第16話 スキル

「やっと着いたな」


 あれから魔物との戦闘は無く、歩いて歩いてようやく辿り着いた。元の世界にいた頃、やや運動不足だった俺にとっては結構しんどい道のりだ。


「結界の補強だったっけ?」


 ミラの問いに頷き、背負ったリュックからあるものを取り出す。


「なんスか、それ」

「これで結界の補強ができるらしい。これと同じものが遺跡にあって、交換時期が迫ってるんだと」

「はー」


 問題はそれがどこにあるかだが、あれか。

 遺跡を囲むようにして四隅に祠のようなものがある。ギルドから受け取った部品も四つだし多分その中だろう。

 一番近い祠に向かうとその予想は当たっていた。その場で交換して、残りも三人で手分けしてやる。


「呆気なかったっスね」

「だな。後はこれをギルドに返して終わりだ」

「もう帰る?」

「そうしたい所だけど、ちょっと休憩させてくれ」


 さすがに疲れた。魔物を倒してからはその素材の分も荷物が増えているのでそれも相まって疲れた。


「いいっスよ。オレも遺跡見学したいし」

「インテリだな」


 アクロスが戻るまで休もう。

 俺とミラは遺跡入り口前の石階段に腰を下ろした。


「はあー、やっとゆっくりできる」


 息を吐くと一気に疲れが吹き出して行く感覚になる。


「お疲れ?」

「うん。ミラはそうでもない?」

「若いし」

「俺も若いけどな」


 ミラもアクロスも俺とそう歳は離れてないように見える。多くても五歳差はないと思う。


「そういえば、ミラって学校とか行ってないのか? この世界にも普通にあるだろ?」

「在籍はしてるよ。通ってはないけど」

「不登校ってヤツ?」

「取りたいスキルは最初のうちにあらかた取ったしねえ。面白そうな事をやってたらまた行くかも」

「なるほど」


 馴染めないとかじゃなく、自分の為に有意義な選択をしたわけか。まあ、マイペースな所があるから納得だ。


「それにしてもスキルか。さっきの炎の魔法もスキルなんだよな? ああいうのってどうやって覚えるの?」

「どうやってって、普通に?」

「その普通が分からないんだよ。俺の世界じゃ、スキルなんてものは無かったから」


 スキルというか、可視化されてるステータスか。それと魔法。

 資格みたいに試験でも受けて合格したら、この手からバンバン炎とか打ち出せるんだろうか。


「ステータスはあるの?」

「ああ、それはこっちに来てから見れるようになった」

「スキル項目の所にEXPって無い? それを貯めたり実績解除したりするとスキルが付与されるよ」

「へえ、見てみるか」


 ここに来てからの初日に見て以来、実はステータス画面は見てなかった。サリーが完全にアナウンスをしなくなったのもあり、すっかりその存在を忘れていたのだ。

 出し方は覚えている。念じるだけだが、横からミラに見られたりしないよな。レベルを見られたらまずいんだが。


『本人にしか見えないから大丈夫よ』


 ああ、お前いたのか。

 じゃあオープン、と。えーと、レベルはこの際スルーで⋯⋯、お?


「何個かEXPがある。これがマックスまで貯まればこのスキルを習得できるってわけか」

「そうだね」


 ゲームっぽくて分かりやすいな。


「ちなみに何のスキルか聞いてもいい? 嫌ならいいけど」

「『ファイア』と『鑑定』だな」

「うわ、そんなあっさり」

「察するに、ポイントが貯まってるのは『ファイア』はさっき見たからで、『鑑定』は図書館で色々調べたからか?」

「そんなとこだろうね。ここから貯めていくのにも違う条件があるかもね?」

「なるほどな。マックスまで貯めるまでに違う条件があるかもしれない、と。その条件って知る方法はないのか?」

「人それぞれだからなあ。同じスキルでも人によって簡単に覚えられたりそうじゃなかったりするし」


 面白いな。個人差、個体値の差。この世界での人の才能差が、ここに現れるわけだな。


「あれ。ちなみにミラは『鑑定』のスキルは使えるのか?」

「使えるよ。『鑑定』って初歩中の初歩のスキルだから、覚えるだけなら誰でもできるよ」

「ま、まじか。『鑑定』のスキルって、人とか物のスキルを見れたりする?」

「するね」


 それはまずいんじゃないか。レベルを見られてしまう。しかも初歩だという事は、下手したらもう既に街中で誰かに見られてるかもしれないって事だ。


「⋯⋯もしかして、俺のを見たか?」

「はあ? あたしが?」

「うん」

「見るわけないじゃん」


 そうか。それは良かったけど、なんか怒ってる?


「ああそっか。スキルとかステータスとか、全く無い世界に居たんだっけ」

「まあ」

「じゃあ今回は許すけど、人のステータスを無断で見るのって犯罪なんだよ」

「は、犯罪?」

「そう。ステータスを聞いたり教えたりするのも、親しく無いと失礼に当たるから気をつけてね」

「まじか、そんなのがあるのか⋯⋯」


 いや、考えてみれば当然か。ステータスというのは、言わば個人情報の塊で、簡単に見てしまえる手段があるなら、それを縛る法も順当に有るだろう。今のは軽率だったな。特に相手が異性ならセクハラとかにもなってくるし。


「悪かった。でもこれって、言い方は悪いけどやり得だったりしないか? いくら法で縛ってもバレなきゃ捕まらないだろ?」

「それはそうだけど、極端なレベル差が無い限りバレるし防げるんだよ」

「システム的に?」

「システム的に」


 それなら安全か。俺のレベルならまず見られる事はないだろう。逆に俺が見放題まである。


「なるほどなあ、また一つ賢くなった。というか、この世界の常識は早めに覚えないとまずいな。いつかやらかすかもしれん」

「釈放金は用意しとくよ」

「そんな状況にはならないようにする」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る