190話_恋焦がれ心情日和
とある日のこと―――。
それはミュウの唐突な提案から話は始まる。
ミュウが唐突なのは、いつものことと言えばいつものことだが。悩んでいるくらいなら行動する。それがミュウのモットーだった。
「えっ、デート?で、でも、シオリも急には…」
「そう、シオリと一緒にデートに行ってこようと思うの」
ミュウはニヤッと笑うと、部屋を出て行ってしまった。慌ててソフィアも後を追う。
「シオリ~」
ソフィアは焦った。ミュウは本当にシオリをデートに誘う気だ。
ソフィアは、ミュウとシオリがデートに行くのを耐えられるだろうかと思った。
前までなら、特に気にしなかったことなのに、今になってはそのような余裕は一切ないように感じられた。
「ミュウ、待って!!」
ソフィアは、気が付けばミュウに声をかけていた。ソファに座っているシオリと、その上に跨がるミュウがこちらを向く。
「ソフィア?どうかした?」
不思議そうにこちらを見ているシオリ。ミュウはどこまで話をしたのだろうか。
「えっ、あっ、あの……」
シオリの瞳を見ると、我を失いそうになる。慌てて目を逸らす。
「ソフィア?」
「えっと……」
しどろもどろになる自分が恥ずかしくて仕方ない。穴があったら入りたいくらいだ。
「シオリ、姉様がシオリとデートに行きたいって」
「ミュ、ミュウ!!?」
イタズラっぽい笑みを浮かべたまま、ミュウがこちらを向く。
「え、え?」
シオリは今の言葉がよくわからない、と言った顔をしている。
「ね、姉様」
「え、え、えっと……」
言葉が出てこない。頭の中が全て沸騰したみたいに、顔全体が熱く感じる。
「姉様もシオリと一緒の時間がとれなくて寂しいのよ、ちゃんと時間をつくってあげないと」
寂しい、というのは本当のことではあったが、改めて言葉にされると恥ずかしい以外の何者でもない。
「というわけで、明日シオリと姉様はデートしてきなさい、いい?」
「わ、わかったよ。ソフィアも、それでいいのか?」
コクリ。
ソフィアに出来ることは、黙って頷くことだけだった。
◆◆◆◆◆
デート当日。
ソフィアは何を着て行こうか、迷いに迷っていた。シオリに喜ばれるような服、というのが全然わからなかった。
いつもは肌の露出を隠す服を着ることが多いソフィアだが、今日ばかりは、少し趣向を変えた方がいい気がしていた。
見られることに耐性がついた結果の今なのだが、見てほしい、なんて自分が思うようなことになるとは。
とは言え、服のバリエーションがないのも事実。この服でシオリの隣に立ってよいものか。ソフィアは今までにない悩みを抱えていた。
「でも、シオリには聞かないで決めたいわ。だって……」
近くにいてシオリの好みがわからなかった、というのはソフィアにとっては、「あなたに興味がない」とシオリに言っているように思えたのだ。
勿論、シオリに興味がないことはなく、むしろその逆なのだが、自分を着飾るための情報を集めていたかというと、それをしていなかったのも事実。
彼の容姿の好みについては正直わからない。周りにいる子は美人ばっかりで自分よりもお洒落だ。そう考えると、どんどん自分に自信がなくなっていく。
どんより曇り始めたソフィアの表情を察したのか、ミュウは別な提案をすることにする。
「それじゃあ、あの女に聞いてみるっていうのはどう?」
◆◆◆◆◆
というわけで、チャミュを呼んで話を聞いてもらうことにした。
ミュウから訳も説明されずに、ただ「姉様が困っているから来て」と言われ、慌てて来たチャミュだったが、その内容が服を決めることだったので、いささか拍子抜けした表情を見せてしまった。
「それで、シオリくんが好きそうな服はどんな服かを私に聞きたいと」
「そういうこと、何かあるかしら?私が姉様に教えたものは全部却下されちゃって」
いかにもキャミソールのような透け透けのものや、ミニミニのスカートだったので、当然の如く却下。
「ソフィアの良さが伝わる衣装だと、やはり清楚な感じがいいだろうな」
チャミュは、自身の体を一回転させると、衣装を変化させて白いワンピースに着替えた。
背丈のあるチャミュだと、可愛いというよりも正直スタイルの格好良さの方が際立ってしまい、似合っているのかというと、少し無理矢理着せられているような感じが出てしまっている。
「……似合わないわね」
「なっ…!?」
自分でも、少しそうかもと思っていたところがあったので、軽い衝撃と共に、ミュウの言葉を受け止める。
「いや、まぁ、そこまでハッキリ言われるとな…いささか悲しいものがあるな」
「ミュウ、言い過ぎよ」
「でも姉様も似合ってないと思ったでしょ?」
「えっ、それは、そ、そんなことないわよ。チャミュはスタイル良いし、綺麗だし」
服については言及しない、嘘は言っていないのでセーフ。
「ソフィア、いいよ。元々こういう衣装はあまり似合わないんだ。ソフィアなら似合うだろう」
チャミュは、ソフィアに向けて衣装変化の技を施す。
小さな花模様があしらわれた白いワンピースに身を包んだソフィアが目の前に姿を現す。
「思った通りだ」
「姉様にはピッタリね」
ソフィアは、自分の変化した姿を、鏡で見回す。
「少し丈が短くないかしら…。それに、素足というのも…」
白いワンピースは膝丈で生足と、普段したことのない格好に戸惑うソフィア。
「大丈夫、街にはそういう格好の子もいる。ソフィアは元々色んな人に見られやすいとは思うが、じきに慣れるさ」
今のソフィアなら大丈夫。チャミュはそう思っていた。
「そう、かしら…」
「大丈夫よ、もう少し短くてもいいくらいよ」
「いえ、それはやめておくわ」
ミュウの意見をあっさり受け流し、ソフィアはチャミュに提案してもらった衣装でデートに行くことにした。
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