第2話孤児院
お互い目が合うと数秒間制止した。
達人同士がどちらが早く抜刀するかを見合うかのような距離感と沈黙。周りの声も耳が入らない位、俺は集中し相手の目を睨んでいた。
こんな数秒なのに何時間も立っている感覚になり、このまま均衡状態が続いても疲れるので、先に俺が沈黙を破ることにした。
「···何番だった?」
久しぶりに教室で人に声を発したので、しっかりと聞こえているか気になったが、嫌そうな表情をしたので聞こえているみたいだ。
「二番」
残念だなどうやら俺と同じ番号を引き当ててしまったみたいだな。
しかもその女性は先ほどまで俺達の代わりに代弁してくれていた女性だ。
「俺も二番だからよろしく」
二人の距離は1メートル離れていて握手をしようとしたが手が届くわけもなく、空気に握手をした。
「それでは今からお互いが仲良くなったなと思えるまで寝食を共にして下さいね。以上」
先生はその言葉だけをいい残して教室をあとにした。
クラス中から悲鳴とブーイングの嵐がクラス全体を包んだ。
「それともしも嘘やいかさまをしたら進級はさせられないからよろしく」
先生はクラスのドアを半分だけ開け顔を教室に突っ込んでそれだけいい残すと、今度は完全にどこかに消えて行った。
クラスの皆は動揺を隠せないままどうしようか? といった表情をしていたが、取り敢えず先生の方針を従うべくチラホラとペアになった人と教室を後にしていた。
教室にポツンと残された俺達は取り敢えず無言のままお互い目の前の人と一緒に帰宅することにした。
半径1メートルの距離を保ちつつ俺達は学校の近くにある公園のベンチに座っていた。
これは
だが実際は消して埋まる事はない距離感を保っていた。
「…こんなことになって大変だよね?」
「…」
先ほどは言葉を返してくれたが今回は無視。
あれか、さっきは先生がいたから一応気を遣って返したが、今回は二人だけだから話さなくていいということか。
俺だって気を遣って喋っているのに、無視されたらたまったものじゃないぞ。
お互いの言葉が交わされことはなく時間だけが過ぎ、日が徐々に落ちてうっすらと辺りが暗くなっていた。
「そろそろ帰らない?」
その言葉に身体が『ピク』っと反応した様に見えた。
「帰るってどこに?」
女子高生は怪訝そうな表情で俺に質問してきた。
「家にだけど」
その言葉を聞いた瞬間女子高生は一瞬気持ち悪いと思ったのか、身体が少し震えた様な気がした。
「どっちの家?」
「俺今ひとり暮らしだからちょうどいいけど」
自分で言っていて何がちょうどいいかは分からないが、何となくそう言っていた。
「私の家にしましょう」
あれだろ。
さっき震えた原因は俺の家に来たら何されるか分からないけど、自分の家なら襲われる事はないってやつだろ。
襲う襲われる前にこの、距離感があるからどうしようもないのだが。
「まぁ俺は別にいいけど」
公園のベンチから移動すると学校からさ程離れてない距離に女子高生の家が存在していた。
「これがお前の家……か?」
「そうだけど」
キャンプ場とかでよく見掛ける丸い木が何本も使われているログハウスのような形。その玄関の上には孤児院施設『ヒマワリ』とプレートが付いていた。
親に捨てられた行き場を失くした子供達が集められ る施設だ。
「お前も孤児だったのか?」
「まぁ知らないのも無理ないわよね。そんなに関わってもなかったし。それよりも中へ入りましょう」
そんなにって言うニュアンスだとちょっとだけ関わった事がある感じにとらえてしまう。
ここは全然関わってないが正確だと思う。
実際に一年間同じクラスで一度も···いや一秒足りともお互いの視界には映ってなかったと思う。
女子高生はドアを片手で開けお先にどうぞと言わんばかりに俺を招き入れた。
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