第3話 - 追放が流行った理由②
それで、追放ものが流行ったのはコロナウイルスが原因だってのはわかったけど、二つ目の理由、追放が誕生した理由ってのは?
ああ、少し長くなるがそっちの話もしよう。
次はこのグラフを見てくれ。
挿絵(小説家になろうでタイトルに「異世界」を含む作品数の推移。2018年以降は作品数がそれほど増えていないことが読み取れる)
ふむふむ、今度はなに?
タイトルに「異世界」を含む作品数の推移だ。
比較として「追放」の作品数も一緒に載せている。
見てくれたらわかる通り、2018年以降は横ばいになっており、なろうに投稿される作品数は年々増加していることを考慮すると、異世界もののピークは大体2017年〜2018年ごろだったことがわかるな。
へぇ、言われてみれば確かにそうね。
てか、むしろ最近は追放ものが多すぎて、それはそうって感じだよ。
なろうと言えば異世界転生ものっていうイメージがあるけど、それはもう昔の話ということだな。
そして、異世界転生ブームが過ぎ去りつつあることの理由と、追放という単語が登場した理由、実はこれらは同じなんだ。
ん、どゆこと?
つまり、「運営が異世界を隔離したから」ということだ。
運営が異世界を隔離?
最近なろうの小説を読み始めた人は知らないかもしれないが、小説家になろうでは2016年の5月24日にジャンルの再編成が行われている。
これに伴って異世界転生、異世界転移を含む場合はこのキーワードをつけることが義務付けられ、ランキングも別枠で表示されるようになったんだ。
当時はそれはもう異世界転移、転生ものの作品で溢れてたからな、おそらく運営はそれを危惧し、多様な作品が投稿されるようにしたかったのだろう。
へぇ、そんなことがあったのね。
まぁ、異世界と書いてなろうと読む、あるいはなろうと書いて異世界と読むくらいにはなろうと言えば異世界転生っていうイメージがあるわよね。
でも、本当にそれが理由なの?
確かに、事実として追放という単語は異世界が分けられてから流行り始めたけど、今度は流石にたまたまなんじゃない?
あぁ、もちろんその可能性もある。
だからこれは仮説の1つとして聞いて欲しい。
追放が誕生した理由として、運営が異世界を隔離したから、という根拠は2つある。
1つ目は、なろうのタイトルの付け方についてだ。
れい子、なろうのタイトルってどんなイメージだ?
うーん、とにかく長いわね。
やたら説明口調というか、読む前からその作品がどんなストーリーなのかがだいたい分かるんだよなぁ。
そう、そこが重要だ。
なろうのタイトルはもはや簡潔なあらすじと言ってもいい。
異世界転生・最強魔法を取得する・無双する
こういった設定の作品があった時、
『転生して最強魔法を取得したので異世界で無双します』
といった具合にそのまま文章にするだけでそれっぽいタイトルが出来上がる。
そして、この例がそうであるように、ほぼ必ずなろうのタイトルには冒頭に出てくる設定と、その後の方向性が書いてある。
うん、間違いないわね。
さて、それを踏まえた上で、考えてみてくれ。
そもそも、ある集団から追い出されてしまった主人公が無双するという作風は、いわゆる追放モノの誕生とともに生まれたものなのだろうか?
もっと前からあったんじゃないだろうか?
…………たしかに。
盾の勇者の成り上がり、ありふれた職業で世界最強も、序盤で不遇な扱いを受けてその後に一人で行動しているわね。
あぁ、クラスで丸ごと転移をする作品なんかに多いよな。
クラス全員で召喚されてスキルが与えられるけど、主人公だけハズレスキルで馬鹿にされる。
そんな感じで始まる作品は私もいくつか知ってるわ。
そうそう、そんで、それをなろう風のタイトルにするとこんな感じだな。
『クラス転移して俺だけハズレスキルでした。だけど覚醒して無双します』
流石にそれはちょっと露骨すぎる気もするけど……、まぁ大体わかるわね。
うん、雰囲気さえわかってくれればそれでいい。
次に、これを流れとして捉えるとこんな感じになる。
「クラス転移 → 能力付与 → ハズレスキル → 追放 → 最強無双」
THE・テンプレって感じだね。
ああ、当時の作品を読んでた身からすると懐かしさすら感じるな。
で、運営により転移・転生というジャンルはランキングから除外されたわけだが、別にそれで読者層、作者層が変わるわけでもない。
この流れは前半だけなくなり、ほとんど受け継ぐ形でこんな感じになった。
「ハズレスキル → 追放 → 最強無双」
おおー、なんか馴染み深い雰囲気になってきたわ。
だろ?
まぁ、タイトルにするとこんな感じかな。
『ハズレスキル持ちはいらないと追放された俺、実は世界最強』
わろた。
どっかでみたことあるわね。
とまぁこれが、追放が誕生した理由は運営が異世界を隔離したから、という一つ目の根拠だ。
なるほど、なんとなく納得出来たわ。
で、2つ目はなんなの?
