じごく?の特訓その2

 おれはネルビー。

 今岩の平原にいる。

 右も左も見渡す限りの岩肌だ。


 『体内魔力も出来上がって来た。

 今日からは実際に魔法を使う。先ずは基本の火・水・風・土からだ』


 平原の真ん中で獣の神が言った。

 そうか、おれも魔法を使える様になるんだな。そしたらリリをもっと守れるんだな。

 おれは嬉しくなって尻尾をバタバタと破竹の勢いで振った。


 『うむ。ヤル気が有る様で何よりだ。

 では簡単な所で土魔法で岩肌を盛り上げてみせよ』

 「わん!」


 岩は知らないけど土を盛り上げて壁にする魔法は見た事ある。良くおれとリリの仲を裂こうとした意地悪な奴が使ってた。

 その時の怒りを力に変えて、おれは岩に意識を集中させた。


 「グォウ!」


 魔法はイメージが大事だって、リリが言ってた。

 おれは岩で土の壁を壊すイメージをハッキリと思い描く。そして怒りをぶつける様に吠えた。


 パキ……パキパキバキッ……ズズズ!ドオオオン!!


 岩はおれの思いに答える様に高く尖って突き出た。

 凄いっ、おれ魔法使えた!!

 おれは尖った岩の天辺を見上げ、その場で飛び跳ね吠えて喜んだ。


 『ほう。魔力を得るには苦労をしたが、いやはや如何して。魔法は一度で成功させるとはな』


 おれの凄さに獣の神も舌を巻いている。尖った岩に片前脚を乗せてポンポン状態を確かめてる。

 尖った岩はおれから見たら高くそびえ立ってるけど、獣の神からしたらそうでも無い。寧ろ獣の神のがまだ高い。流石神だ。

 おれは感心してる獣の神に褒めて褒めてと尻尾を振り、視界に収まろうと必死に跳ねた。


 『っふ。やれば出来るではないか。凄いぞネルビー』


 おれの思いが届いたのか、獣の神はおれの毛を均す様に舐めて褒めてくれた。嬉しくて尻尾が勝手に揺れる。


 「わふ~」


 獣の神が顔を上げた時にはおれの毛はシットリしてて、おれは満足気に声を漏らした。


 『ふむ。これだけ見事な岩尖を作れるのだ。水魔法で氷塊も直ぐに作れる様になるかもしれんな』

 「わふ!?」


 氷!?氷が作れる様になるのか!?

 おれは余りの衝撃に慄き震えた。

 だって氷だぞ!?氷は凄いんだ!暑い日にグデって舌出して寝そべってたら、リリがおれに氷をプレゼントしてくれたんだ。それがもう冷たくて冷たくて気持ちいいのなんの。しかも溶けた氷は喉も潤うんだ!

 その時の幸せな気分を思い出したおれは、夢見心地で涎を垂らさん勢いでヘッヘと舌を出した。


 「わん!わん!わわわおーん!」


 おれは早く氷が欲しくなって、希望に目を輝かせて獣の神に懇願した。


 『わかったわかった!そう無闇に吠えるで無いわっ』


 おれの勢い気圧されたのか、獣の神は引き気味に了承してくれた。

 ヨシが出たおれは早速氷をイメージする。

 地面いっぱいの氷っ。地面いっぱいの氷っ。

 思い浮かべたらあとはさっきと同じだ。


 「ヴァウ!」


 吠えて発動させる。と、思ってたのに空気がキラキラしただけで氷は現れなかった。

 それどころかおれは体が怠くなってペタリとへたり込んでしまった。


 「わうぅ~……」

 『クックック。思う様にいかんだろう。

 それはお主が無から有を創り出そうとしたからだ』


 快活に笑った獣の神は、労う様に尻尾でおれを撫でた。

 うぅ~フサフサが心地良い。

 でもおれの心は晴れなかった。だって氷が作れなかった上に、こんなに疲れたんだ。しかも獣の神の言ってる意味がわからない。

 無とか有とか何を言いたいんだろう。


 『あー……、氷は何から出来るか知っているか?』

 「わん……」


 水だろ。それ位知ってる。溶けたら水に化けたんだ。

 それが何だと言うのかわからず、うつ伏せたまま疲れた体で尻尾をパタリと揺らして答えた。


 『そう。水だ。ではここに水は有るか?無いだろう?

 皆無では無いが目に見えては存在しまい。それを無理矢理形作ろうとした場合、魔力で創る事になる。

 そして無理矢理作ろうとすれば魔力消費量も上がり、その様に魔力不足で倒れる事になる訳だ』


 ……余計に難しかった。

 難しかったけど、水が無いから出来なかったのはわかった。

 岩はいっぱい有るから出来たんだな。

 でもそしたら水が無いと氷は出来ないのか……。

 おれはがっかりしてションボリと耳と尻尾を伏せた。


 『そう落ち込むな。やり方さえ違えなければ、お主の魔力でも氷は作れる。それを今からみっちり教えてやろう。

 魔力の底上げも兼ねているから覚悟せよ』


 獣の神はニヒルに笑うと肉球をおれの頭にポンと置いた。おれはプキュっと声が漏れた。大きさが違い過ぎると前脚を乗せる行為も潰される勢いだ。

 でもおれはそんな事が気にならない位に気分が高揚してた。難しい事はわかんないけど、おれにも氷が作れる様になる事はわかったからだ!

 ニヤケて滴る涎をそのままに、おれはヤル気満タンで立ち上がった。そして早く教えろ下さい!と目を輝かせて尻尾をブンブン振ったのだ。


 氷の特訓は楽しかったけど厳しかった。

 咥えられたと思ったら氷の世界に一っ飛びで連れてかれ、氷の気持ちになれってむがのきょうちしたり、氷の冷たさを知れってひたすら氷を食べたり。

 獣の神に言われるままに、震える体で鼻を啜りながら頑張った。物凄く頑張った。どう頑張ったか思い出せない位に我武者羅に頑張った。


 気付いたら氷の塊に閉じ込められてた。


 慌てて脱出しようとカリカリ氷の壁を掻いてきゅんきゅん鳴いてたら、氷は突然水になって落ちた。寒い。

 寒い所でびしょ濡れになって震えてたら、獣の神が笑いながら水を舐め取って温めてくれる。


 『クックック。ほんにお主は面白い犬だ。

 このまま全属性魔法の練習に繰り出す事にしよう』


 ……その後おれは楽しそうな獣の神に、大渓谷に行って落下していっぱい風を浴びたり、燃え盛る火山に連れてかれて尻尾を丸めて恐怖したりした。

 怖いからもう思い出したく無い。


 クタクタに疲れたおれは寝床に帰ってくると、フラフラの脚取りで定位置まで行くとその場で倒れる様に眠りについた。

 夢が悪夢だった。いっぱいの火、怖い……。

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