第20話高嶺の花⑧

 放課後になると、担任の飯沼が教室に戻ってきた。

「さっきの男だが…」

 担任の目線は松本に向けられていたが、松本はずっと体を震わらせている。

「松本さんが説明出来なそうもないので私の口からお話しします」

 教壇の前に立ち先生が皆の顔を見て言葉を発した。


「さっきの男は松本さんのファンの1人でいつもプレゼントの中には1通の応援メッセージが入っていました。松本さんもいろんな物を貰ったので悪いと思ったので、返事を書いた手紙を1通男に送りました。そしたら男は松本さんは自分に興味があると思って、一方的に好意をよせてましたが、それがエスカレートして毎日毎日松本さんの仕事終わりや、学校などの帰りを待ち伏せしてました」

 人に好かれ過ぎるのも考えもんだな。

「それで松本さんはあの人から離れる為に、前いた学校をやめてうちの学校にきたんですが、相変わらずクラスでひときわ目立つ存在になってしまい、また男性からたくさん好意が寄せられていたのを私はみました。それで私から提案があります。松本さんのペアは吉良君お願い出来ますか?」

 いや、俺ちょっと松本に向かって暴言吐いちゃったし、気まずいし。

「吉良君じゃないとダメなんですか?」

 俺の人生で誰かに頼まれた事はあっただろうか。

 絶対ないな。

「分かりました。やります」

「内容はですけど…」


 俺の部屋には今2人の人物がいる。

 1人は当然俺、もう1人は松本りほがいた。

 先生からの依頼は 『松本りほを嫌われ者にして欲しい』 という依頼だ。

 これは俺の体質的問題が非常に高く、いうなれば天性の物がある。

 だから努力でどうにかなる問題ではない。

 

 それよりも一日経った今でも体育座りでワナワナと震えている。

 よっぽど怖かったのだろう。

 ストーカー男が……俺かも知れないが。


「松本さん?」

「……」

 うちのクラスに入った時とは別人な位、暗い人になっている。

 もうこれで嫌われるから大丈夫なんじゃないの。

「松本さん」

「……」

 あれか。

 あらての俺に対するいじめか。


「嫌われる人はどこに行ったって何をしても嫌われる。逆に好かれる人はどこに行ったって何をしても好かれる」

 松本さんは相変わらず反応がない。

「お互いの人生はどこでどうなったかなんて分からない。だけど一つだけ共通点がある。人間関係はもう懲り懲りだということ」

 松本の体がピクッと反応した。

「だから少しでいいから教えて欲しい。好かれる方法を」

「いいですよ。ただ私にも教えて欲しい。嫌われる方法を」

 松本は立ち上がり手を差し伸べてきたので、握り返した。

「もちろん」


 今日から俺は変われるかも知れない。

 嫌われ者からクラスの人気者に。

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