軌跡を辿って1
おれはネルビー。
今人間の集落にいる。
おれとリリが住んでた所よりずっと小さくて、人間が少ないと思ったらここは村というらしい。
「わんわん?わきゅ?」
人間は少ないけどそれ以外の動物は多い。
おれは村のそこかしこでリリを知らないか聞いて回っている。
「にゃん?にゃご~にゃん」
木陰の樽の上で毛繕いしてた猫に聞いたら知ってるって言ってくれた。
むしろこの近辺の動物でリリを知らない者はモグリらしい。
リリは何処でも動物と仲良くなれる良い子だ。リリが此処に身を寄せていた時も色んな動物達と仲良くしてたらしい。流石リリだ。
おれは自慢のリリがおれの家族で嬉しくて誇らしくて鼻息荒く胸を張った。
「な~……にゃお~ん」
嬉しかったのに続けて言われた事に愕然とした。
何てことだ!リリは怖い人間が村に来た所為で村の人間達に追い払われてしまったなんて!
確かに村にリリの匂いはしないから居ないのはわかってたけど、ショックだ……。そしてリリを追い払った人間が嫌いになった。
「にゃ!?にゃんなう!」
不機嫌に唸りながら尻尾をブン!と振ったら驚いた猫が飛び上がって捲し立てる様に言ってきた。
良くわかんなかった。
でも追い払われなかったらリリは大変な目に合ってたって事はわかった。
でもやっぱりこの村の人間は好きになれなくて、早くリリに会うために猫に向かった場所を聞く。どうやらこの先にある町に向かったらしい。
おれはお礼を言って直ぐ様村を後にした。リリの居ない村には用が無いからな。
村を出たおれはリリの向かった先に向かった。道なりに行けば着くらしいから迷う事は無いだろう。
でも道は色んな人間が行き来している所為か魔力の筋は見え難かった。
『人間の為の道だからの。特に此処は国境に近い村でもあるから人間の往来は他より多いんだろうよ』
後から付いて来る獣の神が時折行き過ぎる馬車に鼻をフンと鳴らして言った。馬が獣の神に挨拶したがってたのに、人間が先を急がせたから気分を害したみたいだ。
成程、確かに人間通りが多いな。でもそれだけじゃ無くて、リリの魔力残滓が細く明滅して消え入り掛けてるのも要因の一つなんだろうな。
おれは微かに感じ取れるリリの魔力残滓が不安定なのに気付いて心配になった。
でもそうだよな。魔力暴走なんて普通には起こんない事が起きちゃったんだもんな。魔法を使えるようになったから、それがどれだけ異常な事か今ならわかる。
いっぱい友達がいたから安心してたけど……、やっぱり残ってリリを守った方が良かったのかな……。
『そう耳がもげ落ちそうな程垂らして落ち込むものではないわ。
ただの動物でしかなかったお主が残った所で、最後までは護り切れるものでも無い』
獣の神に素気無く言われたけど気持ちは割り切れ無い。
でも確かにあの時囮に成らなかったらリリも逃げ切れなかったかもしれないし、おれも獣の神に会えなかった。
獣の神に会えたからリリをもっと末永く守れる様になった。
『まだ成れてないぞ』
まだだった。
でも絶対成るから問題ない。
ムフンと鼻息荒く気合を入れ直して先を急ぐとする。
人間の作った道は、怖い物を腰や背中にぶら下げる人間が特に多くて嫌になる。
中には襲って来る人間もいたけど、大抵嫌な気配に誘われた魔物が寄ってきて人間達はそれどころじゃ無くなってた。今ならおれも魔法があるから遅れは取らないけど、避けるに越した事は無いから助かった。
そうこうしている内に人間の集落が見えてきた。獣の神曰く、あれが次の町らしい。
町の前には木の門が有って、人間の男が二人立ってた。
人間の男は門を入る人間と話してから中に入れてる。だからおれも列に並んで待つ。
「え?犬?何で犬が並んでるの?」
周りの人間達が俄かに騒いだけど、知らない門の前では門の人間に入れて貰うんだってリリが言ってた。だからおれは自分の番が来るまで待つんだ。
前住んでた所の門はいっぱい人間が並んでたけど、ここはちょっとだから直ぐにおれの番が来た。
「わんっわんわんっ」
「は?何この犬」
「……。もしかして中に入りたいんじゃないか?」
おれは自己紹介をしたけど人間達には言葉が通じなかったらしい。リリならわかってくれるのに。
「えー……?動物って……勝手に出入りしてるもんじゃ……」
人間は何か腑に落ちない雰囲気で困惑してたけど、中に入れてくれた。
「わんっ」
おれはお礼を言って頭を下げてから駆け出した。
「なんて礼儀正しい犬なんだ」
「人間より礼儀正しくないか……?」
後ろで門の人間達が感激の声を上げて、更にその後ろでは列に並ぶ人間達が気まずそうに身じろぎをしてた。
その後は建物の影に入ったおれからは門が見えなくなってわからないけど、後に聞いた話だと人間達の門でのお行儀が良くなったらしい。獣の神がクツクツ笑って言ってた。
町に入ったおれは虱潰しに同族や猫や鳥達にリリの事を聞いて回った。
だけどリリの事を知ってるのは殆どいなかった。
どうやら町に入る直前で道を逸れたらしい。鳥の一羽が町に入るのは危険だと知らせてくれて、別の村に向かったらしい。
おれは空振りに終わってがっかりした。
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