183話_禍々しき黒の怨念

「おい!!闇に飲み込まれるぞ!!」


僕の声など耳に入らなかっただろう。だが、飲み込まれたのはワイバーンではなく、闇の方だった。


闇に取りこんだワイバーンは身動きひとつせずにその場に立ち尽くしていた。それが、かえって僕達には不気味だった。


これから何が起こるのか全くわからない。まともに戦うことが出来るのかさえも、判断出来なかった。


「どうなっているんだ?」


「わからない……。予想外の展開だ。私達はさっきまで、あの大量の闇に追われていた。それが、奴が闇を全て取り込んでしまうとはな」


「さっきまで全てを飲み込んでいた闇なのよ…。エネルギーの量は測りしれないはずなのに」


ドロドロだった闇は、少しずつ形を形成しているようだ。先ほどより、より人型に近くなっていく。


よどみを帯びたまま、硬く変質していくワイバーン。身の丈は3メートルほどで徐々に形づけられていく。


「オォオォォォォォ」


低いうなり声を上げながら、ゆっくりとこちらを向く。黒い体の中に、赤い核のようなものが浮いている。


「(倒せるのか……)」


僕の首を汗が伝っていた。得体のしれない不気味さが、体中に伝わってくる。早くここから離れた方がいい、直観はそう告げていた。


戦うべきではないと―――。


「シオリ、ここは退きましょう。この敵は、あまりにも危険です……」


ソフィアも、敵の危険性には気付いているようだった。僕の近くに来て手を握る。その手はとても冷たくなっていた。


「……わかった。どうにか脱出する方法を探そう」


その時、ソフィアの治療で回復したリュウキが起き上がる。


「先輩、何を!?」


「決まってんだろ。あいつを倒す」


「見たでしょう、あの禍々しい気を。あれは普通じゃない」


リュウキを制止しようとするが、彼女はそれを振りほどく。


「関係ねぇ…俺は今、あいつを殺さないと気が済まねぇんだ」


「……先輩」


「なんだよ。…うっ、てめぇ……」


その場に膝をつき、意識を失うリュウキ。僕の拳がリュウキの腹部にめり込んだ。彼女が怪我をしていなければ、気絶させることはできなかっただろう。


「シェイド、彼女を頼む」


僕はリュウキを抱えて、シェイドに渡す。


「シオリ、どうするつもりだ」


「やれるだけやってみる。あいつはどうやら僕を狙っているようだ」


黒く変質したワイバーンは、明らかに僕を凝視している。


「シオリ、私も手伝うわ」


「旦那様、私も」


ミュウとレティが近くに寄ってくる。


「2人とも……」


その瞳は力強い。言っても、聞かなそうなのは一緒に暮らしていてよくわかる。


「…手伝ってくれるか」


「勿論!!」


「旦那様のお力になるのが私の役目ですわ」


2人は嬉しそうな顔を見せる。


敵の能力は未知数。

だが、ここで止めなければ被害は更に拡大していくだろう。


僕は、大きく息を吸うと体全体に意識を集中させた。

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