第181話 意匠と封術板

 ☆今回作中に、読者の皆様のアイデアを採用させて頂きました。ご提案頂きありがとうございます☆




 ☆




 皆から意匠のアイデアを募るためブレインストーミングを実施した結果。

 出たのは、次のようなものだった。


 ・子豚鬼(リトルオーク)

 ・エステルの尊い微笑み

 ・ひだりちゃん(剣・タコ)

 ・口と手 ※交渉を表してるらしい。

 ・金貨と金の入った袋

 ・麦と葡萄、苺、林檎


 このあたりまではまだいい。

 だが––––、


 ・バッタの下敷きになる俺

 ・テーブルの上に硬貨の山を作り卑猥な顔で金を数える豚

 ・料理を前にナイフとフォークを持って舌なめずりする豚


 おい。これ、ただの悪口だろ!?




「……エステルの笑顔に決定」


 俺の言葉に、皆から「賛成!!」という声が上がる。

 当のエステルは––––


「は、恥ずかしいのでやめてくださいっ」


 頰を真っ赤に染めて恥ずかしがっていた。


「なんで? 絶対可愛いのに。間違いなくプレミアがつくわ」


「ええ、一択ですね。それ以外あり得ません」


 追い討ちをかけるエリスと、なぜかドヤ顔でうんうんと頷くカエデ。

 一方のエステルは、


「ぜったい、だめです!」


 恥ずかしさのあまり両手で顔をおおってしまった。


「まあ、エステル本人が嫌がってるから、やめとこう」


 俺がそう言うと、


「裏切り者ぉーー」


「自分だけ良い格好をして、抜けがけですか?」


 エステル可愛い同盟の二人にぶー垂れられた。


「ヘンリックとルネはどうだ? これでデザインできるか?」


「ええ、十分ですよ」


 ヘンリックはにこやかにそう言い、ルネは「いつまでに仕上げればよろしいですか?」と尋ねてきた。

 どうやら、あんなアイデアでいけるらしい。さすがプロ。


「四日で頼む」


「……分かりました。頑張らせて頂きます」


 気合い十分だ。

 俺は皆を見まわした。


「という訳で、出来上がりは表彰式でのお楽しみだ。これで一度解散にする。次の打合せがあるから、エリスとルネは残ってくれ」


「はーい」という言葉とともに立ち上がる一同。


 エステルからは、去り際に「わたしの顔はダメですからね」と頰を膨らませてクギを刺された。


「わ、わかってるよ……」


 目をそらす俺。

 エステルが俺の手を両手でつかんで引き寄せる。


「ほ・ん・と・う・に、ダメですよ?」


「……はい」


 目の前にエステルのキュートな顔があって、思わず頷いてしまった。


「ボルマンさまは、本当にやってしまいそうで不安です」


 そう言って困った顔をするエステル。

 可愛い。


 ……自分用に作らせようかな。

 エステルメダル。




 エステルと他の仲間たちが退室すると、部屋にはエリスとルネ、そして俺の三人が残った。


「さて。ルネに頼みたいもう一つの仕事の話をしようか。––––エリス、図案は?」


「持ってきたわ」


 テーブルの上に広げられる、いくつもの幾何学模様。

 興味深げにそれを覗き込むルネ。


「ルネには、鉄か何かの金属板にその模様をタテヨコ五分の一のサイズにして彫りこんで欲しいんだ。正確に。歪みが可能な限りゼロになるようにして」


「これを、ですか?!」


 ルネはごくりとつばを飲み込んだ。

 爆轟の封術陣は、エリスによってシンプルな形に分解されていた。

 それでも、五分の一のサイズで精密に彫り込むには、まだまだ複雑な図案と言える。


「ああ。まずはその1式を二週間程度で。その後は、それを量産する方法を考えて欲しい。必要なら新たな工具を作ってもらっても構わない」


「二週間で……」


 呟いたルネは、図案を一枚、一枚、めくってゆく。

 その数、八枚。それなりに大変な仕事になるだろう。


「これは、何に使うものか伺っても?」


 ルネの問いに、首を振る。


「それは言えない。ただ一つ言えるのは、それが完成すれば、世界を変えるほどのものだということだ」


「世界を?」


「ああ。絶対秘密で頼む。ヘンリックにも、だ」


「ひ、秘密を漏らしたら?」


 びくびくしながら質問するルネ。

 そんな彼女に、エリスがにやりと笑った。


「我がバルッサ家が、総力をあげてあなたとあなたの関係者を追い詰めるわ」


「ひぃいっ?!」


 怯えるルネ。


 やばい。エリスが悪い顔すぎる。

 こういうところは、フリード伯の娘だと納得してしまうな。


 俺は半泣きのルネに笑いかけた。


「大丈夫。何もしないよ。ちゃんと功績に見合った報酬を用意するし、気楽に取り組んでくれ。君の力が必要なんだ」


 涙ぐんだ装飾細工師の女性は、すごい勢いで何度も頷いたのだった。








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