192話_恋焦がれ心情日和3

紆余曲折あったが、シオリとソフィアのデートも無事始まり、ミュウ、チャミュ、シェイドによる尾行活動も同様に始まったのであった。


2人が歩く数十メートル後ろを隠れながら観察する3人。行きかう人々は彼女達を怪訝けげんな目で見るが、そんなことはお構いなし。


「なんだか、いつにもましてよそよそしくないか?」


「そうね。シオリは気にしているみたいだけれど、姉様はシオリの方見られないみたいね」


右手にあんぱん、左手にはパックの牛乳を持ちながらシェイドとミュウが言葉を交わす。


ソフィアは、シオリとは反対の方の地面を見たまま歩き続けているのが見える。


はたから見ても、“なにかあったカップル”にしか見えない。喧嘩なのか、はたまた意見の違いがあったのか。


「思っていたよりも重症のようだな」


チャミュは心配そうに2人を見つめる。


「上手くはいっていないみたいだけれど、シオリがなんとかするでしょう」


「シオリに対する信頼は厚いようだが、果たしてどうなるやら」



◆◆◆◆◆



ソフィアとのお出かけは、つい最近にもしたはずだ。それは覚えている。


その時は、ソフィアが自分の腕にくっついてきたりと、わりと積極的な感じになったんだなと思っていたのだが───。


今、隣でそっぽを向いて歩いている彼女がどう思っているのか、さっぱりわからなかった。

何か気に障ることでもしてしまっただろうか。


………。


思い当たらない。服のことについて言ったのがいけなかったのだろうか。


……。


わからない。結論はわからないだった。


何か話題を……どんな話題がいいだろうか。


「今日、天気いいね」


「はっ、はい」


「……」


「…」


終わってしまった。


あれ、僕とソフィアってこんなにぎこちない関係だったっけ?シオリは、今自分の置かれている境遇に軽いパニック状態に陥っていた。



◆◆◆◆◆



パニック状態に陥っているのはソフィアも同じだった。シオリが隣にいるだけで、心臓の鼓動が大きくなっていくのを止められない。


とてもではないが、彼の顔を見ている余裕はなかった。手を繋ぐなどもってのほか。

昨日まで簡単に出来たことが、今日はとてつもなくハードルの高いことのように思える。


「(私、どうしちゃったんだろう……)」


意識しないように、しないようにと思えば思うほど、彼の顔が脳裏に浮かんでくる。

まさに悪循環だった。


「ソフィア?大丈夫?」


「あっ、はい!」


シオリに呼ばれて我に返る。何を話しかけられていたかは覚えていない。


「僕、何かしたかな…?」


「いえ……」


シオリが心配になるのもわかる。特に何もしていないのだから。それが原因ではないことは、十分わかっている。


自分がおかしくなってしまっただけなのだが、今それを自分の言葉で説明するのはとても難しかった。


結果沈黙してしまうことになる。


まずいとは思いつつも、2人にはこの事態を打破する術は持ち合わせていなかった。



◆◆◆◆◆



「全然ダメのようだな」


「全然ダメのようね」


「何もそこまで言わなくても……」


口を揃えて言う2人につっこむチャミュ。しかし、言いたいことはよくわかる。今のシオリとソフィアは、最初に会った頃よりギクシャクしているように見える。


「初めて会った頃の方がまだいいのではないか…」


「そんなにひどいのか」


「今までの姉様では考えられないくらいね。それだけ、パニックになることがなかったってことなのだけれど。姉様の対応力はなかなかに高いはずなのに」


「それすらも凌駕する事なんだな」


「……2人とも、楽しんでいないか」


「そんなことはないわよ。まぁ、今までに見たことのない姉様の反応に興味はないことはないけれども」


「シオリの対応力が試される時だな」


「やっぱり楽しんでいるじゃないか……」


チャミュは思わず呆れてため息を吐いた。

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