211話_サキュバスと眠れるはずのなかった夜

「殺せ、いっそ殺してくれ……」


僕は、毛布にうずくまりながら、呪詛のようにブツブツと呟いていた。


自分の性癖を声高らかに宣言される、というのはとてつもなく恥ずかしいものだということを思い知らされていた。


それに加えて、実は【自分が隠していたという内容を知った上で彼女達は接してくれていた】というのが、尚更恥ずかしさを増大させる。


なんだよ、皆知ってたのかよ。知らないでほしかったよ……。


その後も、僕の性癖は次々に暴露されていき────。


「シオリの好きな下着の色は?」


「黒、または透けてる下着ですわ」


「正解!」


「だからなんで知ってるんだよ~(シクシク)」


僕に人権はなかった。フルボッコ状態である。そして、また全て正解というのがなんとも…。言葉にしたことはないのだが。


「シオリが好きな女性の服装は?」


「厚着とニットのセーター……」


「ソフィアくん、正解!!」


「ウワァァァァ」


耳を塞いで転げ回るが、全部正解していてなんともいえない気持ちになる。いっそここから消えたい。


消してくれ、頼む。


「シオリのよく見るムフフな動画サイトは?」


「ふぇちこれちゅーぶ」


「はい、ミュウくん正解」


「だからぁぁあなんでだよぉぉお」


羞恥心の塊と化した僕は、小さく小さくうずくまっていた。ちなみに、ふぇちこれちゅーぶは数少ないπ(ぱい)スラッシュの画像がたくさん集められており、重宝しているサイトだった。


と、そんなどうでもいい情報は置いといて。


気付けばレティ2問正解、ミュウ2問正解、ソフィア2問正解という状況になっていた。僕は6回性癖を暴露されたのか……。


白目をむきながら、次の問題を聞く(しかない、というのが本音だが)。次の問題でようやく終わる、いっそ楽にしてくれ……。


しかし、ここで少し雲行きが変わってきた。シェイドがただで終わらせるような守護天使ではなかったのである。


「全員、次正解すれば優勝ということで、次は○×問題です。今から3人それぞれ○×の札を上げてもらいます。正解したら次の問題に持ち越し、外れた人はその時点で失格となります」


「なによ、3問先取じゃないじゃないの」


「まぁまぁ、皆にチャンスを、というわけだよ。それでは、問題です」


「(あぁ、また僕の性癖が暴露されるのか……)」


と目を閉じて毛布にくるまる。いっそ、この温もりのまま眠ってしまいたい。


「シオリのことが大好きなソフィアくん。彼女は時折サキュバスの能力が暴走してしまい、シオリに抑えてもらうことがあります」


問題の毛色が変わったな、と目を開けるとピクッとソフィアの体が反応したのが見えた。徐々に耳が赤くなるのが遠目でもよくわかる。


「そんなソフィアくんですが、サキュバスの能力が暴走していない時に、シオリにキスをねだったことがある。○か×か?」


ソフィアの顔が真っ赤になっている。顔を上げられずプルプルと震えているのがわかる。


「シ、シェイド!?な、なんですか、この問題は!?」


思わず声を上げるソフィア。そりゃそうだろう。まさか矛先がそっちに向くとは思っていなかっただろう。そう、その恥ずかしさだよソフィア。


「何ってシオリに関する○×問題だよ」


「で、ですが…!」


「さぁ、皆さん○×を上げてください!」


皆、×の札を上げる。


「正解!!」


「当然でしょう」


「こんな簡単な問題。何を言っているのかしら」


誇らしげに語る2人。しかし、内心ソフィアは心臓が飛び出しそうなほどドキドキしていた。


何故なら、答えは○だったからである。それは自分がよく知っている。


ここ最近、めっきりサキュバスの発作は起きなくなっていた。起きなくなっていたのだが、純粋にシオリとくっつきたい、という欲求は大きくなっていたのである。


それがつい最近、シオリとどうしてもキスしたくて、誰もいない時にねだったことがあったのだ。


あったのだが、何故この問題が出てくるのか。シェイドは知っているのだろうか?恐る恐るシェイドの顔を見ると、なにやらにこやかにこちらを見ている。


「(シェイドは知っている……!!)」


ソフィアは直感でそう思った。この守護天使は試していたのだ、私があの瞬間に○の札を上げることを……!


でも、それは出来なかった。そしたら、今までのことも嘘ということにされそうで、そうしたらシオリと接触する機会を失ってしまうことになる。それはいけない。


ソフィアは顔を真っ赤にしたまま、次の問題へと耳を傾けるのであった。

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