そばにいたいから
おれはネルビー。
今暗い中にいる。
近くには大きな獣の神がいる。
「わふー」
訳がわからないがどうやらおれを助けてくれたらしい。目を覚ましたおれの体を労わるように舐めてくれている。
『目を覚ましたか。ああ動くでない、傷口が開く』
「くぅ~ん」
起き上がろうとしたら身体中が痛かった。堪らずペシャリと伏せてしまう。獣の神にも心配を掛けてしまった。大きな前脚で動けないように優しく抑えられた。大きな肉球が心地よい。
「きゅーん、わふわぅん」
とは言え何時迄もゆっくりしてられない。ハンカチが取られてしまったから、早くリリの元に戻って守らないと。
思いを込めて獣の神に訴える。
『ほう。護るべき人間がおるのか。
しかしその体では返って足手纏いであろう』
獣の神に思いは伝わったけど、図星を突かれて耳を垂らして凹んでしまった。
その通りだ。リリはきっとおれを守るために無茶をする。それじゃダメだ。
でもリリの無事も確かめたい。ジレンマがおれを襲う。
「ぐるるるるる……」
不満気に尻尾も揺らせば、頭上から苦笑とも取れる溜息が聞こえた。
『案ずるな。お主の縁はまだ途絶えておらぬ。
今は養生に励め。それが縁を護る事にもなろうよ』
「きゅ~」
獣の神が言うなら大丈夫なのだろう。
でもそれと心配しないのは別だ。早く元気になってリリの元へ急ごう。
おれは獣の神の言う事を聞く意思表示に、両前脚の間に顔を寝かせて目を閉じた。
目を閉じたらウトウトして、気付いたら夢の中だった。
夢の中はふわふわで、ふにふにであったかかった。
『良く頑張ったな。頑張る子にはご褒美をあげねばな』
夢現に、何となくそんな言葉を聞いた気がした。
あれからいっぱい寝て、歩き回れる位に元気になった。
その間獣の神が看病してくれた。神は気紛れって聞いたけど、こんなにあったかいんだな。
『大分良くなったな。では改めてお主に聞こう』
暗い所を出て、木がいっぱいある明るい所で歩いていたら、獣の神が神妙に言ってきた。
おれは何をだろうと思って、首を傾げて見上げた。
『お主は護るべき人間がおると申したな。
しかしお主がただ犬である限り、寿命の壁は防ぎようがないぞ。
如何するつもりぞ』
難しくて言ってる意味がわからなかった。聞き直したら不敬だろうか。
どうしたらいいかわからなくて、舌を出してヘッヘと息をしながら小首を傾げた。
『……つまりお主はもう時期寿命で死ぬと言う事だ』
「!?」
言われてはっとした。リリがまだ子供だから忘れてた。
おれ、もう成犬になって沢山の冬を越した。
おれと同じ位に成犬になった仲間が、最近ポツポツといなくなり始めたのを思い出して悲しくなった。
耳も尻尾もショゲてしゅーんと垂れてしまう。
『気を急くでない。方法はあるから問うているのだ。ただしそれは修羅のみ』
「わおーん!」
『……神の言葉を遮る度胸は認めよう』
よくわからないけどもっと沢山リリと居られるなら何でもいい。
おれは早く教えて欲しくて獣の神の前で輪を描くようにクルクル回った。勿論視線は外さない。
リリが言ってた。伝えたい事は目を見て話さないと伝わらないって。だから早く早くと目で訴える。
「きゅ~きゅ~、へっへ」
『うむ。わかった、わかったからそう急かすでないわ』
「わふ!」
そして獣の神にその方法を教えてもらった。
よくわからなかった。
動物と魔物の違いが魔力の内包量の差なのはわかった。ていうかそれ位は知ってた。だから魔力値を上げれば魔物化して長生きになるらしい。
やっぱりわからない。
おれは犬だ。魔物は魔物だ。なのに犬を辞めるのか?ダメだそれじゃあリリが悲しむ。
おれは不機嫌に伏して尻尾を振って悩む。
『言っておくがその姿が変容する訳ではないぞ。魔力が上がっただけでなるなら人間なぞ、何回変わっていることやら』
呆れたように言われてそう言えばと思う。
魔力の内包量で決まるなら人間だってそうなのか?ならリリは魔物って事になる。でもそうじゃない。
余計にわからなくなってふすーって鼻から息を吐き出して突っ伏した。
『魔物が魔物と分類されるのは他に文明を築くかどうかでも別れる。エルフやドワーフ、獣人族などが魔物に分類されないのもこれが理由だ。
……そうだな。難しかったな。
要は魔物化しても守るべき者を見失わなければ大丈夫だ』
「わふん!」
結局よくわからなかったけど、獣の神が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。
おれは獣の神の試練とやらを受けることにした。
『言っておくがその道は高く険しい。甘えた考えでは到底成し得ないぞ』
「あお――ん!」
獣の神に脅されたけど、リリの為なら何だって出来る!
その日からじごく?の特訓が始まった。
じごくって何だろう。
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