第14話 街の外

「よーし、お前ら行くぞー」


 ミラとアクロスを引き連れて、北門から外に出た。今日は外のオーダーをいくつかこなしてみようと思う。


「メインは森の中にある遺跡の結界の補強で、その道中に出会った魔物の討伐がサブだ。⋯⋯今更過ぎるけど、二人って戦えるんだよな?」

「オレはいけますよ。てか、クレンポートで一番強いのがオレっス」

「まじ?」

「そんなわけないから。こいつのジョブ、シーフだから。シーフが強いわけないじゃん?」

「は? シーフ舐めんじゃねーぞ?」


 二人は相変わらず喧嘩腰だ。


「と言うか、ジョブって概念があるのか?」

「概念? それってステータス上の話しだよね。ないよ。ただこいつが、かさかさ動くのが取り柄ってだけ」

「速さは正義だろ」


 アクロスは即座に反論する。

 

「じゃあミラはどうやって戦うんだ? やっぱネクロマンサーっぽいことすんの?」

「それはあんまりないね。わざわざネクロマンスするより魔法当てる方が早いし。アンデッド系とかだったら操ったりできるけど」

「うわー陰湿」


 差し込むアクロス。


「は? 全国のネクロマンサーに謝れよ」

「陰湿ってのはお前の性格のことな?」

「は? 殺しちゃうぞ?」

「お前らって、冗談とかじゃなく本気で罵倒し合ってるよな」


 珍しい関係性だと思う。俺の周りにはいなかったタイプだ。


「こいつが勝手に突っかかって来るんスよ。それより、トオルサンはどう戦うんスか?」

「あー俺? 戦ったことない。そんな世界じゃなかったからな」


 いや、国によってはあったけど、俺には最後まで縁はなかった。


「ふーん、平和なとこだったんスね」

「そうかもな」


 平和といえば平和か。事件とかは尽きることなく起きてたけど。


「じゃ、戦闘は二人におまかせってことでよろしく」

「その分報酬の取り分弾んでくれるなら」

「あたしも、倒した魔物の素材を独り占めにできるならいいよ」


 二人は快く引き受けてくれた。


「魔物の素材か。毛皮とか剥ぎ取ったりか?」

「そうだね。あと牙とか爪とか目玉とか」

「たくましいな」


 何でもないように言うミラ。アクロスは苦い顔をしていた。


「売ればそれなりの値段になるし、あたしの場合はネクロマンサーの研究に使うしね」

「研究か。この世界の価値観がわからないけど、俺からしたらかなり特殊な生き方に見えるな」

「まあ、国を捨てたオレが言うのもアレだけど、こいつは同年代に比べたら相当アレっスよ」

「アレか」

「アレっス」

「お金持ちだからね。その辺の凡人と比べてもらっちゃー困る」

「そうか」


 そういえば貴族の家系だったか。手厚い教育を受けてきたってことだろう。純粋に感心する。


「ようやく森の入り口か」


 この世界に来て初日に通ってきた墓地草原を突っ切り、森の境に立った。昼で開けた場所だったからか、魔物にはまだ出会ってないが、森に入ってからは気をつけた方が良いだろう。森に住む魔物は結構多いと図鑑に載っていた。


「どのくらい経ったんだ?」


 誰に問うでもなく、スマホを取り出し時刻を見る。おそらく正常に動いてるだろうデジタル時計から算出して、街から森にくるまでに、約三十分かかっていた。インターネットには接続できないが、この愛用スマホはまだまだ活躍してくれそうだ。


「なんスか、それ!」

「これ? スマホ」

「かっけー⋯⋯。何に使うか全くわからないけど、洗練された何かを感じるわ」


 目をきらめかせてアクロスは言う。


「ちょっと見せてくんないっスか?」

「ん? まあいいけど」


 一瞬個人情報の観点で躊躇したが、この異世界において見られて困るものはない。素直に手渡した。

 

「おーすげえ。これって何かの機械っスよね。多分時間を見る以外にも用途がありそう」

「わかるのか?」

「オレ、国にいた時は機械いじりの仕事してた事もあるんで、ちょっとはわかるっス。その用途まではわからないけど」


 返されたので受け取る。


「こっちの世界じゃ出来る事が限られてるけど、時間を見る他に通話したりできるな」

「通話⋯⋯、その機械同士でって事っスか?」

「それもあるし、試して見たらこの世界の通話機とも通話できた。理屈は知らないけどな」

「なるほど。てことは魔力も通せるって事だ、その機械」

「魔力?」

「そっス。オレは通話機の構造は知らないけど、大抵その辺の機械って、動力は魔力なんスよ。魔力を流して機械に記された魔法式を起こす。すると、通話機の場合は通話が可能になる。仕組みとしてはこんな感じなんで、魔法式さえ完成してれば全くガワも用途も違ってても使えてしまうんスよ」

「スマホに魔法式が組み込まれてて、俺が魔力を流したから、通話できたって事か?」

「多分」

 

 当然の事ながら、俺がもといた世界には魔法なんてなかったはずだ。それなのに同じように通話機として使えるのは何故だろう。

 それを問うと、魔法式は意図してなくても作成できたりする事もある。と返ってきた。偶然なんだろうか。今はそれ以外に説を持ち合わせない。

 ちなみにこのスマホは生身の身体で触れていると、充電マークが点灯する。多分触れている時に自動で魔力を吸っているのだ。あの時通話を試した瞬間にも、吸った魔力で通話を可能にしたと推測できる。


「お二人さん。目の前、ちゃんと見えてる?」


 バカにしたようなミラの声に従って、前方に意識を向けた。そこにいたのは角の生えた四足歩行の獣。ベタついてそうな体毛は、それでも逆立ち、ゴツい牙からは涎が滴っている。赤い眼、唸り声。完全に俺達を敵として認識していた。


「一匹じゃないよ」


 よくよく見ると木や草の陰には似たような生物が潜んでいた。


「あれはたしか、マーダーウルフだったか。群れで人を襲う魔物。森によく生息している」


 図書館で調べた甲斐があった。目の前にいるのは角が生えているが、他にも翼が生えていたり尻尾がなかったり、個体によって大きい違いがある。これはマーダーウルフに限らず魔物特有の違いのらしい。


「で、今回のターゲットの魔物だ。二人とも、いけるか?」

「ま、余裕でしょ」

「アレは汚いのがアレっスけど」


 頼もしい。正直俺はビビってる。ケチらないで防具の一つでも買っておけばよかった。


「ちゃんと俺の事守ってくれよ」

「任せなって」


 そう言って、ミラは火球を放つ。目の前の魔物に直撃し、それが戦闘開始の狼煙となった。

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