別れから再開を求めて

 おれはネルビー……。

 今落ち込んでる……。

 リリがいないからだ……。


 海から来た道を辿ってリリと別れた場所まで戻れたのは良いけど、リリはとっくに何処かに行っちゃったみたいだ。しかもリリの魔力暴走の影響でお椀状に台地が荒れてる。嫌な血の匂いはしないのがせめてもの救いだ。


 「……わふ……」


 おれは寂しくてお椀状の中心でお座りをして砂を掻いたり、匂いを嗅いだりしてリリの痕跡を探した。でも魔力暴走で起きた周辺魔力の乱れの影響か、混然としてて落ち着かない気持ちが増幅されてく一方だ。


 『周りの空気を巻き込む程落ち込まんでも良かろう。

 お主の護るべき者、リリと言ったな。その者は追われていたのだろう?ならば一つ所にいる方が危険であったろうよ。ここに居らぬは生きてる証拠よ』


 獣の神が隣に座っておれを諭してくる。

 言いたい事はわかるけど、でも今現実にここにリリがいないのは変わらない。リリ、リリ。どこ行ったんだリリ。

 おれはリリの匂いを探してクンカクンカと空気や土から匂いを探し続ける。


 「きゅーん……」


 無い。無い。無い。

 リリの匂いは混然とした魔力でグルグルになってて、どこに匂いの筋があるのかちっともわからない。


 『まったくお主は……』


 呆れた獣の神が嘆息交じりに何か言い掛けた時、不意に上空からバサバサって音と一緒に真っ赤なドラゴン姿の精霊がやってきた。獣の神程じゃないけど、魔物と違ってこれだけ乱れた魔力地帯でもその存在がわかる。 


 『ほう。サラマンダーとは珍しい。この辺りは火口など無いのだがな』


 どうやらサラマンダーらしい。

 火属性なのはわかってたけどっ、凄い!リリが見せてくれた絵本の通りだ!

 おれはその真っ赤な体が恰好良くって尻尾を振って興奮した。


 『お初にお目にかかります。獣神様』


 もの凄く腰が低い精霊だった。

 強くて恰好良いイメージが崩れ去った。ガラガラ音がする勢いだった。

 獣の神をサラマンダーは獣神様って呼ぶんだな。やっぱり神族のが強いからかな。

 おれが黄昏れてる間に挨拶を交わし終わったらしい獣の神とサラマンダーが、おれを見てる。


 「わう?」


 何か用か?

 

 『今日は、我はサラマンダー。汝の名は?』

 「わん!わわわん!わおーん!」


 おれはネルビー!大好きなリリがつけてくれたんだ!良い名前だろ!

 名前を聞かれるのは好きだ。リリにつけて貰ったって自慢出来るから。

 おれは脚をピーンを立たせて大きく尻尾を振ってアピールした。

 

 『リリ?獣神様の御名ですか?』

 「ぎゃん!ばうわう!」


 違うぞ!リリは人間だ!

 サラマンダーの勘違いに憤慨したおれは、リリの事をいっぱい教えてあげた。

 これまでの経緯まで話し終えた時、おれはここにリリが居ない事を思い出してまた悲しくなった。


 「わう……」


 リリ、リリ、何処にいるんだリリ。


 『これは……重症ですね……』

 『うむ。終始この調子でな。我も神として全てを為してやる訳にもいかぬ故』

 『成程。神様というのも不便なものですね。

 ではネルビーよ、汝の望みは何だ』


 おれが一生懸命ウロウロ探してたら、サラマンダーに聞かれた。

 おれの望みはリリが何処にいるか知る事だ。何処にいるかわかれば直ぐに駆け付けられるからな。

 そう意気消沈しながら答えると、サラマンダーが『わかった』と言って翼を広げた。


 『我は安住の地を探して旅をしている。行き掛けに見つけたら伝えに来よう』

 「わん!?わきゅーん!」


 本当か!?ありがとう!

 嬉しくなったおれは飛び跳ねて喜んだ。サラマンダーの脚元まで跳んでいき、グルグル回ったり、脚にしがみ付いて舐めたりして喜びを体現しまくった。


 『いい加減にせぬか。それでは何時まで経ってもサラマンダーが飛び立てぬではないか』

 「ぷきゅ」


 獣の神に肉球で拳骨を落された。

 今は小さいから押し潰れないけど、代わりにちょっと痛かった。

 おれが獣の神に咥えられてサラマンダーから距離を取ったら、サラマンダーは颯爽と飛び立って行った。

 おれはリリが見つかる事を祈って、何時までもサラマンダーの飛び立った方向を見つめるのだった。


 『締めるな。

 サラマンダーが見つけるとは限らん。お主も早く会いたければ動かねば為らぬぞ』


 言われてハッとした。

 そうだよな。サラマンダーが行ったのと違う所にいるかもしれないんだ。

 別の場所で泣いてるリリを想像して、おれは鼻息荒く気合を入れ直した。

 この椀状の中は魔力も匂いもわかり難い。だから一旦椀状を出て、その周囲を隈なく探った。

 そしたらリリの痕跡が二つあった。一つは来た時の物だから、もう一つがここから出て行った時のだと思う。

 匂いは完全にしないけど、魔力残滓が微かな筋となって続いてる。

 

 「わん!」


 気付いたら駆け出してた。

 強化魔法とかいうのも直ぐにまたおれに掛かったらしくて、脚が軽い。

 過ぎ行く景色を眼下に収めながら、おれはひたすら脚を動かした。

 リリへと続く軌跡を辿って。




 『ほんに、お主は主人の為になら頭が動くのだな……』


 後ろで獣の神が何か呟いてたけど、今はそれどころじゃ無いから何言ってるかわからなかった。

 

 

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