軌跡を辿って3

 おれはネルビー。

 毎日リリに貰った名前を大切に噛みしめて生きてる。

 そろそろいい加減にリリにこの名前を呼んで欲しい。逢いたい。


 干し肉を物々交換してからいっぱいの夜を過ごした。

 村にもいっぱい行ったけど、どこもすでにリリが居なくなった後だった。大体が“しめーてはい”とか言うのに追われたらしい。

 おれはリリが心配で心配で居ても立っても居られなくなった。

 やっぱり早く合流してたかったとヤキモキしてたら、獣の神の尻尾に潰された。


 「ぷきゅっ」

 『何度も言うておるだろうが。あの時のお主では護り切れぬと』


 そうだった。確かに守り切れなかったからおれはおれを囮にしたんだ。

 ついつい焦ってしまったけど、獣の神曰くおれとリリを繋ぐ縁はまだ切れて無いから大丈夫らしい。神ってそういうのわかるから神なのかな。


 「わうっ」

 『うむ、其れで良い』


 改めて気合を入れ直せば、獣の神が尻尾で頭をナデナデして褒めてくれた。わふ~、褒められるってなんでこんなに気持ち良いんだろうな。

 さてそろそろ次の村に着く頃だ。前の村の馬に聞いた通りに人間の作った道を進めば、ああほら見えてきた。

 今度こそリリに会えると良いな。

 

 っと思って粋がってたのに、そんなに簡単にはいかなかった。

 入った村には人間が全くいなかったんだ。

 良く見ると人間の作る四角い巣は、ボロボロで朽ち果ててたり、真っ黒い炭になってる。嫌な血の匂い迄してくる。村の外は風上でわからなかった。


 「わん!」


 おれはリリの最悪を想像して、ボロボロの村を駆け回った。

 駆けて駆けて、隅々まで駆けて、リリの血の匂いがする所を見つけてしまった。

 おれは焦ってリリを探す。探して、探して、でも居なくて。居ないのが安心したら良いのか、悲しんだら良いのかわからない。


 『落ち着け』

 「きゅぅ」


 うるうると、視界がぼやける中、獣の神が肉球でおれを優しく潰した。

 おれの目はシトシト涙が流れる。


 『この状態で器が無いなら取り敢えずは無事であろうよ。

 故に今は悲しむ前に軌跡を辿り続けよ。立ち止まっていてもリリが今助かる話ではあるまい?』


 ポニュポニュ肉球で慰められて、何とか立ち上がったおれは、リリを求めて向かった先を探す。

 村には居ないならまた別の場所に向かったんだろうと思って、反対側の村の入り口だったところから外に出た。

 魔力暴走のあった場所から暫くはリリの魔力残滓があったけど、離れるにつれて薄くなって最近じゃ全く残って無い。だから聞き込み調査は欠かせなくなってる。

 暫く誰かいないか辺りを探っていたら、土がモコモコ盛り上がって近寄って来た。


 「モグ!モグきゅー!」


 土に穴が開いたと思ったら、ひょっこり小さな顔が出てきた。モグラの様だ。

 モグラは獣の神に元気に挨拶してる。


 『うむ、元気があって良いな』

 「わうわう、わぅ~?」


 おれもモグラに初めましての挨拶を済ましてからリリの事を聞いてみた。土の中で生活するモグラだと余り期待は出来ないけど、他に居ないみたいだからダメ元で聞いてみるんだ。


 「モグー?うきゅ~?きゅいきゅきゅ~」


 やっぱりリリの事はわからなかった。

 けどその代わりにこの村で何があったかは聞けた。

 話によると、怖い人間が村に入って暫くしたら、村から怒号が飛び交う様になって、それから火事になったらしい。

 怖い人間はきっとリリを虐める悪い奴等の事だ。きっとリリは見つかっちゃったから逃げたんだ。血はその時に怪我しちゃったんだ。


 「ヴゥ~っ」

 「きゅー!?」


 怒ったおれが唸り声を上げたら、モグラは慌てて土の中に帰ってしまった。なんかごめんね。

 関係ない子を怖がらせたらリリはきっと悲しむ。だからおれは頭を振って気持ちを持ち直した。

 改めて血の匂いが他に無いか探したけど、他には無かったから治療は出来たか、動物の友達に助けて貰ったんだろう。大事がなさそうなのは良い事だけど……。完全に見失っちゃった……。


 途方に暮れてぽけーっと空を仰いでいたら、大空高くから急接近してくる気配を感じ取った。


 「!わん!わんわんわんわん!あおーーーん!!」


 その気配。それが誰かわかったおれは、めいいっぱい力の限り吠えた。

 ここだ!おれはここにいるぞ!来てくれ教えてくれ見つけてくれたのか!?

 

 『やかましわ』

 「ぷきゃん」


 獣の神にまたしても潰された。肉球がおれの興奮を優しく包み込む……。


 『そんなに声を張り上げなくとも、端からお主に向かって来ておるわ』

 「……あぅ……」


 半眼で呆れた物言いの獣の神の言う通り、気配は真っ直ぐおれのいる所に向かって下降してきてる。

 おれは肉球の隙間から今か今かと胸を高鳴らせてその存在が視界に入るのを待った。

 果たして直ぐにその気配は確かな形を伴って、おれの目の前に降り立った。


 「わん!」

 『久方振りだな。約束通り戻って来た』


 待ってたよ!サラマンダー!!

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