第12話 ワルガキ
再びやって来た、ミラ・シーラストが住む屋敷。そのリビングに通されたところ。
「すげえ、マジに異世界人だ⋯⋯」
「疑ってたの?」
そこにいたのは白髪に赤目の青年だった。妙に目を輝かせて俺を見ている。
「オレ、アクロスって言います」
「トオル・シンミヤだ」
「やっぱ黒髪黒眼ってかっけースねえ」
「オレからしたら二人の方が馴染みがないけどな」
生粋の日本人なもんで。それに外国人とか来ないような田舎住みだったし。
「お、犬もいるな」
昨日と同じように部屋の隅からじっとこちらを眺めている。吠えようとも動こうともしない。
「え、トオルサン見えるんスか」
「見える。アクロスも?」
「いや、オレは見えないっス。⋯⋯いやあ、ずっとミラの嘘だと思ってたんだけどなあ」
「それも疑ってたの? 信用ないなー」
「あるわけねーだろ、詐欺師のくせしてよ」
「詐欺師?」
「まあまあトオルさん、気にしないで、こいつの妄想だから」
不穏なワードが出た。いや、それだけなら何も気にしないでスルーしてたが、目の前のテーブルに同じく不穏な物体がある。
「ちょっと聞きたいんだが。この積み重なった財布の山って、誰のものだ?」
全部で十個、乱雑に積まれている。スリか何かで盗ってきたのは容易に想像がついた。
妙な空気が流れる。やっちまった、とでも言いたそうな顔をしたのはアクロスだった。
「しまっとけっていたのに」
「いやマジで来るとは思ってなかったから。⋯⋯いやこれはですね、拾って来たんスよ」
「拾った。こんなにか?」
「こんなにっス」
堂々とした態度でアクロスはそう言い切った。いや、それは無理があるだろ。
ミラはミラで面白がって見ているだけ。けどお前にも責任はいくらかありそうだけどな。
「まあ、俺だって、普段から正義を振りかざしてまわるとかはしないけどな。でも目の前でこんなもん見せられたら、通報なりしないってだけで、俺まで悪人になってしまうからなあ」
「黙っときましょう。バレないっスから」
「スリか?」
「まあまあ、そこはね?」
「常習か?」
「いいじゃないっスか」
「いつからだ?」
「気にすんなって」
全部肯定と取るからな。
「トオルサン」
「なんだ?」
「もう辞めときましょうや。それ以上追求したら、そんでこのことを誰かに言ったら、流石のオレも黙っちゃいないっスよ」
「じゃあ前もっていっておくが、俺になんかあったらこの国が黙ってないからな」
妙な展開になる前に釘を刺す。戦って負けるのは俺だろうからな。
「⋯⋯⋯⋯」
あからさまにやばいって顔だ。とりあえずは良かった。
ミラは嘲笑の笑みを浮かべている。それを見てアクロスが噛み付いた。
「⋯⋯こいつはどうなんスか」
「あ、あたし?」
「こいつだって詐欺を働いてるんスよ」
「ああ、言ってたな」
「そう。こいつ、死んだ身内とかと会話させてやるっていう体で金取ってるんスけど、実際呼び出して会話させるのはその辺にいる何の繋がりもない霊なんスよ。こいつの方が重罪じゃないっスか?」
「うわ、それは悪質だな」
ネクロマンサーってそんなことができるのか。すごいな。
「いやいやいや。客は皆喜んでるからいいんだよ。客に損はさせないのをポリシーとしてるから」
「自信満々に言ってんじゃねえ。騙してるのに変わりはないんだよ」
「はあ? 騙してるんじゃなく紛らわしてんの、寂しさをね」
「屁理屈だ」
「死を別れの観点でしか見ない生者が悪い。てか、お前と違って屁理屈でも理屈になってるから、とやかく言わないでくれますか?」
「喧嘩すんなよ」
こいつらの関係がなんとなくわかるな。犬猿て感じだ。何で一緒に住んでるんだろ。
「なあ。もうその悪事をやめろって言ったら、二人はやめてくれるか?」
二人に対して問う。
俺としては被害者がどう、とかは別にどうでもいいし、全方位に対して穏便に済めばそれで良い。
「まあ、正直あたしは暇つぶしがてらやってただけだし、やめるけど?」
「オレだってやめる、ていうかやめざるを得ないだろ」
「それならいい、その財布も俺が代わりに落とし物としてギルドに届けておく。で、よ。おれから二人にお願いがあるんだが」
当初の目的。これを聞いてもらうためにここに来た。
「俺と一緒に『外』のオーダーをやって欲しい」
ギルドの依頼。今の俺が一人じゃ絶対できなさそうな仕事だ。
「魔物退治系ってことスか?」
「そうだ。昨日一日、『内』のオーダーをいくつかこなしてたんだが、正直実入りが少なくてな。暮らしていけそうにないんだ。だから頼む」
「んだよ、取引の形を取る為に咎めたのかよ。まあいいスけどね」
「あたしもいいよ。自分で使う素材も集めたいし」
「そうか、助かる」
まずは進展か。
「オレとしてもありがたいわ。スリ以外で金稼ぎできなかったからなあ」
「いや、それこそギルド行けばいいのでは?」
「いろいろ理由があるんスよー」
「こいつお尋ねものだから」
「おい、言うなよ」
そりゃあ、スリとかするヤツだしな。
「何かやらかしたのか?」
「まあまあ、それは追々ということで」
「脱国したんだよねえ」
「お前死ねよ」
話したがらないアクロスだが体よくミラがばらす。
「大手を振って街とか歩けないってことか」
よくわからないが、そういう事だろう。
「まあ、目立ちたくはないっスね。公共施設とかは怖い」
「なるほどな」
お互いちょうど良かったってわけだ。
「あ、でも外に行くのはしばらく後でもいいか? もう数日は街を見てからにしたい」
「いいよ。こいつの稼ぎがなくなっても、あたしが仕方なくこの家に住まわしてやるし、仕方なくご飯も用意してやるから」
「うざ。てか元々ここに住んでたのはオレじゃねーか」
「貧乏人がなんか言ってるわあ」
互いに口悪く言い合っているが険悪な感じはない。これが日常なんだろうな。
「本当の元の住人はあそこの犬だけどな」
そう言って視線を移すと、さっきからずっと、飽きもせず同じようにしてこちらを見続けている霊犬がいる。いや、正確には俺らを通り越して窓から見える外を見ているのだ。その顔はどこか寂しそうに見えて、なぜか心に引っかかって離れなかった。
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