第234話 封術銃・試作一号の威力

☆体調を崩して更新が遅くなりました。



 ☆



「閣下、この度は私たちの王都滞在にあたり、様々な便宜を図って頂きありがとうございます」


 第一声でホテル手配のお礼を言うと、フリード伯爵は、ふっ、と笑い馬から降りてきた。


「なに、うちも出資している宿だ。口利きするくらいどうということはない。––––それより俺は、今日貴様が披露する『新型武器』とやらの方がよほど興味があるんだがな」


 俺の前に立ち、にやりと笑う伯爵。

 この人は、こういう話が早いところがいいよな。


「もちろん準備はできております。早速、射撃の実演とまいりましょう」


 俺が大仰に立礼すると、伯爵は俺の肩に手を置いて、


「あれだけ吹いたのだ。どれほどのものか楽しみにしてるぞ、ボルマン」


 と凶悪な笑みを浮かべたのだった。




 ☆




 俺は持参した銃のケースを傍らのテーブルに置くと、伯爵や皆が見守る中、ふたを開いた。


 姿を現す封術銃。


 外観は前世の火縄銃……には全く似ていない。

 三八式歩兵銃のような細身のボルトアクションライフルとも違う。


 そのシルエットは、分かりやすく言えば『マガジンがなく銃身が長い木製銃床のアサルトライフル』だろうか。

 それも米ソ独ではなく、スイスやベルギーのそれに近い。


 要するに、ゴツい。

 そして重い。


 引き金と銃身端の間のレシーバー部が分厚いのがその原因だった。


 これは封術板を免震させて保持する機構を組み込んでいるためで、ただ筒に箱が付いているだけだった最初の試作品を思えば、これでもかなりマシになった方だ。


 ちなみに銃が収まる木製のケースは、ティナの父ダリルの謹製。


 元弓職人の彼は、さすが木の加工についてはお手のもの。頑丈で高級感のあるケースに仕上げてくれていた。




「ほう、これがお前の言う『銃』というものか」


 興味津々にケースを覗き込む、海賊伯。


 俺はケースから銃を取り出し、伯爵に手渡した。


「……なかなかの重量感だな」


「あまり軽すぎると、発砲時の反動で銃身が跳ね上がって命中率が落ちるんです」


 嘘ではない。

 それだけでもないが。


「それで、これはどうやって使うんだ?」


「とりあえず、一発撃ってみましょうか」


 俺はケースから簡易スタンドを取り出してテーブルに置くと、伯爵から銃を受け取ってスタンドに載せた。


 その状態で銃身後方の肩当てストック上部の小さなカバーを跳ね上げると、スロットが露出する。


「このスロットに封力石を入れます」


 俺は腰袋から白い光を湛えた封力石を取り出すと、スロットに入れてカバーを閉める。


「検証してみたところ、小型封力石1個で5回程度の射撃が可能でした」


「つまり、5回撃つごとに封力石の交換が必要になるのか」


「はい。交換にかかる時間は慣れれば10秒を切ると思いますが、排出や挿入方法に改良の余地はあるでしょうね」




 俺はさらに腰袋から球形の弾丸を取り出す。


「これが発射する弾体です。今回は時間がなかったので球形ですが、閣下に出資頂けましたらすぐに改良に取り掛かりたいと思ってます」


「球形だと何か不都合があるのか?」


「理想の形と比べると、命中率も、飛距離も落ちるんですよ。ただ、弾丸を理想的な形にするには銃本体の大幅な改良も必要ですが」


 要するに目指すのはライフル弾であり、銃身内にスパイラル状のライフリングの刻まれた後装銃ということだ。


 前装式マスケットから後装式ライフルに進化するのに前世では300年近くかかっている。


 とりあえずはミニエー弾のようなどんぐり状の弾を使うライフルドマスケットを目指し、その後本格的な後装銃を目指す。


 そんな二段階のロードマップを俺は描いていた。




「さて、この弾丸を銃口から入れ、㮶杖(カルカ)で奥まで押し込むと、発射準備は完了です」


 俺は手早く弾を装填し、銃を担いだ。


「発砲時には大きな破裂音がしますので、ご注意ください」


 前にダルクバルトでやった試射会と同じく、今回も射撃は俺自身が行う。


 これは、試製品を扱うリスクを俺自身が引き受けると同時に、『13歳の子供でも扱うことができる』というPRの意味もあった。


「的は、あちらに置いてあります盾と鎧です。ここから的までの距離は、約50mとなります」


「以前、貴様が予告した通りの性能、ということか?」


 そういえば、フリーデンでの交渉の時に、そんなことを口走ったっけ。


「結果は見てのお楽しみですよ。閣下」


 俺はにやりと笑うと、槓桿に似た右側のレバーを引き、銃口を的に向けた。




「それじゃあ、いきます!」


 銃床の肩当てを腕の付けに押しつけ、固定。


 レシーバーに固定した照門を覗き込み、銃口の将星と標的の盾を一直線上に合わせる。


 ––––そして、引き金を引く。


 パァンッ!!


「!!」


 木製の大盾は、一発で弾け飛んだ。


「……っ」


 絶句する伯爵。


(まだまだ、これからですよ。閣下)


 心の中でそんなことを思いながら、俺はすぐに二発目の弾を装填。


 今度は板金鎧(プレートメイル)に向かって発砲する。


 パァンッ!!


 鎧に穴が空いた。


 続いて三発目を装填。

 そして発砲。


 パァンッ!!


 その後、続けて四発目、五発目と撃ち込み、鎧を穴だらけにしたのだった。




「さて。いかがですか、閣下?」


 銃口を下ろして振り返ると、フリード伯爵は凄い顔で封術銃を睨みつけていた。


「むぅ…………」


 唸る伯爵。


 いつもならエリスあたりが口を開くのだが、彼女に目をやると、口元に指を立て『しぃ』というジェスチャーをしてきた。


 意訳するなら『黙って待て』というところだろうか。


 彼女の指示通り、俺たちは黙って伯爵の言葉を待つ。


 やがて––––、


「時代が変わるな」


 フリード伯爵が、ぼそりと呟いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る