第7話 レベル

「色々気にはなることはあると思うけど、先にこちらの要求に関連することから教えるよ。⋯⋯端的に言ってわかるかわからないけどね、一言で言うなら魔王の復活を目論む『キャンサー』という組織を撲滅する為に協力してほしい、ということ。意味はわかる?」

「⋯⋯意味は、まあわかる」


 要求として非常にシンプルではある。


「魔王とか、その復活とか、詳しく知る必要があると思うけど、先にその目的の為に俺は何をしたらいいのか聞きたい。さっきも言ったけど、俺に力はない。色んな意味でだ。そんな俺にできることなんてあるのか?」

「そうよね、まずはそこか。少なくとも力はある。この世界にはレベルの数値に依存した効果を発揮する魔法があるの。⋯⋯今、レベルはいくつ? 百は超えてるんでしょう?」

「百というか、五桁」

「ごけた⋯⋯、五桁? 流石に⋯⋯、えホント? 笑っちゃうわね⋯⋯」


 笑うと言うが、逆に恐怖さえしているようにも見える顔だ。


「そのレベルでレベル依存魔法を行使したら、多分世界が終わる程の効果が発揮されるわ。そんなの、魔王より脅威なんだけど?」

「いやー⋯⋯」


 そんなジト目で見られても。


「え、じゃあ逆に協力しようがないのでは?」

「そこは追々考えるよ。ここはじっくり考えなきゃいけないところだから。絶対他言無用だよ。話したって、誰にとっても良いことにはならないから、ね」

「それは察しがつくよ」


 核兵器を持ち歩いてる感じなんだろうか、この言い方は。結構ヤバい存在ってことだ。


「思っていた以上に危険人物だったわ⋯⋯」

「それ本人を前にして言っていいのか?」

「自覚はちゃんと持ってるでしょう?」

「いや、まあ⋯⋯」


 疑問形ではあったが命令形のようにも感じ取れて、少しすくんでしまった。


「力をどう使うかはひとまず置いておいて、何をしたらいいか、よね。⋯⋯そうね、何もしなくていいよ。ある程度自衛できるくらいには鍛えて欲しいのと、この街に住んでいて欲しい。まあ、ある程度は自由に生活していいわ。ただし、レベルの件に関しては誰にも言ってはいけないよ。最悪命を狙われるからね」

「それは、肝に銘じておく」

「お願いね。うん、とりあえず今の時点ではこちらから話すことはもうないわね。質問はある?」

「じゃあ、魔王について聞きたい」

「簡単に言えば、魔物を統べる王様のことね。大体二百年前にこの世界を侵略しようとしたけど、英雄達によって阻まれたの。ちなみにその英雄というのがトオルと同じ異世界人のこと。あの時も今みたいにに私が対応したのよ」

「対応って、そうか。エルフって人より長寿だからか」


 ラクレーナは大体二百歳は超えてるってことか。見た目は若いのに、まさに異世界って感じだな。


「他にはある?」

「うーん。知らないことはいっぱいあるんだろうけど、何を知らないのか知らないって感じだな。一般常識とかはしばらく生活して身につけていくよ。生活する中で、やっちゃいけないこととかはあるか?」

「やっちゃいけないことか。暴力を振るってはいけない、とかの人としてのルールは守って欲しいかな。驕らないで欲しいって意味だよ。それと、念を押すようだけどレベルを他人に知られてはいけない。そんなところかな」

「りょうかいだ」


 大きく頷くと、嬉しそうに微笑んでくれた。⋯⋯なんかあれだ、年上って感じの対応だ。子供扱いされてるような感覚。実際人生経験の差は大分あるからそうなるのも当然か。


「本格的に夜になってきたな」

「そろそろアパートに案内しようか」

「アパート?」

「君の当面の住処となる場所だよ。前もって手配しておいたんだ。後これ」

「これは、お金?」

「大体三ヶ月分かな、それ以降は自分で働いて稼いでね」

「何から何まで、助かります」

「じゃ、行こうか」


 そうしてこの場を後にした。地上に降りる為の階段はあったが、また魔法を使って下ろして欲しいとせがんだら、困った風に笑いながらも聞いてくれた。

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