第180話 ボルマンメダル?
☆更新とコメント返信が滞っていて申し訳ありません。現在某作業が佳境を迎えており、なかなか手が回らない状況です。あと数日で平常運転に戻りますので少々お待ちください。
☆
「ルネに依頼したいことは二つある。事前に伝えてあったように、一つはメダルの製作だ」
俺の言葉にルネは、
「はい。ご指示頂いた通り、彫刻用の材料と道具を持参致しました」
そう言って、傍らに置いたどデカい旅行鞄に触れた。
その様子を見ていた仲間たちの頭の上に『?』マークが浮かぶ。
最初にしびれを切らしたのは、やはりというか案の定というか、我らが天災少女だった。
「メダルって、何のメダルよ」
首を傾げるエリス。
俺は彼女の問いに、答える。
「『ボルマン救命勲章』メダルだ」
ぶっ!!
噴いたやつ数名。
……失礼なやつらだな、おい。
「けほっ、けほっ、な、何それ?」
派手にむせたカレーナが、目に涙をうかべながら尋ねる。
「狂化ゴブリンのオフェル村襲撃事件の際、逃げ遅れた老人を危険を顧みずに助けに戻った、勇敢な少年少女に与えられる勲章だぞ」
ドヤァ!!
胸を張る俺。
ドン引きする仲間たち。
そんな中、ぽん、と手を打った俺の婚約者は、
「ボルマンさまが先日仰っていた、来週の表彰の際に送られるメダルですね!」
と、にこにこしながら言ってくれた。
うん。エステル、まじ天使。
「エステル正解! せっかく表彰するのに紙と金一封だけじゃありがたみがないだろ。せめて勲章のメダルくらいは用意しようと思ったんだ」
「あ、金一封を用意するんですね。金額は後で『きちんと』相談させて頂ければ」
スタニエフが笑顔で圧をかけてくる。
「お、おう……」
その圧に押される俺。
実は先日のお祭り以降、リードとティナの受け入れ準備や封術銃の開発手付金などの出費がかさんでいて、昨晩『そろそろ懐事情が厳しい。安請け合いは慎んで欲しい』と注意を受けたばかりだった。
近いうちに、母豚から搾り取る以外の金策も考えなくてはならないだろう。
「ごほん! 話を戻すぞ。……とにかくそのメダルだが、今日、皆に集まってもらったのは、そのメダルのデザインについて考えてもらうためだ」
「え、彼女が考えるんじゃないの? そのためにわざわざ呼んだんでしょ?」
エリスの問いかけに、俺は頷いた。
「もちろん最後にメダルに彫りこむのはルネに任せる。だけど彼女は、俺のこともダルクバルトのこともよく知らないからな。皆にアイデアを出し合ってもらって、それをもとにヘンリックとルネが意匠化。最終的にルネがメダルに落とし込むような形で進めようと思ってるんだ。……ヘンリック、ルネ、どう思う?」
「それが良いでしょうね。僕たちももちろんアイデア出しに参加しますが、この地に親しみボルマン様と行動をともにされている皆さんの方が、精度が高いアイデアを出して頂けれると思います」
「私もそう思います」
ヘンリックが賛意を示すと、ルネもすぐに同意してくれた。
「今回つくる意匠はメダルだけじゃなく、今後俺が使う旗や紋章、開発した商品にも使っていこうと思ってる。つまりシンボルマークだな」
要するに、これを機にダルクバルト領を象徴するシンボルマークを作ってブランド化を目指していこうと。そういうことだ。
「それって、ダルクバルト男爵家の紋章じゃダメなのか?」
それまで黙っていたジャイルズが、素朴な疑問を口にする。
こいつの場合、父親のクリストフがうちの紋章をあしらったマントを羽織ったりしてるからな。
疑問といえば疑問なんだろう。
「確かに男爵家にも紋章があるんだが……知っての通りデザインがイマイチなんでな」
「ああ……」と、ほぼ全員が納得する。
ちなみにダルクバルト男爵家の紋章は、シンプルに一本の麦の穂と鎌がクロスしているだけのものだ。
いくら農産物しか売りがないとはいえ、ちょっとひどい。
「それにあの紋章は、男爵家の当主である父親が管理してる。俺が自由に使う訳にはいかないんだ。そこで、この機会に俺がダルクバルトを象徴する意匠をつくってやろうと。そういうことだな」
「あんたなりに、色々考えてるんだな」
先ほど涙を浮かべるほど笑いを堪えていたカレーナが、ふっ、と笑った。
……今のはウケて笑ったんじゃないだろう。たぶん。
「さあ、という訳でブレインストーミングだ。スタニエフ、メモを頼む。みんな、連想ゲームの要領でじゃんじゃんアイデアを出してくれ」
俺が、パン、と手を打つと、アイデア出しが始まった。
––––三十分後。
「こ、これは……。マジ?」
俺はブレストの結果に、顔を引き攣らせていた。
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