182話_せり上がる闇流

仄暗い穴の底からせり上がってくる闇。ミュウ、レティ、シェイドの3人は闇から逃げるために上に向かって走り続けた。


「青女、あんた足止めしなさいよ!!」


「ゴシック女こそ、私が逃げ切るまで時間を稼ぎなさい!!」


2人は互いの足を引っ張りながらも、闇から逃げ切るために必死に走る。


罵詈雑言を眺めるのも、シェイドにとってはいつもの可愛いやり取りにすぎない。後ろから迫りくる闇は、上も下も、全てを飲み込んでいく。


じわじわと、決して遅くはなく、それでいて驚異的に速いわけではない。


だが、不気味な黒い物体は、触れただけで全てを失いそうだった。そんな恐怖が感じられた。


「まったく誰よ!下に行こうなんて言ったの」


「その言葉そっくりそのまま返しますわ」


「今更言ったところで始まらない。出口まで走るしかないな」


「このまま走り続けるのも嫌ね。シオリに会ったら癒してもらわないと」


「あなたにそんな権利はありません。さっさと闇に飲まれてしまいなさい」


「なんですって!」


闇から逃れる3人の後ろで、逃げきれなかった悪魔が次々と飲み込まれていった。闇に感情はない。ただ真っ黒い空間が広がるだけだった。


階層を上がる度、倒した悪魔達が道の端に見えている。貪欲な黒い物体は、倒れていた悪魔や物全てを飲み込み、更に上を目指していく。


「あれ、いつまで追いかけてくるつもりなのかしら」


そこそこ上に上がったはずだが、闇の勢いが衰える様子はない。螺旋階段から下を見下ろす3人。


「厄介な存在ですわね、本当に」


「もうそろそろいいじゃない?疲れたでしょ、青女も」


「私を突き落そうったってそうはいきませんわ。落ちるのはあなたです」


「私は落ちる気なんてないわよ」


「それにしても、底なしの闇だな。意識などないままに取り込まれていくだろうな」


「あんたはあんたでこんな時も冷静よね、ホント」


不気味さを放ったまま、上へ上へと這いずる闇。3人は、距離を離すために更に上へと向かっていく。


階段を上がりきり、大きな広間に出たところでミュウが何かを感じ取ったように足を止めた。


「ゴシック女、何足を止めているんですの!?」


「シオリと姉様を感じるわ」


ミュウは、何か確信めいたものを感じていた。


「本当ですの?」


「たぶん…こっち……」


ミュウは1人でに走り出す。


「あっ、ちょっと、待ちなさい!」


「ミュウは何かを感じたようだな。匂いでも嗅ぎつけたのか」


「匂いって、犬か何かですの」


呆れたように後を追うレティ。


「シェイド、少し気になっていることがあるんですが」


「なんだ?」


「この先に旦那様がいたとして、行き止まりだったらどうするんですの?」


「それは考えていなかったな」


「八方塞がりじゃないですの!!」


レティの嫌な予感は当たっていた。


ミュウが扉を開けて中に入った先に、シオリとワイバーンが戦っていたのだ。しかし、明らかにここで行き止まり。


このままでは全員飲み込まれる。


「旦那様!!」


「シオリー!!」


レティもミュウも、シオリの元へ駆け出していた。


シオリを捕まえようとしていたワイバーンは突如横から現れた敵の攻撃を避けられず、モロに打撃を食らう。


「レティ、ミュウ!!それにシェイドも!!無事だったのか!!」


「旦那様、お会いしたかった―――ってこら、ゴシック女離れなさい」


「あんたこそ離れなさいよ」


「あー、わかった、わかった。2人とも、とりあえずここをなんとかしてからな」


シオリはレティとミュウをひょいと摘まむと起き上がる。


「シオリ、こんなことをしている場合じゃないわ。闇が下から迫っているんだから」


「闇?」


「ええ、とてつもなく大きな闇そのものです」


イメージが沸かず疑問符を浮かべる僕。


「それがどうやばいんだ?」


「説明は後ですわ。とにかくここから脱出しましょう」


そうこうしているうちに、闇が扉のところまで迫ってきていた。


「もう追いついたんですの!?」


「来てしまったみたいね」


「なんだありゃ!?」


「あれが闇ですわ。触れたら最後、全て飲み込まれてしまいますわ」


万事休す、どう逃げようか考えているところに、ワイバーンがゆっくりと闇に近付いていく。


「バベル様、ついにここまで…。あと少し、あと少しです」


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