第23話高嶺の花⑪

 サルパークで1人取り残されていると、見慣れた顔が近付いてきた。

「あんたこの前言った事私に言ったの?」

 田中が俺の隣に来てサルを見ながら喋りはじめた。

 あのストーカー男が現れた時いろいろ言った事だろうな。

「あれ、馴れ馴れしく話しかけちゃいけないんじゃなかったっけ?」

「もういい」

 田中は踵を返して戻ろうとした。 

「お前の事じゃないよ。自分の怒りをぶつけただけだよ」

「あっそ」

 田中は再び歩きだし、俺の目の前から消えていった。


「おはよう」

 次の日になり教室に入ると開口一番、個人ではなく、クラスのみんなに挨拶した。

 クラス中からざわめきが3秒消えたが再びざわめきはじめた。

 後ろを振り向くと松本が親指を立ててグッジョブとやっていた。

 

 好かれ道4日目のことである。

「挨拶は絶対大事だからやって下さいね」

「いつもやってたんだけどね」

「私が学校にきた時から挨拶したの見たことありませんでしたよ」

「いや、してたよ」

 してたよ心の中で。

 1人の生徒が入ってきたら心の中で、誰よりも早くおはようって。

 まさに嫌われ者ではなく模範になる生徒だろう。


 クラスメイトからは誰も返答がなかったので、無言のまま席に座ったらどこからか、声が聞こえてきた。

「お……う」

 確かに声が。

「お…は…う」

 まただ。

 横を見ると照れ臭そうに田中がモジモジしていた。

 なんだトイレか。

 トイレに行きたいなら早く行ってきなさい。

「おはよう」

 発信源はこいつだった。

 まぁ返されたし一応いっとくか。

「おはよう田中」


 全ての授業が終わると先生から 「大型連休だからってあまり羽目を外し過ぎない様に」 と言われ今日一日の学校が終わった。


「大型連休かー。松本さん何か用事あるの?」

 嫌われる様に努力はしているが、いつもの調子を大分取り戻した松本さんとは登下校だけ一緒で、今は別々の家に戻っている。

「一応モデル仲間と一緒に旅行に行く予定ですけど」

 旅行かー。

 羨ましいな。

 俺は引き込もって毎年恒例の1人ゲームかな。

「吉良さんも良かったら一緒に行きませんか?」

「え?」

「守ってもらわないといけないので」

 俺の手を握り上目遣いでこちらを見てきた。

 きたー。

 もうこれいいよね。

 フラグ立ってるし、好かれてるでいいよね。

「まぁペアになってるしな」

「ありがとうございます。それじゃあまた明日、東京の空港で」

 手を離し、松本とは別れ道で別れた。

 俺は手の温もりを確認するかの様にグッパーと動かし名残惜しそうにした。

 松本よ。 

 俺の絶対領域に入り過ぎだ。

 無断で何度も。

 って空港ってどこ行くんだよ。 

 しかも何時集合かも聞いてないし。

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