第10話孤児院⑨
俺の家は学校から電車に揺られ四十分の場所にある。
ここ最近は『ヒマワリ』が家みたいな感覚だったから、自分の家がやたら遠く感じたが、相変わらず半径三メートルの距離感は相変わらず健在だった。
もう本当に何でこれはいつもいつも発生するんだよ。
家も周りの家と馴染めないでいるのか、俺の家だけ他の家と比べると距離が遠く感じる。
感じるというか間違いなく遠いのだが。
家が多く建ち並ぶ民家から離れ崖の上に一輪の花が咲いてるかのような寂しい場所に建てられていた。
手入れのされていない庭、そして古びた外装。
俺は久しぶりに自分の家のドアノブをひねり中に入ると、部屋に服が散乱し、飲み終えた空のペットボトルが転がっていた。
それでいて少し部屋全体が埃っぽい。
家は人が居ないとどんどん劣化するというが、まさにその通りだったと思える光景だった。
自分の部屋に行くと机の上に一枚の手紙が置かれていた。
その手紙を手にとると妙に新しく、埃を被ってない。
最近この部屋に誰かが入って置いたのだ。
ちょっと怖いんですけど。
ポルターガイストとか止めてよ。
手紙を開くとこう綴られていた。
『この手紙を読んでるという事は私は学校にもういませんね。いろいろありましたね。楽しかった事も、つらい事も。カミングアウトしますけど、私………悟君のことが好きになっていました。私の作ってくれたご飯を美味しいって言ってくれた事や、たけると無邪気に遊ぶ姿、その全てが好きでした。手紙で私だけの気持ちを伝えるのは想いを押しつけてるかも知れませんが、言わせて下さい。
大好きでした』
俺は大粒の涙を机に零していた。
紙の上にも涙が落ち、徐々に染み込んでいき、紙の文字が薄くなっていた。
「…うっ……うっ………わーーー」
と大声で泣いた。
三歳児の幼児がお母さんに駄々をこねるみたいに泣いた。
泣き疲れて俺は寝てしまっていた。
時計を確認するとちょうど時計の針が0時を指していた。
俺はまた眠りについた。
再び目を覚ますと、時刻は朝の七時。
ここで学校に行く支度をしないと遅刻は確定するが、今の俺にとってはもうどうでもいい事だ。
学校に行ってもみくという人物はいないのだから。
俺は再び目を瞑り眠りに落ちた。
飲食をしない日が三日続き体も動かさずに寝ていたので、体力が落ちていると自分でも気付いたが、そんな事はもうどうでもよかった。
このまま何も食べないで死んでしまおうかなとよからぬ事を考えていると、それを打ち消す様に玄関からインターホンが鳴った。
体力がない痩せ細った体を無理矢理起こし玄関に向かった。
「はい。どちら様ですか?」
「担任の飯沼です」
俺を心配して来てくれたのだろうか。そんな気遣いはありがた迷惑だし、担任の名前だって今初めて知ったぞ。
だが俺は今、人と話す気分にはなれない。
「ちょっと今風邪気味なので帰って下さい」
「いいから開けなさい」
「……」
ここは無言で押し切ろう。
そうすれば先生も諦めて帰るだろう。
「月島みくさんがどこにいるか教えにきたんだけど」
その言葉を聞いた瞬間に玄関のドアを開けて先生を招き入れた。
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