第9話孤児院⑧
みくとの共同生活があれこれ十日間は続いていた。
「さてと夕食も食べ終わったし、寝ましょうか?」
「そうだね」
寝ると言っても同じ空間で寝るだけなので、それ以上の事はない。
もう完全に夫婦と錯覚してもおかしくない会話。
自分の中ではかなり仲良くなってるんじゃないかと思ってしまう。自分の中ではだぞ。大事だから二回言ってみた。
布団を敷く準備をしていたら玄関からインターホンが鳴った。
「こんな時間に誰だろう」
みくはひとり言を呟いて玄関に向かった。
現在の時刻は二十一時をまわっていた。
しばらく時間が経つとみくが話し終えて、こちらに帰ってきた。
「誰?」
「うん。ちょっとね」
明らかに先ほどまでとはテンションが落ちてるんですけど。バンジージャンプをした並みに急降下してるんですけど。
まぁ気にしてもどうしようもないんだけど。
「私今日ちょっと学校遅れるから先に行ってて」
「うん」
絶対昨日何かあったわ。おかし過ぎだろ雰囲気が。
「昨日の人誰?」
「だから何もないって!」
みくの言葉はいつもより声が大きくなっていた。
「何怒ってるんだよ?」
「別に怒ってないって!」
「いや、怒ってるだろ」
「いいから先に行ってよ!!!」
「はい」
負けた。
女の子に負けた。
完全無欠で負けた。
みくの鬼の形相を怖くて見れないので後ろを振り向かず、逃げる様に学校に向かった。
教室に入り周りを見るとペアになった人同士は楽しそうに談笑していてた。十日間という時間は確実にペアの人と仲良くさせていた。
俺は今日一人で教室に入ったのでそのまま自分の席に向かい突っ伏した。
一時限目が終わってもみくは学校にまだ現れなかった。
昼になってもみくの姿はなく俺は授業を受けてる意外は机に突っ伏していた。時々、ほんと時々だが昼休みとかにこうやって突っ伏しているとみくが後ろから声を掛けてくれる事がある。
俺は今日もそうなんじゃないかと内心少し期待していたが当然そんな事はなく昼休みは何事もなく終わりを告げた。
日直が先生に感謝の言葉を述べると先生はいつもなら教壇の上から直ぐに離れようとするのに、今日はその場から離れずに浮かない表情を俺達に向けてきた。
「みんなに残念なお知らせがあります」
その一言でクラス全体が急にソワソワした感じがした。
その中で1番ソワソワしているのは間違いなく俺だろう。
「
「え」
衝撃的な言葉を聞いたせいで、思わず小声が漏れた。
突然過ぎだろ。
俺にひと言もなしで。
やっぱり昨日訪れた人はみくの里親になる人だったんだ。
もっと朝問い詰めていたら。
「それでみくさんの『ガチャガチャ』
と自分の机に体が当たりながらも強引に出入り口に向かい、先生の話しを最後まで聞かずに教室を飛び出した。
一つだけみくがいる可能性の所に向かった。
下駄箱を開け靴を履きかえ人の目も気にせずに一直線に教会に向かった。
教会の扉を開けると、人の姿はなかった。
「あれ…ハァ…卒業する時ってここじゃなかったっけ」
誰に問う訳でもなく発した言葉に返事は当然なかった。
両膝に手をついて息を整えもう一度見渡したがみくの姿はない。
「みく!」
俺の声はガラス張りの教会に反射して再び自分に返ってきた。
本当にどこいっちまったんだよ。
重い足取りで『ヒマワリ』に着き中に入るとみくの姿はどこにもない。
いつもの美味しい食事や、一緒に寝る事や学校に登校する事もない。
そして俺がここに来る理由もなくなったのだ。
孤児院施設『ヒマワリ』の扉を閉めて、重い足取りで俺は自分の住むアパートに向かった。
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