210話_サキュバスと眠れぬ夜夜夜

レティの提案したものは、聞かされる本人にとっては恥ずかしくてたまらない代物だった。

3人分の愛の告白なんてものを聞いた夜には、しばらく彼女達と目を合わせられそうもない。


「流石にそれは、恥ずかしいというかなんというか……」


「あら、そうですの?私は旦那様にお気持ちを知っていただく良い機会かと思いましたのに」


どうしてこうも、当然という面持ちで返答できるのだろうか。たじろいでいるこっちの方が恥ずかしく感じてしまう。


「でも、こんな大人数で、ねぇ。ミュウだって恥ずかしいだろ?」


「いえ、青女を完膚なきまでに叩きのめしてやるわ。私がどれだけシオリを好きなのか、格の違いを見せつけてやらないと」


聞く相手を間違った。ミュウに聞いたところでこう返ってくるのはわかりきっていたはずなのに。


「ソ、ソフィアは恥ずかしいよな?」


「は、恥ずかしいですけど……今日はシオリは私のシオリなんだってハッキリさせないといけないですから」


今日はソフィアもおかしかった。止める人がいないよ。どうしよう、眠くなってきたし、もう正直静かに寝かせて欲しい。


「皆の言い分はわかった」


その時、隅で白旗二本を両手で交互に振っていたシェイドが立ち上がった。持っていた旗をひっくり返すと、そこには「解」「決」の2文字が。


「愛を語るだけでは優劣はつけづらいだろう。ここは、シオリをどれだけ知っているかクイズといこうじゃないか」


「「「クイズ???」」」


皆、シェイドの提案に疑問符で応える。


「左様。これから私がシオリに関するクイズを出す。どれもシオリのことを知り尽くしていないと出てこない問題ばかりだ。それに一番多く正解できたものを優勝としよう」


「なるほど……悪くありませんわね」


「いいじゃない、受けて立つわ」


「や、やりましょう!」


「……え~」


僕の嫌そうな顔とは裏腹に、3人の熱き戦いの火蓋が切って落とされたのであった。



◆◆◆◆◆



「それでは、【夜中のチキチキ!シオリどれだけ知ってるでショー!】」


司会用の席が用意され、パジャマを着たシェイドが自分でつけたであろうタイトルコールをする。


「(なんだよそのタイトルは……)」


という僕のツッコミも届くはずもなく、僕は解説者としてその横にちょこんと座る。


解答席、こちらも即席でつくられた席にソフィア、ミュウ、レティと並んで座る(とは言ってもベッドに仲良く座っているだけなのだが)


「この問題は早押し問題です。1問正解ごとに1ポイントゲット、先に3ポイントゲットした人の優勝です。お手付きした人は、次の問題には答えられません。それでは早速行きましょう」


シェイドはお手製のカンペを読みながら、問題を読み上げる。


「天寿宅の主、シオリくん。彼は青春真っ盛りの男子高校生です。そんな男子高校生なら誰もが通る道、ムフフな本の隠し場所はどこでしょうか?」


「!!?」


問題の後半の文に耳を疑っていると、ピンポン!とレティのボタンが押される。


「はい、レティくん」


「机の一番上の鍵付きの引き出しですわ」


ピンポーン!!


「正解!!」


「ちょっと待って!!!」


淡々と進んでいくクイズに待ったをかける。


「なにそのクイズ!!?っていうかなんで知ってるの!!?」


たしかにムフフな本は所有しているが、それは彼女達がいないことを見計らって隠したはずだ。


「旦那様のことで知らないことはありませんわ。ちなみに旦那様の所有されていらっしゃる本は『スーパーπ(ぱい)スラッシュコレクション』と『突き出したお尻を後ろから……」


「ストップ!!ストップ!!レティ、わかったから!!もう十分!!」


隠していた本の名前まで言われて完全に焦り出す。慌ててミュウとソフィアを見るが、ミュウは平然としたまま、ソフィアは顔を赤らめて目を逸らしている。


「え、2人とも……」


「知ってるわよ、それくらい。ねぇ?」


コク…(黙ってうなずく)。


「(………)」


3人にバッチリ知られていた。あまりの恥ずかしさに毛布にくるまり、頭隠して尻隠さず状態になる。


「シオリ、ちなみに私も知っていたぞ」


「言わなくていいよ!!」


毛布から顔を出し、必死に抗議する。


「もしかして、問題ってこんなのばっかりなの?」


「………さぁ、次の問題いきましょー」


「答えろー!!!」



◆◆◆◆◆



「さぁ、第二問です。準備はいいですか?」


「フグーッ!!フグーッ!!」


シェイドの持っていたカンペを奪い取ろうとしたが、返り討ちにあいガッツリ縛られてしまった。解説席でジタバタともがくが、3人ともシオリを助けると失格になると言われたせいで助けてくれない。


「ムッツリスケベのシオリくん。彼女達には直接彼手を出さない彼ですが、ひそかに気に入っているシチュエーションがあります。それはなんでしょうか?」


「フグーッ!!フグーッ!!」


自分の性癖暴露大会を終わらせるため、僕は今まで修行で培った力と天使化の能力を解放し、シェイドへと襲い掛かる。


「シェイドー!!」


しかし、それすらもシェイドのワンパンチであっけなくノックアウトされる。フローリングの冷たさを頬で感じ取る惨めさである。


「ぐっ……シェイド…お前……」


「解説者は元の席にお戻りください。さぁ、解答する方はボタンを」


ピンポン!


「はい、ミュウくん」


「腕におっぱいを押し付けられること」


「正解!!」


ピンポーン!!


僕の性癖が暴露されたことを告げる音が鳴る。


「ちなみに、膝の上に乗られるのも好きよね。圧迫好きなのかしら」


「それも正解です」


「言わんでいい!!」


「(シオリ、あれそんなに好きだったんだ………)」


ソフィアは自分の胸を見ながら、今仕入れた情報を記憶する。


「ソフィア、今の忘れていいからね」


「えっ!?あっ、な、何も聞いてないですから。大丈夫ですよ」


「(嘘だな……)」


「シオリ、わりと簡単な色仕掛けに弱いのよね」


「言わんでいい」


ミュウが横になっている僕の上に跨ってこちらを見る。ミュウの股間がグイグイと腹に押しつけられる。


「こういうのも好きでしょ?」


「………(嫌い、ではない)」


素直になれないムッツリスケベは、必死の抵抗虚しくまた性癖を彼女たちに晒していくのであった。




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