第18話高嶺の花⑥
俺達は東京の風景が一望出来る展望レストランに来ていた。
「俺の食事代まで払って頂きありがとうございます」
「若いもんが気にするなガハハハ」
と笑い田中の父親は豪快に了承してくれた。
お金持ちはケチと言うか田中達の両親はそんなことはなかったが、田中だけは俺を睨んでいた。
もう、やだこの無言の圧力。
メニューを開くと一番安くても何千円コース。
ここ最近は普通に食べれているが、ちょっと前まで夕飯が食パン一枚だった事もざらだった俺には高すぎるご飯。
自分では高級すぎて選べなかったので、田中家達と同じメニューを選ぶようにした。
田中家は常連なのか、メニューをみないで店員さんに会釈をしたら了解したと言わんばかりに厨房に消えて行った。
運ばれてきたメニューは高そうな分厚いステーキで、右手でナイフを持ちステーキを切って、左手でフォークを刺し口の中に運ぼうとしたら、窓際の席から大きな声が聞こえたきた。
「何で俺じゃあダメなんですか!?」
一瞬大きな声で身体が怯んだが俺は気にせずに口の中にステーキを運ぼうとしたら、田中が俺の肩を掴んできた。
温かい。
これが人の温もりか。
いつも距離を取られていたので、これは嬉しい。
「ちょっとあれって松本さんじゃない?」
松本さんよりも肉が優先だ。
「ねぇってば」
昨日はずっと睨んだくせして、いきなり気安く喋りかけてくるんじゃねーよ。
俺の掴んだ肩を激しく揺らすので、肉が口の中に入らない。
「ちょ…ちょっとやめろよ!」
「あの男松本さんに手を出しそうな雰囲気だから止めてきて」
ただの痴話喧嘩だよ。
「早く行って」
あーめんどくせー。
ギャルの割にお人好しの奴だ。
「お前がいけよ?」
「こんな高いお肉食べれるのは誰のおかげ」
田中が肉の力で俺より優位に立とうとしてきた。
「まだ食べて無いんだけど」
「いいから行ってきて」
田中がさらに激しく揺さぶってきたので、ナイフとフォークをテーブルに置き松本がいるテーブルに近付いた。
「何か様ですか?」
男が嫌そうに俺を見てきた。
近付いたか何をどうしたらいいか分からない。
今目の前にいる男性が松本に手をあげると言われたから来たがそんな感じはない。
「お楽しみ中の所すいませんでした」
その一言だけいい残し俺は自分の席に戻ろうとすると松本が手を繋いできた。
なに、今日だけで二回も人肌に触れられたけど、死ぬの。
ねぇ今日俺死んじゃうの。
「私の今の彼氏だから別れて下さい」
「こんな世間から嫌われそうな奴と君じゃあ似合わない」
何で俺が嫌われてるって分かったの。
何ですか超能力ですか。
しかも初対面で。
「とにかく私とは別れて下さい」
「俺がお前にどんだけ貢いだと思ってるんだよ!」
男はテーブルの上に並べられた料理を手で払ってガシャガシャガシャと音をたてて食器が床に落ちた。
これドラマでよくあるシーンの一部が目の前で再現されるなんて。
その音を聞いて店員さんが慌てて俺達のところにやってきた。
「ちょっとお客様他のお客様に大変ご迷惑になりますので」
店員さんがマニュアル通りの対応をすると松本の彼氏はなぜか知らないが、俺を睨み付けてた。
こわ~。
俺今日何回睨み付けられるんだよ。
「お前りほの何だ?」
「何だと言われましても、ただのクラスメイトなんですけど」
「ただのクラスメイトが手を繋ぐ訳ないだろ」
俺は思い出したかの様に松本の手を慌てて離した。
「この野郎」
と言われ顔を殴られると俺は倒れ、男は早足でこの店を出て行った。
「イテテて」
目が覚めると松本が一礼をしていた。
「ありがとうございました」
と松本は顔を上げると天使の様な笑顔が向けられた。
「気にしないで。一度はペアになった中だし」
松本はさらに深々と一礼してこのお店をでていった。
「男ってみんなそうよね?」
田中が今のやり取りをみていて嫌味がある全開のいい方で言ってきた。
「なにがだよ」
「やっぱり男は見た目何だって思ってね。すごいさっきもヘラヘラしてたし」
「してない。え、何やきもちってやつ?」
その質問に対して答えはなく田中が無言でまた圧力をかけてきた。
「何かすいませんでした」
圧力をかけられたせいか、急に食欲がなくなり何も食べないまま、田中家に帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます