172話_サキュバスと犯人の謎
クルモロに詳しい話を聞きに行くため、僕達は教えてもらった場所を訪れた。
そこは、4人目の被害者の家だった。
「ここが、ダイゾさんの言ってた場所か」
「どうやら被害者の家らしいな」
中の様子を探ろうとした時、丁度クルモロが中から出てきた。
「おや、2人はどこかで……」
僕のことを覚えてくれていたのか、クルモロと目が合う。
「クルモロさんに話があって来たんです。ダイゾさんに教えてもらって」
「なるほど、よいでしょう。少し場所を移しましょうか」
クルモロに誘導されて僕達は別の場所へと移動した。ベンチに座りながらクルモロに話を聞く。
「4人目の被害者もクルモロさんが発見したとか」
「えぇ、確かに私が第一発見者でした」
「今までの被害者もそうなんですよね」
「えぇ、そうです」
「その時、何かおかしなことはなかったですか?」
「私が見た限りでは有力な手掛かりはないですね。ただ、殺害の手法が全て統一されている。その手法が分かれば犯人を絞り込むことが出来ると思っています」
「被害者の年齢が若い人達ばかり、というのも関係は?」
「良く調べていますね。それも関連性はあると思っています。加えて、被害者は全て男性なんです。今までは単なる偶然かとも思っていましたが、これにも共通点があると私は踏んでいます」
「え、そうなんですね」
犯人はてっきり若いカップルを狙っていると思っていたが。男性を狙っているのなら、カップルの囮作戦は効果的ではなかったということか。それなら、いっそ僕だけで囮をやった方が早そうだな。
「天寿くんと言いましたか、この事件をこれ以上追うのは君自身の身にも危険が及ぶことになりますよ」
「それは、私達がいるから心配ない」
シェイドが僕の肩を叩く。
「その点に関しては大丈夫です。心強い仲間もいるし。天界に住む友人が安心できるようにしたいんです」
「なるほど、それは私も同感です。これ以上被害を増やすわけにはいきませんからね」
「クルモロさん、僕が囮になります。犯人を捕まえるのに協力してくれませんか」
◆◆◆◆◆
クルモロを説得した僕達は、次の日の夜に計画を実行に移すことにした。
その日は家に帰って、皆で夕食をとることにする。
レティが早めに帰ってきて夕食の準備をしてくれていた。ミュウも家に来ていて家事を手伝っていたらしい。憎まれ口を叩きつつも、2人の関係は霞郷の修行後から少し変わったように感じていた。
「旦那様、お帰りなさいませ。ご飯が先でしょうか、お風呂も湧いております。それとも、私、でしょうか」
つつましくも古典的なノリで出迎えてくれるレティ。本人はノリノリだ。
「何が、私、よ。シオリ、汗を流してあげるからいらっしゃい」
鼻で笑ったミュウが僕の手を引く。
「このゴシック泥棒猫!引っ込んでなさい!」
「それはこっちの台詞よ!」
「まぁまぁ、皆シャワーに入りたいことだし、長々と入っていられないだろう」
そこにシェイドが助け舟を出してくれる。こういう時にまともなことを言ってくれるのはありがたい。
「シェイド……」
「時間もない、皆で入ろう」
とんだ泥舟だった。
僕がNOともいいえとも言う前に、脱衣所に連行されて後はごった煮の状態で風呂に入ったのであった───。
「6人は多いだろ…流石に…」
「風呂場も大きくしないとな」
「そっちじゃねーよ。入る人数の問題だよ」
このまま突っ込み続けても
和食で健康に優しい品がずらりと並んでいる。
焼き魚にきんぴらごぼう、ほうれん草のおひたし、なめこの味噌汁、安心して食べられるものばかりだ。
塩分も控えめに調整されている。
健康面に関してはわりとうるさく言われるので、間食もあまりしていない。
「旦那様、お味はいかがですか?」
「うん、美味しいよ」
「ありがとうございます。お褒めいただき光栄ですわ。これはもう、今日の功労者は私、夜は旦那様と一緒でも誰も文句は言いませんわね」
「言うわよ。何寝ぼけたこと言ってるのよ。寝言はベッドで言いなさい」
「ムキーッ。このゴシック女が」
「料理は青女に任せたけれど、家事は私がやったのよ。それなら私にも権利があるでしょう」
「それでは旦那様の左腕を」
「怖い、やめて」
人をプラモデルみたいに分解するな。
「シオリくんも色々と大変だな」
「ならあんたはさっさと帰りなさい」
「ひどい……」
ミュウにさらっとあしらわれるチャミュ。
「(まぁ、私は最悪シオリくんのパジャマがあれば、事足りるしな……)」
匂いフェチは僕の持ち物をなんとかゲットできないか頭を巡らせていた。
「それで、本題なんだが、明日シオリ1人で囮作戦を行うことにした」
「なんですって?」
「落ち着け、ミュウ。話は終わっていない。陰では勿論私達がバックアップする。どうやら犯人のターゲットは若い男らしい。だから、シオリ1人でないと意味がないのだ」
「…そういうことね。わかったわ。でも、若い男が干からびるって、まるでサキュバスみたいね」
「そうそう………ん?」
ミュウの何気ない言葉に、僕は思わず聞き返した。
「ミュウ、今のどういうことだ?」
「え?サキュバスなら男を干からびさせることも出来るってことよ。まぁ、男じゃなくてもいいんだけれど」
「じゃ、じゃあ僕もあんな風に…」
なる可能性があったということなのか。
「シオリはそうならないわよ。姉様とも私とも、そういうことはしてないわけだし。そもそもシオリにはサキュバスの能力が効かないんだから」
「そうなのか」
その言葉を聞いてホッとする。
「フフフ」
「なによ、青女」
レティを睨むミュウ。
「いえ、ゴシック女が旦那様と深い仲ではないことがわかりましたので。フフ、フフフ」
「言っておくけどね。私とシオリは本気で愛し合っている仲なんだから」
「わ、私も、シオリとは本気です」
ソフィアも負けじと手を挙げる。
「で も、最後までは至っていないのでしょう?それはもう本気とは言えないですわね」
「言えるわよ、そんな浅はかな関係じゃないのよ」
「へぇえ?」
「あんた、叩っ斬るわよ」
チャキィン、と剣を取り出すミュウ。
僕とシェイド、ソフィア、チャミュは喧嘩から避難するため、テーブルの下に移動する。
「というわけで、明日の夜は囮作戦を決行するとしよう」
「わかった」
「各自、準備を怠らないように」
「上の喧嘩はどうするんだ?」
「まぁ、ほとぼりが冷めるのを待つとしよう…」
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