第12,5話孤児院⑯

 日が落ちかけてた時に一人だけ姿が見えた。

 その子は俺にちょっとだけ、ちょっとだけだが人間らしい心を与えてくれた人。

「たける?」

「お兄ちゃん!」

 俺は急いで下に降りると、たけると俺はドラマでよくある抱きしめるシーンを再現したかのように情熱的に抱きしめた。

 もも、も気付き俺達が抱きしめあっていた中に入ってきた。


 感動的なシーンが終わると、気を遣って待っていてくれたかのようにたけるの両親が近付いてきた。

 俺は頭を下げると相手も下げてきた。

「お兄ちゃんこの手紙はなんなの?」

 たけるは手紙をヒラヒラと仰いでいた。

「この手紙は俺が俺であるべきになる為の方法だよ」

「……お兄ちゃんちょっと言っている意味が分からないや」

「たけるには意味が分からなくていいんだよ」


 そんなこんなをしていると人がだいぶ増えてきた。

 だがまだみくの姿だけがなかった。

 やはり神は本当にみくと俺を会わせたくないらしい。

 だけどこれ以上待たせてしまうと人が帰ってしまうので……やむを得ない。


 俺は『ヒマワリ』の屋根の上に再び立ち塚間にお願いして、俺にスポットライトを当ててもらった。

 下にいた孤児院『ヒマワリ』に関係のある者が全員俺に注目した。


「今宵は私の招待に応じてくれた事は心より感謝する! さて何故君達を呼んだのかというと、誰よりも俺は君達に腹を立てている!」

 みくに対する怒りと孤児院に対しての怒りをぶつけ俺は叫んだ。

 確かに俺にとっては第二の家のような大切な存在。

 だけどだけど結局俺は………いや俺だけがまだ幸せになっていないじゃあないか。

 だから俺はちょっとでもこいつらに分かって欲しい。

 まだまだ俺みたいな不幸な奴が………いや嫌われてる奴がいる事を。

「それでは今から一つの命が消える所をご覧あれ」

 俺は内ポケットからマッチを取り出し、目の前に落とした。

 地面にマッチが落ちると事前に家の回りにガソリンを撒いていたので、そこから火が燃え上がった。

 下にいる人達は少し避難してパチパチと音がなる孤児院『ヒマワリ』を眺めていた。

 そしたら暗闇の向こうから見た事のある人物みくの姿が現れた。


 孤児院『ヒマワリ』を壊す事を知っているのは今この場では塚間とももしか知らない。

 事前に塚間とももには『ヒマワリ』を壊すって事を外部に漏らさないように口止めしてある。

 炎は強さをましごうごうと燃えていて、ちょっと近付いたら火傷所じゃすまない程に燃えているのをぼーっと眺めていた。

 一人を除いては。


「悟君なんでこんなことするの!?」

 一番初めの時みたいに、みくが代表して俺を見上げながら質問してきた。

 悟君か? 人生で初めて女の子に下の名前で言われたよ。 

 普通の恋人同士だったら嬉しかったんだけど、残念ながら普通じゃあないもので。

「ただ純粋に恨みを果たしただけだよ!」

 みくの質問に対して俺は嘘偽りのない言葉を返した。

 みくは何か喋っていたが、俺はみんながいない裏の方から階段で降りて、何事もなかったように家へ帰った。


 後日俺は放火魔という事で裁判沙汰になりそうだったが、塚間とももがしっかりと説明してくれたので俺は事なきを得た。

 あんな小さいのに物事ハッキリ言うし、本当にしっかりしている子供だよ。


 そして更に一週間が経ち一通手紙が届いた。


 その手紙を開くと

『ありがとう』

 とひと言だけ書いてあった。

 手紙の裏をみても送り人の住所は書いてなかった。

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