第2-5話 いざ、リゾートアイランドへ(前編)

 

「そろそろシードラゴンの生息域だな……イオニ、潜ってくれる?」


「了解フェドくん!」

「ベント開け! 1番から5番まで注水開始!」


 ブシュッ……ざあああああっ


 圧縮空気が抜ける音がし、水音と共にわずかに発令所の床が傾く。


「耐圧魔法と暗視魔法をかけてっと……イオニ、潜望鏡は上げたままで行くよ」

「おっけ~! 見張りはフェドくん艦長に委任します」


「まったく……ホントに反則よねその魔法」

 僕の指示に元気な返事を返すイオニ。

 苦笑を浮かべながらソナーを操作するセーラ。

 度重なる訓練により、僕たちのコンビネーションはどんどんレベルアップしていた。


「深度50……艦を水平に戻します……動力を蓄電池気に切り替え、両舷強速4.5ノット!」


 ぐんっ!

 イオニの号令と共に、艦が静かに動き出す。

 水中では蓄電池?に貯めた電気でスクリューを回すので、ほとんど音がしない。


 あらためてすごいギフトだよなぁ……どれだけの技術がこの伊402につぎ込まれているのだろう。

 寸分の狂いもなく動作する機械類を見て、感心しきりの僕。


 リトルアイランドまであと数十キロ……近海にシードラゴンが出没するという事なので念のため、僕たちはこの場所から海中に潜ったのだ。


「ソナーに感あり……サンゴ礁が多いわね、イオニ、もう少し速度落として……フェド、進路上に岩礁があったら報告してね!」

「了解セーラちゃん、3ノットに減速……」

「ん、大丈夫セーラ……前方1000メートルに障害物なし!」


 ソナーで海底の様子を探っているのだろう。

 セーラの指示に報告を返すイオニと僕。

 潜望鏡の視界に映るのはサファイアブルーの海。


 左手の岩礁にはたくさんのサンゴが生え、サンゴの間を色とりどりの魚たちが踊る。

 海水の透明度は高く、キラキラと輝く日光のおかげで遠くまで見通せる。

 南国の海にやって来た! その実感を僕は噛みしめるのだった。



 ***  ***


「そろそろ報告に会ったシードラゴンの生息域だ……みんな注意!」


「了解フェドくん! 懸丁装置(深度を一定に保つ機械)起動、無音潜航……」


 スッ……

 僕の指示にイオニが返答する。

 それと同時に動力が切られ、艦は惰性のまま進み続ける。

 発令所に響くのは、3人の息遣いとわずかな機械の駆動音だけ。


「了解……ソナーをアクティブからパッシブに切り替え……」

「……感あり……2時の方向、距離8000……フェド、見える?」


 セーラがソナーのモードを切り替えている。

 おそらく、こちらから音を出して反射を探るモードから、向こうが出す音を拾うモードに切り替えたんだろう。

(”上の世界”から落ちてきた本に書いてあった)


 セーラの言う方向に潜望鏡を向け、暗視魔法を拡大モードにする。

 さすがに1万メートルは遠いけど、相手も巨大だ……すぐに奴らの姿が見えてくる。

「シードラゴン確認……1,2,3……10体以上? 幼体もいるな……ネスト(巣)を作り、繁殖しているのかも」


 はるか向こうの海底で、群れを作り我が物顔で泳ぎ回るシードラゴン。


「うわぁ……たくさんいる」

「にょろにょろしていてウツボみたい……わたし苦手かもぉ」


 異世界の”どらごん”がみたい、わくわく顔でそう言ったイオニだが、潜望鏡を覗き込むなり、うげぇと言う顔になる。

 確かにシードラゴンは体長は長いがミミズのように細い姿をしており、あまりドラゴン感のないモンスターだ。

 女の子にはすこし苦手なビジュアルかもしれない。


「ううっ、フェドくんかんちょ~、撃っちゃう? 処す?」

「わたしの九五式酸素魚雷、全門発射可能だよ?」


 よほど気持ち悪かったのか、じゃき~ん!と魚雷発射準備完了であることをアピールするイオニ。

 確かに魚雷を5,6本撃ち込めば殲滅できるだろうけど……。


「いや、今は先を急ごう」

「魚雷は数に限りがあるし……まずは物資をリトルアイランドへ届けることを優先しなきゃ」


 僕は首を振ると、奴らをやり過ごし、先を急ぐことを指示する。


「……フェドが正しいわね」

「イオニ、アンタいくら海軍が見敵必殺を是としてると言っても、今は輸送任務中よ。 自重しなさい」

「ふぁ~い、取り舵30度……ドラゴンさんから離れます」


 イオニがセーラに叱られている。

 こうして僕たちはシードラゴンの群れから離れ……数時間後、無事にリトルアイランドの港に到着したのだった。

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