またね!

 おれはネルビー。

 今興奮が過ぎて遠吠えが止まらなくなってる。


 「アオ―――――ン!!バウワウアゥオオ―――ン!!」

 『やかましわ』

 「アブォフっ」


 獣の神に踏み潰された。肉球に埋もれた。遠吠えが不発して鼻がツンとする。


 「アゥ……」


 獣の神にごめんなさいして肉球から解放されたけど、まだ鼻がムズムズする。

 熱心に前脚で鼻をカシカシ掻いて、体をブルブル左右に回転させてなんとか落ち着いた。

 いや、やっぱり落ち着けない。

 だって、だってなんだぞ!リリがっ、リリが見つかったって!!

 そんなのもう落ち着ける訳がないんだ!


 「ア!……ゥォフ……」


 もう一度遠吠えしそうになって。でも獣の神の細められた瞳孔を感じて、何とか咳払いで誤魔化した。


 「わふ!アゥわう!」


 何とか誤魔化し切ったおれは、何故かまだ獣の神の視線を感じつつ、サラマンダーにリリの事を聞いた。

 怪我は大丈夫かな?元気だったかな?寂しがってないかな?怖い人間に囲まれてないかな?

 あらゆる気になる事を立て続けに聞いてたら、口角ひくつかせたサラマンダーが後ろに退きつつ前脚を持ち上げた。


 『一編に聞くな。あとリリという人間に直接会った訳では無いから状態までは知らん』


 持ち上げた前脚をおれの鼻面に押し付けてきた。

 獣の神と違って肉球無いし、なんかヒンヤリする。

 それにしてもリリに会ってないってどういう事だ?


 『私が会ったのは獣神様と同じ種族の獣神様だ。リリという娘を保護したらしい』

 『ほぅ?我娘の神気を感じてはいたが……、人の子を保護しておったとはのう。

 あやつめ、よもや人間に肩入れしているのではなかろうな』


 何とっ、リリも獣の神に助けられたのか!しかも獣の神の子供に助けられるなんて凄いなっ、遠く離れててもおれとリリはやっぱり似たもの家族だなっ。

 おれは嬉しくなって尻尾をブンブン振った。興奮で息もヘッヘッと上がるのを止められない。


 『肩入れしているかはわかりませんが、しかし矢張り獣神様の御子様でしたか。

 とてもお小さく可愛らしい人型でした』


 サラマンダーが器用に前脚で小さいを再現した途端、背後から不穏な気配が湧き上がった。


 『小……さい、だと?

 ほぅ?まだその程度しか成長しておらなんだか。

 くっふ。ふははは。成る程のぅ。どうやら一度会いに行く必要がありそうだ……』


 獣の神の低く腹の底から出している様な声に、おれは背筋に寒気を感じてビクンとした。そして思わず全脚をピンと伸ばして飛び上がった。


 「きゅ~~っ、きゅきゅ~んっ」


 怖い。獣の神が怖い。

 おれは急いでサラマンダーの脚の影に隠れると尻尾を丸めてうずくまって震えた。


 『では共に行きますか?私の背に乗るには少しばかり小さくなって頂かなくてはなりませんが』


 え?サラマンダーに乗って行けるのか!?凄い!それならリリのトコまで一直線で行けるな!

 おれはさっきまでの恐怖も無かった位に嬉しいが溢れた。

 あ、でもおれまだモンスターなれてないけど良いのかな。リリの元でもなれるかな。

 おれは不安になって獣の神を振り仰いだ。

 心配で、でも直ぐ行きたくて。待ってなんていられなくて、でもリリと長くいられる様になりたくて。

 おれは困り眉毛で「くぅ~ん」と鳴いた。


 『だから、お主その顔……。わかっていてやっているのではあるまいな……。

 まったく仕方のない奴だの。モンスター化は出来ておらぬが、後少し、何かの切っ掛けで目覚める兆候は見えておる。サラマンダーと共に行っても構わぬであろうよ』

 「!わん!わんわんわおーーん!」


 本当か!?出来てないけど出来かけているのか!じゃあもう殆ど出来てる様なもんだな!

 おれは頑張った自分を褒めてやりたくて、景気良く遠吠えた。


 『だからやかまし』

 「ぷきゅ」


 肉球に弾かれた。

 サラマンダーの脚の影に隠れてたのに、その横から肉球が迫って来たんだ。軽く飛ばされて影から出ちゃった。

 サラマンダーの脚は隠れ家には向かないな。うん。

 地面にへばりついたおれは、全脚を外に投げ出したままブスくれた。


 『さて、サラマンダーよ。後の事はお主に任せて良いかの?』

 「わふ!?」


 え!?獣の神は一緒に行かないのか!?

 驚きと悲しみで飛び起きたは良いけど、おれの耳と尻尾はシオシオに萎れてしまった。


 『三巳の元へ行くなら夫も連れて行かぬと拗ねる故な。まあ、拗ねる姿も可愛くはあるのだが。ふふふ』


 獣の神がふぁさりと尻尾を揺らして言った。

 その顔はとっても愛に溢れてた。

 そうか、獣の神ずっとおれの面倒見てくれてたしな。番のとこ帰りたいよな。寂しいけど、でも後から来るならまた会えるよな。

 おれは今までありがとうの気持ちを込めて丹念に獣の神の脚を舐めた。本当は鼻舐めたかったけど、高すぎて届かなかったんだ。

 獣の神は凄く優しい目でおれの頭を舐め返してくれた。嬉しい。


 『さて、そういう訳で我は共には行かぬが良いかの、サラマンダーよ』

 『ええ、お任せください。

 ではネルビーよ、我の背に乗るが良い。ひとっ飛びで連れて行こう』

 「わん!」


 サラマンダーの背に飛び乗ったおれは、鱗に脚を引っ掛けて強化魔法でバランスを整えた。


 「わん!」


 おれが獣の神に「またね」って声を掛けたら、サラマンダーが飛び上がった。羽ばたき数回であっという間に空の上だ。

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