そうだな、これはどちらかと言うと根拠ってよりかは今の説明の補足だ。
れい子、異世界から現地主人公へと移り変わっていった2017年以降はどんな時代だったと思う?
ヒントは現地主人公のあり方だ。
え、なんだろう。
いろんな現地主人公が登場した的な?
まぁ、間違いじゃない。
だが、もっというと、この時期は現地主人公たちの新たな不遇の開拓期だったんだ。
え? 新たな不遇の開拓期?
ああ、昔からなろうでは主人公が不遇な立場からスタートするという設定にはある程度の人気がある。
例えば『無職転生』『Re:ゼロから始める異世界生活』『この素晴らしい世界に祝福を!』とかも主人公はニートで引きこもりという設定だったりする。
他にも、クラスでぼっちだったり、ひどい場合には虐待されていたという設定も珍しくはなかったな。
確かに、引きこもりやぼっちという設定の方がなんか親近感があるもんね。
……。
あるもんね?
異世界ものの作品が主流だった時期は、この不遇な立場という設定を考えるのは簡単だった。
おい。
日常生活の中で、不遇そうな立場にある人物を思い浮かべればいいだけだからな。
だが、異世界だとどうだ?
冒険者として働くことが普通の世界で、ニートになるようなやつってどんなやつなんだ? 家族構成、友人関係は?
どういう過程を経てニートになったんだ?
そりゃ、大体現実と同じなんじゃないの?
まぁ、そうだろうな。
だが、異世界と現実世界は全く違う世界だ。
作者はこの違いを埋めるべく、説明の描写をしなければならない。
主人公はその世界で生まれ、その世界で育ったのだからある意味当然だな。
しかしながら、主人公の過去の細かい描写なんかなくても、とりあえず転生して新たな世界での出来事さえあればよかった異世界転生ものと比べて、これは書く側にとっても読む側にとっても少々手間となる。
だから、当時はとにかく作者が特別説明しなくてもよくて、読者が受け入れやすい、様々な不遇スタートが開拓された。
これをみてくれ。
挿絵(なろうの検索で不遇スタートと入力したときにヒットする作品数の推移。追放が誕生する以前ではこれに引っかかる作品は一切存在しない)
これは?
なろうの検索で「不遇スタート」と検索した時に引っかかる作品数の推移だ。
数は少ないが見てわかる通り、初めてこのキーワードが使用されたのは2017年であり、それ以前には一斉存在しない。
さっきも話した通り、別に冒頭で主人公が不遇な目にあっているという設定は昔からあったにも関わらずにだ。
つまり、それまで特別意識してこなかった主人公の不遇スタートという設定を、この時期から意識し始めた人たちがいたということが読み取れるな。
なるほど。
舞台がだんだん現地へと移っていって、新しい不遇が開拓され始めたってことが何となくわかったわ。
それで、勇者パーティーから追放とかそういう作品が徐々に主流になり始めたのね。
うむ、そして、その新たな不遇の開拓期の筆頭となったのが「追放」、それともう一つが「おっさん」だな。
え、おっさん?
そうだ。
今度はこれをみてくれ。
挿絵(小説家になろうでタイトルに「おっさん」を含むジャンルがファンタジーの作品数の推移。第一次追放ブームと同じ時期にピークを迎えている)
タイトルに「おっさん」を含む作品数のグラフだ。
どうだ?
第一次追放ブーム同じ時期の2018年頃にピークを迎えているだろ?
へぇ、異世界転生ものって幼少期が描かれることが多いけど、異世界が分けられてからはおっさんが描かれるようになることが多くなったのね。
あー、確かに、言われてみればそういう事になるな。
だが、大事なのはいったいなぜそうなったのかだ。
ここまでの話を踏まえると、異世界転生ものの作品によく登場していたニートやぼっちといった不遇な設定は、ハズレスキル持ちの追放、頑張ったが報われることのなかった中年冒険者という具合に移っていった、ということになるな。
なるほど。
んー、でも確かにこうしてグラフとか見せられながら説明されると、何となく正しい気はするけど、なんか違う気もするのよねぇ。
だって、おっさんが主人公だけど、それほど不遇な感じがしない作品なんていくらでもあるし。
うん、その意見は全くもって正しいぞ。
転生ものの作品が主流だった時代だって、別に主人公がニートみたいな設定だったとは限らなかっただろ?
不遇な立場として扱うこともできるし、そうでない立場としても使える。
むしろいろんな使い方ができたからこそテンプレとして醸成していったと言えるな。
今でこそざまぁ要素全開の追放だって、登場し始めた初期はざまぁがメインというよりかは、それはあくまで数あるストーリー展開の中の一つで、辺境でスローライフとかそういうのんびりとした内容のものも多かった。
なんなら追放した側との友情を描いた作品もあったな。
言われてみれば確かに。
私がなろうを読み始めた頃の追放はそういうイメージだったわ。
あぁ、同じ追放でも登場したばかりの時期と、コロナウイルスが流行し始めた時期以降とでは単語のイメージが全然違うぞ。
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