第19話高嶺の花⑦

 田中司はいつも朝学校に通学する時、車で通勤しているので、俺もその恩恵を受けていた。

「本当に金持ちってすごいな」

「普通だと思うけど」 

 これが普通だと思ってしまったら、俺の今までの生活が超極貧生活だという事になってしまうが。


 しょうもないことを思っていたら車は学校の校門前に到着した。

「この前も言ったけどあんまり馴れ馴れしくしないでよね」

「へいへい」


 教室に入るといつも以上に騒がしく、松本が出ていたファッションショーの事について質問責めされていた。

 表情は確認出来ないが、松本の声があまり聞こえないので相当疲れているんだろう。


 先生が来る前に教室の扉がゆっくり開くと、ナイフを持った男が現れた。

 それに気付いたのは俺だけ、男どもは松本に意識がいっていて、女性は友達同士で向かい合わせになって話している。

 その男はゆっくりと松本に群がっている男どもの中に入っていった。

「松本さん」

 俺の声は当然聞こえるはずもなく空気中に消えていった。


「死ねやー」

 その言葉と同時にナイフを松本に向かって突き刺した。

 皆突然の出来事で、体が止まっていた。

「ちくしょー」

 俺は自分の鞄を持ち松本の目の前に立ち、ナイフが鞄に刺さり、鞄とともにナイフを床に落とした。

「ハァハァ」

 皆沈黙し、俺の息遣いだけが聞こえていた。

「何で邪魔するんだよ?」

「そりゃー殺されそうな人いたら守るだろ」

「何してるんですか?」

 松本はワナワナと体が震えていて、唯一その男をみて言葉を発した。

「あんたのせいで人生狂わされた。だからあんたを殺す」

 松本を睨み、今にも襲いかかりそうにしていた。

 俺の嫌われセンサーが反応していた。

 この前の会場にいたのは、こいつだろう。

「恋人だったのか?」

「恋人のつもりだった。りほの為にいろいろな物を送り、いろんな人にこの子は最近オススメだと仕事の人に声をかけりほに仕事が増えればと思い努力した。だけどりほは何も答えてはくれなかった」

 クラスメイトはただその男を黙ってみていた。

「それってただの好意の押し付けなんじゃないのか?」

「そんな簡単な言葉ですますんじゃねー。ここにいるみんなも騙される。この女に何かやったて何も見返りなんてないんだからな」

「ハハハハハハ」

 俺は気色の悪い声をあげて笑った。

「何がおかしい?」

「羨ましいよ。誰かにこんなにも思われていて。羨ましいよ。自分が努力しなくても人が寄って来てくれて。羨ましいよ。嫌われた事が一度もなくて」

「あんた誰に「松本さんよ」

 途中で話しに割って入ってきた、田中の言葉を遮り松本をみた。

「自分はそうやってワナワナと震えていて、他人が助けてもらえると思ってるんじゃないのか。俺は一度だって好かれた事がなくただただ嫌われてきた」

 皆今度は黙って俺の言葉を聞いていた。

「クラスで1年間一緒にいたって名前だって覚えてもらえない、クラスでは皆から距離をとられ、いつも1人でご飯を食べていた。誰かが話しかけてくれればそれは同情で、実際は行きたくないのに仕方なく来ている。なぁ、ストーカーさんよ殺すんなら、松本じゃなく俺を殺してくれねぇーか」

「はい。そこまで」


 先生達が入ってきて犯人は取り押さえられ、この場は無事に終わった様に見えたが、1人の少女は今だに震えていた。

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