第185話 若い和解
今の仲間の中で、ジャイルズにしか出来ない仕事。
それは……
「ひと言で言えば、スカウトだな」
「す、スカウト???」
戸惑いの声をあげるジャイルズ。
再びにやりと笑い、「そうだ」と頷く俺。
ジャイルズは領内の子供だけでなく、大人にも顔がきく。
顔の広さがうちの仲間の中では突出しているのだ。
新たな仲間……未来の俺たちの部下を探し連れてこさせるには、まさにうってつけの人材と言える。
適性を考慮した俺のナイスな指示にジャイルズは、こう答えた。
「スカウトってなんだ……ですか?」
ガクッ
うん。そうだね。
やる気と顔つきが変わっても、頭の良し悪しはそうそう変わらんよね。
俺がバカだったよ!
「ごほん! ようするに、俺の下で働いてくれそうな奴を勧誘して来い、ってことだ」
「カンユウ?」
いまいちピンとこないという顔で、首を傾げる脳筋。
「そうだ。スタニエフには既に二人の部下がいるだろ? それと同じように、お前の指示で動く兵士、あるいはエリスの封術の助手、カレーナに任せようと思ってる諜報関係で動く人員が必要なんだ。その候補となる者を領内で見つけてきて欲しい」
「はあ、なるほど…………あっ、つまり『子分にしたい奴を引っ捕まえて来い』ってことですね!?」
「いや、力づくで捕まえて来るんじゃなくてだな……」
段々といつもの調子を取り戻してきたジャイルズ。
それに比例して深く深く頭を抱えてゆく俺。
なかなかうまくいかないものだ。
俺はジャイルズに、力で脅しつけず本人がやりたいと思うように雇用条件を提示して勧誘するように、丁寧にていねいに説明した。
「……という訳だ。分かるかおい?」
「ええ、任せてくれ……ください。いきがいい奴を捕まえてきますよ?」
いや、絶対分かってないだろ?!
「住む場所と飯はこちらで用意する。危険はあるが、もしもの時は本人と家族に補償する。未成年を連れて来るときは、必ず親御さんの同意をとってくるように。いいか?」
「は! かしこりまりました!!」
なんか一字多かった気が。
……まあ、いいか。
「頼んだぞジャイルズ。期限は二週間。ダルクバルトの未来は、お前の働きにかかってるんだ」
「はい!!」
大きな声で返事をするジャイルズ。
とりあえず、前向きになってくれただろうか。
俺がデスクに戻り、はぁ、と小さくため息を吐いた時だった。
コン、コン、と部屋の扉がノックされた。
☆
「入れ」
俺が声をかけると、扉が開き、彼女が姿を現した。
「カレーナ……」
再び複雑そうな表情になるジャイルズ。
カレーナは暗い顔で彼に小さく会釈する。
彼女はつかつかと歩いて来ると、ジャイルズの隣に立った。
「朝クロウニーさんから『遠出の準備をしろ』って伝言を聞いたんだけど」
「ああ、そうだ。昨日の件で、お前には俺と一緒にテンコーサの街に行ってもらう。……が、まずはその前にやるべきことがあるよな?」
そう言って、目でジャイルズを指し示す。
「うっ……」と躊躇い、ちらちらとジャイルズの方を窺うカレーナ。
俺は指を組み、温かい目で二人を見守る。
「にっ、ニヤニヤすんなよ。気持ち悪い」
うぐっ! ヒドイ……。
今俺は、未来から来たネコ型ロボットの気持ちが少し分かってしまったぞ?!
顔を引き攣らせる俺を無視して、カレーナは体をジャイルズの方に向けた。
……顔は背けたままだが。
「あ、あのさ……」
「……おう」
こちらも体をカレーナの方に向けたまま、目を逸らすジャイルズ。
「一緒に動いてたのに、相談もせず勝手に動いてごめん」
やや早口気味に、囁くように呟くカレーナ。
その彼女にジャイルズは、
「次は、事前に話してくれよな。……反対するかもしれねーけど」
「……なんだそれ。ちゃんと賛成してくれるなら、話してやるよ」
「いや、それおかしいだろ?」
なんか、二人してくすくす笑いながらやりあい始めた。
この二人、案外気が合うんじゃないのか?
俺はそんなことを思い、苦笑しながらパン、パン、と手を打った。
「はいはい。じゃあこの件はこれでおしまいだ。続きがやりたきゃ俺のいないところでやってくれ」
「ちょっ、あんたっ?!」
「あ、アニキ?!」
なんだそのリアクションは。
ってか、ジャイルズの俺の呼び方がおかしい。
「さあさあ、ジャイルズはスカウトの件を頼む。カレーナはすぐに出るぞ。玄関で待ってろ」
こうして二人のあれこれの件は、とりあえず幕を下ろしたのだった。
☆
数時間後。
俺とカレーナは、ダルクバルトの北の北。コーサ子爵領テンコーサの街の商業ギルドにいた。
昼ご飯を抜いて馬をとばしてきたのだ。
そこまでしてやって来た俺たちは今、ギルド職員を前に呆然としていた。
「え、今なんて言った?」
俺の問いに、受付の若い女性は再度、手元の分厚い台帳に目を落とし、記載を確認したあと顔をあげた。
「……やはり間違いありませんね。『ダイパース洋品店』は、5年前に廃業しています」
困ったようにそう告げる受付嬢。
俺とカレーナは顔を見合わせ、
「「ええええええええ??!!」」
二人の声が、ギルド内に響き渡った。
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