
「それに、私の想像を言ってあげようか」
霊感少女はそのままの笑みで僕に近づいた。
「人を殺して足を持って帰る変態ぐらい、いてもおかしくないと思わない?」
人間の悪意は底が知れないというわけか。
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