旅の始まり
おれはネルビー。
今黄色いブヨブヨの前にいる。
離れた所では獣の神が様子を見てる。
「ウゥ~……」
ブヨブヨはバブルスライムみたいに動くけど、スライムと違って意思が無いから怖い。スライムは仲良くなるとプルプル触らせてくれるから好きだ。でもブヨブヨは意思が無いから相手が何でも襲って来る。怖い。
やっつけるには焼くか凍らせるしか無いらしい。
昔森で遊んでた時に教わった。基本的には森にしか生息してないから街で暮らしてたら平気らしい。
それが何でおれの前にいるかというと、昨日までの特訓でいくつかの魔法を使える様になったおれは、やっとリリ探しの旅に出る事が出来たからだ。
獣の神曰く、
『実践に勝る経験値無し』
らしい。
旅に出れば色んな出会いがある。
でも初めての出会いは出来ればブヨブヨじゃ無い方が良かった。出会った以上は諦めるけど。
そんな訳で黄色いブヨブヨはおれの初獲物だ。
おれは姿勢を低くして周囲を警戒した。
音と匂いと気配全部調べたけど、近くには目の前のブヨブヨしかいない様だ。
「ヴァウ!!」
おれは凍れって念じて魔法を放った。
パキパキ!
甲高い音を立てながら見事に地面が凍った。
でもブヨブヨは凍って無いのか、ブヨブヨの辺りの氷が軋んでる。あれ?おかしいな。
「わう?」
首を傾げて起き上がったおれは、ブヨブヨの状態を確認する為に近寄った。
氷はブヨブヨを覆う様に張り巡っているけど、ブヨブヨ自体は凍ってなくてウゴウゴ動いてる。そしておれの氷魔法を捕食してる。
「わう!?ウゥ~っ、ヴァウ!ヴォウ!」
怖くなったおれは警戒して飛び跳ねながら氷魔法を連発した。
氷の層は厚くなった。
ブヨブヨはまだ動いてる。
「わわん!?」
何でだ!?困ってしまってわんわん吠えながらブヨブヨを威嚇してたら獣の神が来た。
そして肉球でおれをプキュっと潰した。
『落ち着かんか』
「あぅ……」
おれは耳と尻尾を垂らして潰れるに甘んじた。
『対象物を凍らせたい場合はその物を凍らせるイメージを持つのだ』
こおらせる……。
俺は氷山での特訓を思い出した。でも氷以外で凍った物は思い出せなかったからよくわからない。
「わきゅ~……」
耳を垂らしてしょげてる間にも、ブヨブヨは氷を食べて出て来る寸前だ。
おれはどうしたらいいかわからなくて獣の神を見上げた。
『……その目で見上げれば何でも答えが返って来ると思っていないか?
まあ良い。ネルビーよ、イメージだ。イメージを湧かせるのだ。粘菌、お主風に言えばブヨブヨか。ブヨブヨがどうなったら嬉しいか、良く考えるのだ』
ブヨブヨは居ないのが嬉しい。
でも目の前にいて悲しい。
動くのが怖い。捕食されそうで怖い。
動かないのが良い。でも氷に閉じ込めても食べられる。だからブヨブヨも氷になって欲しい。
『ヒントをやろう。ブヨブヨの中にも水は沢山あるぞ』
うんうん唸ってたら獣の神が教えてくれた。
そうか!ブヨブヨはブヨブヨしてる分、水が多いんだ!
気付いたおれは早速ブヨブヨ水を氷にするイメージを湧かせる。
「ヴゥ~、ヴァウ!!」
バキン!
もの凄く耳障りな音を立てて、刺々の黄色い氷の柱が出来上がった。
『うむ。見事だ。
後は数をこなしていけば魔物として進化を遂げるだろう』
「わん!」
褒められて労わる様に顔を舐められたおれは、機嫌良く尻尾を振って獣の神の顔を舐め返した。大きくて顎しか舐められなかったけど。
「わきゅー?」
そう言えば今までじごく?の特訓が忙しくて余裕無かったけど、獣の神って凄く美人だ。番も子供も見た事無いけど独り身だろうか。
ちょっと求婚してみても良いだろうか。
『勘違いでないなら、我は夫も子供もおるぞ』
求婚する前に釘刺された。残念。
話によると子供は既に独り立ちしているらしい。番は今は街で暮らしてて、今回は偶々フラリと外出したところに倒れてたおれを発見したらしい。
フラリ旅、良いものだ。お陰でおれが助かった。助かったからリリをもっと守っていける。
『さて、ネルビーよ。旅に出発したは良いがの、何処に行けば良いかわかっておるのか?』
「わふん」
獣の神が聞いてきたけど、そんなのリリのいる所に決まってる。
おれはドヤ顔でそう返した。
『……そのリリは何処に居る』
「わふ?」
リリのいる所はリリの匂いがする所だ。
おれはリリの匂いを探した。
右にクンクン。左にクンクン。空気を嗅いでも、土を嗅いでもリリの匂いはカケラもしなかった。
「わん!?わふわふっ!きゅきゅ~んっ」
おれは慌ててリリの匂いを探してあちこち駆けずり回った。あっちの花畑をクンクン。こっちの草畑をクンクン。
でもどうしてもリリの匂いを感じる事が出来なかった。
おれは寂しくて不安になって耳と尻尾をタランとしょげさせて、それでも一生懸命にトボトボ、トテトテ、匂いを探した。
『全くお主はほんに抜けておるのう』
泣きそうになってたら獣の神に尻尾で視界を塞がれた。それでやっと匂いを探すのを止めてその場にペタリとへたり込んだ。
『お主の護る者がこの近くにおったなら、特訓などしてる間に出会っておろうよ。
そうでないから探しに行くのだろう?』
獣の神がおれを尻尾でくるんで労りながら言った。
そうだ。初めから近くに居たら匂いで直ぐに駆けつけてた。でも違うから探さないといけないんだな。
おれは気合を入れなおす為に、顔をブルブル振って立ち上がった。
『っふ、その調子よ。
では居場所が知れぬなら何処へ向かうかの?』
クツクツと笑った獣の神が、肉球で頭をポムポム叩いて聞いた。
おれは肉球に潰れて「プキュプキュ」言った。
「わふー」
肉球が去って自由になった体をピルピル振ってシャンとさせた。それからどうするか考える。考えて、考えて。
「わん!」
考えてもわからないから、最後に別れた所に一度戻ってみる事にした。
『……バカなんだか、一周回って利口なんだか……。
まあ良いわ。ではその場所に向かうとするかの』
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