第172話 村長の懸念と、先読みメイド

 

 俺と仲間で南の山に入り、キラービーを討伐しながら探索する、という提案。


 てっきり喜んでもらえると思ったのだが、俺の話を聞いた村長は、真っ青になって遠慮し始めた。


「そ、そんな、ボルマン様自ら山に入られるなど、あまりに恐れ多いことです!」


「え? いや、そんなに大したことじゃ……」


「いえいえ、本当に恐れ多いことです! 二十名程度の領兵の協力さえあれば、あとは村の者たちも参加してなんとかできますゆえ」


「二十名って……うちの領兵の三分の二だぞ」


「じゅ、十名でもなんとか……」


「いや、無理があるだろう。レベル的にも、人数的にも」


 領兵たちの平均レベルは15。

 もちろん封術士などという気のきいた兵はおらず、皆、剣や槍、斧に盾といった物理攻撃職ばかりだ。

 キラービーの大軍とやり合うには、些か心もとない。


「俺と仲間が山に入って、探索しながらちょこちょこ討伐する方が現実的だと思うんだが?」


「いえいえ、奴らは群れで襲ってきて、おまけに仲間を呼ぶんです。いくらボルマン様がお強いと言っても、さすがにちょっと……」


 トーサ村の人たちのためと思い、自ら動こうとする俺に、必死で辞退を試みる村長。


 なんだ、この構図は?




 結局、数度の押し問答のあと、村長が懸念していることが明らかになった。


「キラービーは、本当に危険なのです! 私たちの要請でボルマン様が山に入られて、万一のことがあったら……!!」


「ああ、そういうことか」


 要するに、①レベルの低い俺が、②村の要請で山に入って何かあったら、豚父(ゴウツーク)に処罰されるのでは、と。

 それを懸念していたらしい。


 最近は、魔物討伐どころか命がけで帝国製のバケモノと戦ったりしてたんで自覚が薄くなっていたが、一応俺はダルクバルト唯一の跡取りだったな。


 少なくとも領内では次期領主の俺の生死は重要事項。……というのが一般的な認識だろう。あの豚父と豚母がそこまで俺を大切に思っているとは思えないが。

 ただまあ、村長の心配も分かる。


「すまん。配慮が足りなかったな。とりあえず、今の俺のレベルはこんな感じだ。––––ステータス」


 人差し指と中指を揃えて手を振り、一瞬だけ自分のステータスを表示する。

 村長はおずおずと顔を上げ、上の方の数字を見る。


「えっ……、レ、レベル35ぉおおお????!!!!」


 大げさと思うくらいの顔芸を披露し、仰け反る村長。

 俺はもう一度手を振り、すぐにウインドウを消した。


「……とまあ、こんな感じだ。ちなみに俺の6人の仲間も皆レベル30を超えてるから、安心して任せるといい。封術士も二人いるから、条件次第では俺たちだけでうちの領兵全員と渡り合えるぞ」


「ひょっ?!」


 妙な声をあげて再び仰け反る村長。

 もし地球に転生したら、リアクション芸人でも目指してみてはどうだろうか。


「あと、俺たちが蜂をすべて駆除するまでは『トーサ村からの要請』というのは伏せておこう。で、駆除に成功したら『これは村の貢献に対するボルマンからの褒賞だった』と発表してくれればいい。––––それでどうだ?」


 俺の問いかけに村長は目を丸くしていたが、やがて笑顔になり、


「そういうことであれば、断る理由はありません! どうかよろしくお願いいたします!!」


 そう言って、深々と頭を下げたのだった。




 ☆




 村長との話を終えた俺が村長宅を出ると、呼びに行く間もなく、二頭の馬を連れたカエデが建物の影から姿を現した。


「お待たせ。すごいタイミングだな」


「そうでございますね」


 冷たい顔で一礼するカエデ。


 いやあんた、聞き耳立ててただろう?

 それか、建物の中の気配を感じとっていたか。


「…………」


 カエデの生い立ちや性格を考えれば、後者かもしれんな。


「……なにか?」


 まじまじと彼女を見る俺に、カエデは無表情で問いかける。

 そんな彼女に俺は思わずツッコミを入れてしまう。


「忍者か?!」


「!」


 今、片眉がぴくっと上がったな。

 にや、と笑う俺を、カエデは冷たい目で見下ろした。


「主人に忠実なメイドをつかまえて、あまつさえ間諜呼ばわりとは。……これはエステル様に報告させて頂かないといけませんね」


「ごめん!!」


 俺は叫びながら、心の中でジャンピング土下座した。








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